楽しい宿題
「……?」
数学の宿題をやっていたら、わからない問題に突き当たった。
これと似たような問題を、例題でやったような気がするんだけど……。
「次に行こう」
時間がかかりそうなので、あと回しにする。
『解ける問題からやったほうが時間短縮になる』って、りょーちゃんが言っていた。
一通りすべての問題を解いてから、わからない部分を集中してやっていく。
「うーん……」
行き詰ってきたので、教科書を参考にする。
例題を見ながらやっていけば、あとはなんとなるはず。
「……」
なんともならない問題が3つほどあった。
メッセージを送り、りょーちゃんに助けを求める。
『どうした?』
「数学の宿題の8個目の問題なんだけど……」
『図形の問題は、とりあえず補助線引いとけ』
「補助線……?」
求めたい値がAEとDBだから、ここら辺に三角作る……?
でも、この形だと意味がないし、他のところだとどう引けばいいんだろ。
こうかな?
いや、これじゃ意味ないし……。
「……」
しばらく考えてみたけど、答えは出なかった。
『こっちに来い』
「? りょーちゃん家に?」
『いや、ログインでいい』
「うん、わかった」
言われた通り、ゲームにログインする。
接続情報を読み込み、先ほどログアウトした場所に降り立つ。
「こっちだ」
待っていたりょーちゃんが、すたすたと歩き出す。
人ごみを避けながら、そのあとに続く。
ある程度人通りが少なくなったところで立ち止まり、地面に図形を描き始める。
問題8の図形だ。
「ココとココの比率が1:2。なら、ココとココは?」
「えーと……1:2?」
「だったら、こうしても同じになるだろ」
図形を描き足していく。
「んーと……ココとココが同じになるから、こっちの辺も同じになって……あっ!」
ようやく、答えらしき形にたどりつく。
「……4:3?」
「正解だ」
なるほど。
こうやって解けばいいんだ。
忘れないようにメモをして……って、ここはゲーム内だった。
がんばって覚えておこう。
「あと、問11もなんだけど……」
「点Pの速度は一定なんだから、グラフも一定になる」
「うん……?」
りょーちゃんに教えてもらいながら、苦手な点Pを攻略していく。
「こんな感じ……?」
「増える時と減る時があるから、2回なければおかしい」
「あ、そっか」
なんとか答えはわかったけど、覚えていられるか不安。
「あとでメール送る」
「ありがと」
フォローもばっちり。
あとは……。
「問3の答えは『18』になってないか?」
「えっ? えっと……たぶん、そうだったと思うけど……」
「ひっかけ問題だから違う」
「そうなの?」
「こうなっていたはず」
と、地面に数式を書いていく。
「……りょーちゃん、問題文が手元にあるの?」
さっきまでやっていたならともかく、りょーちゃんは授業中にやっていたはず。
「いや?」
「でも、問題や答えが、すぐ出てくるよね?」
「今日やった問題くらい覚えてるだろ?」
「そ、そうかな……?」
正直、まったく自信がない。
一部だけなら、覚えてるかもしれないけど。
……覚えてられるかな?
「格ゲーのフレーム表や、キャラ別コンボルートなんかは、覚えてるだろ?」
「それは……やってるうちに体が覚えるし」
「似たようなものだと思うが」
「そんなにすぐには覚えられないよ……」
とっさに判断ができるようになるまで、1週間とか1ヶ月とかかかる。
それだけ練習しても、試合になるとすぐミスしちゃうし。
「解き方だけ覚えていればいい。他にわからない問題は?」
「えーと……『兄を追う弟』の問題がわからなくて……」
ただ歩くだけじゃなくて、走ったり、自転車乗ったり、電車に乗ったり。
途中で速度が変わるので難しい。
こういう計算がすぐできるようになれば、弓の偏差撃ち(※1)に役立つかも?
「速度アップ武器(※2)持ってチャーアタ連打(※3)してると思えばわかりやすい」
「どうだろう……?」
身近な物に置き換えたとしても、そこからの計算が難しい。
「困ったら図でも描いとけばなんとかなる」
りょーちゃんに図付きで説明してもらい、1つずつ数値を出していく。
この時間の位置関係がこうだから、その5分後だとこうなって……。
うーん……。
……。
……。
「これで合ってる……?」
「合ってる」
「終わったー!」
両手を上げて、体を伸ばす。
ついクセでやっちゃったけど、ゲーム内だと特に意味はない。
「ごめんね。結局、ずっと付き合わせちゃって」
「それはいい。残りの宿題は?」
「国語は……1人でもどうにかなると思うけど、英語はちょっと不安」
「わからなかったら聞いてくれ」
「うん、ありがと。できるところまでは、がんばってみるよ」
頼ってばかりじゃダメだよね。
りょーちゃんは、もう自分の分終わらせてあるんだし。
再びログアウトして、自室に戻る。
「えーと……」
忘れないうちに、数学の答えを書き込んでおく。
ぴこーん。
メールが着信する。
約束通り、問題の答えが届いていた。
『ありがとう』と返信しておく。
「よし」
数学が終わったので、比較的得意な国語に取り掛かる。
得意といっても、数学と比べたらの話だけど。
かなり時間使っちゃったけど、夕食までに間に合うかな?
