お買い物
「ごめんね。付き合ってもらっちゃって」
「筋トレのついでだ」
寝間着からジャージへと着替えてきた。
言葉通り、筋トレするつもりらしい。
「リアルステータスって、そんなに重要?」
「スキルにもよるが、最終ダメージで10%近い差になる」
「結構大きいね」
ステータスや装備が煮詰まってくる後半では、10%の差は大きいと思う。
ずっとゲームに張り付いているより、リアルで鍛えたほうが効率がよいという可能性も。
「でも、リアルのほうは、そう簡単に上がらないよね?」
「何もしなければ下がっていくからな」
「そこが問題だよね」
一度頑張ればそれで終わり、というわけにはいかない。
上げたら上げたで、維持するための努力が必要になる。
「りょーちゃんの『力』って、今どのくらい?」
「リアステだとC」
「りょーちゃんでもCなんだ……」
このゲームをする前から鍛えているし、大人顔負けの力がありそうなんだけど。
「Aに上げるなら、力士クラスが必要」
「それは……大変そうだね」
ちょっと鍛えたくらいでは、どうにもならなそう。
ボクなんか、一生かかっても到達できる気がしない。
「ちなみに、支援だと何から鍛えたらいい?」
「勉強」
「あ、うん……」
必要なことには違いないので、じっくりがんばっていこう。
「あら? 千里ちゃんと……りょう君?」
スーパーに着くなり、声をかけられる。
3軒隣に住んでいる、町田さんの奥さんだ。
「こんにちは、町田さん」
「あらまぁ、しばらく見ない間に大きくなって。千里ちゃんは……小さいままだけど」
「……」
りょーちゃんと比べたら、小さいけど……。
「今日はデート?」
「買い物です」
「あらあら、手料理ふるまっちゃうの?」
「それは、さっき済ませてきました」
「あらあら、うふふ……」
「?」
意味ありげに微笑んでいる。
「そういうことなら、邪魔しちゃ悪いわね。どうぞごゆっくり~」
「さようなら」
手を振って別れる。
「いつも楽しそうだね、町田さん」
「そうだな」
お母さんとも、よく立ち話をしている。
笑顔を絶やさず、明るい人だ。
「何を買うんだ?」
「えーと……」
あんまりゆっくりしてると、りょーちゃんの迷惑になっちゃう。
手早く買い物を済ませちゃおう。
「重くない?」
帰り道。
両手に買い物袋を持ったりょーちゃんに聞く。
牛乳やしょうゆが入っているので、かなり重いはず。
「これくらいじゃ負荷が足りない」
「そうなんだ」
ボクだったら、休憩しながらじゃないと運べない。
毎日筋トレをやっていたら、ボクもそんなこと言えるようになるのかな?
もしそうなれたら、日々の家事がはかどりそう。
「そういえば、力以外のステータスも鍛えてる?」
「リアステ強化用のアプリが出てるから、それはやってる」
「そういうのがあるんだ」
ちょっと気になる。
あとでやってみようかな?