急いでやれば、なんとかなるはず。
「……」
と思ったけど、最初の問題からつまずく。
古典は、ちょっと……。
りょーちゃん先生は『全部覚えればいい』と言っていた。
うん。
それができたら、世の中の学生は苦労してないと思う。
じっと見てても宿題は終わらないので、少しずつ進めていく。
「……?」
『~だ』で終わるのが形容動詞で、『~ようだ』は助動詞だっけ?
助詞なんかも混じってくると、区別がややこしい。
りょーちゃんに聞きたくなるけど、そう何度も迷惑かけるわけにもいかない。
教科書を見ながら、なんとか埋めていく。
「あ」
時計を見ると、すでに予定の時間を過ぎていた。
そろそろ、ご飯の用意しないと。
国語はだいたい終わったし、英語はまたあとにしよう。
台所に行って準備をはじめる。
今日は時間もあるし、ちょっと豪華にしちゃおうかな。
「たっだいまー」
だいたい作り終えたタイミングで、お母さんが帰ってきた。
土曜日だからか、いつもより早かった。
「おかえりなさい」
「ちーちゃん!」
荷物を投げ捨て、抱きついてくる。
「いいニオイがするー」
「今ご飯作ってるから」
「食べる!」
「もうちょっと待ってて。あと、ちゃんと手洗いしてこないとダメだよ」
「はーい」
その間に、料理を並べていく。
おなか減ってるみたいだし、このまま夕食にしちゃおう。
「ごっはんーごっはんー♪」
「今日はデザートもあるよ」
「ホント!? ちーちゃん愛してる!」
「ちゃんとご飯食べてからだよ?」
「はーい」
2人で夕食を食べ始める。
「あ、取引先の新しい子に、お弁当ほめられたよ!」
「今日のは普通だったと思うけど?」
作り置きがメインだったから、見た目も地味だったし。
「ちゃんとお弁当作ってくるなんて、えらいねーって」
「違う意味でほめられてるような……?」
また学生のバイトだと思われたんだろうか。
初対面の人だと、そういうこともよくある。
「うちの子が作ってくれましたって言ったら、すっごく驚いてたよ!」
「あー。やっぱり、学生と間違われていたんだ」
「ちーちゃんの写真見せたら、さらにびっくりしてたよ!」
「写真は、ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「だいじょーぶ! どの角度から撮っても、ちーちゃん天使だから!」
「そういうのが恥ずかしいんだけど……」
誰これ構わず『うちの子見て見てー!』と写真を見せるのはやめてほしい。
赤ちゃんのころならわからないでもないけど、ボクだってもう中学生。
見せられた人も、反応に困ってしまう。
「姉妹にしか見えないって言われちゃった。小さいころのちーちゃんを見せたら、納得してくれたけど」
「小さいころの写真も持ち歩いているの?」
「0歳から今までの全記録を持ち歩いてるよ!」
「恥ずかしい……」
持ち歩くのは自由だけど、なるべく見せないでほしい。
たまに変な写真を撮ってるし。
「ただ、娘さんとそっくりだねーって言うもんだから……」
「違うって言っておいた?」
顔がお母さんと似ているせいか、たまに妹とか娘と勘違いされることがある。
ちゃんと見れば、そうじゃないってわかるはずなのに。
「うん。ちーちゃんのほうが、ずっとかわいい! って訂正しておいたよ」
「そこじゃないよ!」
誤解されたままだよ!
お母さんがそんな調子だから、近所の人にすら『女の子だと思ってた』と驚かれたりするんだよ!
「なまらかわいい?」
「言い方の問題じゃなくて」
「?」
「過ぎたことだからいいけど……」
もう少し背が伸びれば、こういうことは自然となくなるはず。
早くりょーちゃんみたいに大きくなりたい。
動かないでくれ点P。
仲良く一緒に家を出てくれ兄弟。
りんごとみかんを買ったらレシート取っといてくれ。
※1、偏差撃ち:相手の移動先を予測して、ちょっと先を狙うこと。
遠距離職必須のテクニック。
現実世界で説明すると、朝のトイレであらかじめそそり具合や分岐先を読んで角度を調整しておくこと。
かなり熟練した読みが必要になるので、多くの場合は生暖かいものを足に引っかける結果になる。
※2、速度アップ武器:移動力アップ、攻撃速度アップ、スキル発動速度アップがある。
この場合は、移動力か発動速度のどちらか。
クローズドベータの頃は移動力を上げまくると『100メートル2秒』くらいで移動できた。
残念ながら今は修正されてしまったので、人よりちょっと速い程度になっている。
現実世界で説明すると、何度目をこすっても家を出るはずの時間を指している目覚まし時計。
※3、チャージアタック:5メートルくらい前方に突進するスキル。
スキルの出始めをキャンセルすると、走るより早く移動できる。
キャンセルのタイミングは、武器を振り下ろしてチャージ動作に入る瞬間。
ちょうど相手に尻を向けるタイミングになるので、尻を前方に突き出したまま飛んでいくことになる。