「ボス狩りとアプリを往復している廃人もいる」
「がっつりだね」
ゲームのために、ゲーム以外のことをする。
効率を追い求めていくと、そういうプレイスタイルになるのかも。
「ここまでで大丈夫」
家の前に着いたので、買い物袋を受け取る。
「手伝ってくれて、ありがと」
「昼飯の礼でもある」
「それは気にしなくてもいいのに」
ボクが好きでやってることだし。
「このあとは、帰ってすぐゲーム?」
「少しこの辺りを走ってく」
「そっか。じゃあ、また夕方くらい?」
「ああ」
「気をつけてね」
りょーちゃんを見送ってから、家の中に荷物を運ぶ。
特売品を安く買えたので、今日は豆腐ハンバーグにしよう。
必要な物を手前に置き、他の物を冷蔵庫に詰め込んでいく。
「よいしょ」
忘れないうちに、布団を取り込んでおく。
ふっかふか。
このまま横になったら、うっかり寝ちゃいそう。
「よし」
準備ができたので、ゲームの続きをやろう。
アプリも気になるけど、今はこっちのほうが気になる。
「……」
ログインしてすぐにフレンドをチェックする。
りょーちゃんは……まだみたい。
矢の補充と、露店(※1)でも見に行こうかな。
「露店って、どこにあるんだろ」
「中央から南に行った通りにありますよ」
「わっ」
目の前に、ナビ子さんが現れる。
「お待ちしておりました。少しは出番をください」
「頼りにしています」
ナビ子さんと一緒に、町の南へ向かう。
「何か買いたい物でもあるんですか?」
「買いたい物というより、売りたい物です」
「お、何かいいレアでも出ました?」
「レアじゃなくて素材です。店売りよりは高く売れるそうなので」
「あー、素材系ですか。素材の買い取り露店なら、露店ゾーンの東のほうに多いですよ」
「場所によって違うのですか?」
「プレイヤーの有志が集まって始めたそうです」
ギルド勧誘通りみたいに、プレイヤーが主導で行っているようだ。
目的別になっていたほうがわかりやすいので、ありがたい。
「あと、ハウス販売掲示板で募集あるかもしれませんね」
「ハウス販売掲示板?」
「マイホーム(※2)を持ってる人の無人販売機能です。全ハウス一発検索できるんで楽っすよ」
「マイホームですか」
「どうです? お客さん。今ならなんと! 毎日の支払いが1000Gちょっとで! あこがれのマイホームが!」
「1日分すら払えないです……」
所持金86G。
素材を売らないと、矢すら買えない。
「いつか買ってみたいです」
毎日1000Gだと、毎月3万G以上の出費。
もうちょっと狩場のランクが上がれば、それくらい稼げるようになるのかな?
「そうなると……やっぱり、現実世界で金持った脂ギッシュなおっさんでも引っかけるしか」
「誰かに迷惑をかけるのは……」
いくらお金に困っていても、そういうことはダメだと思う。
「だったら、パンツ売るしかないですね」
「パンツ?」
「おパンティってヤツですよ」
「? 下着売り場で売ってる物ですよね?」
「ええ、そのパンツです」
「お店で普通に買えますよね……?」
「パンツ自体はそこらの店で買えますけど……違うんです。我々が求めているのは、あなたのようなカワイイ子がはいた『使用済みパンツ』なんですよ!」
くわっと、鬼気迫る表情で力説するナビ子さん。
思わず身を引く。
「えっと……どうして使用済みなのでしょうか? せっかく買うなら、新しいほうがいいと思いますが」
「わかってないですねぇ」
チッチッチと指を振る。
「新品のパンツなんぞ、ただの布ですよ。定価以上の値が付くことはありません。だがしかし! それを女の子が使用したらどうでしょう! 1枚数百円のパンツが、数千、数万の価値に跳ね上がるんです!」
「?」
「さらに、現役女子小○生の使用済みおパンツともなれば、マニアどもが札束はたいて買い求めるは必然!」
「??」
「顔写真と、証拠となる脱いでるところの動画さえあれば、それはもう素晴らしい値が付くこと間違いなし……えっ? GMパトロール? この私になんの用でしょうか?」
突然、誰かと話し始める。
相手の姿が見えないので、ささやきでも来てるのかもしれない。
「禁則事項に抵触? なんのことですか? 何もおかしな点は……えっ? 強制退場!? いったい私の何がいけないと言うんですか! 何も間違ったことは言ってません! 冒険者様に合った最適なプランを提示しただけです! 決して『キャベツ畑』や『コウノトリ』を信じているような可愛い女のコに、自分の欲望をつきつけて下卑た快感を得ようなどとは思ってもおりません! 今から正しい知識を授けておいて、世の中の紳士たちに希望を与えようと……ちょっと待っ……あああああ!!」
ナビ子さんの姿が消える。
「ナビ子さん……?」
呼びかけても反応はない。
何か、運営側の問題でも起きたのかな?
メンテナンス情報を調べてみたけど、公式のお知らせには何もなかった。
「……」
大丈夫かな?
しばらく待ってみたけど、ナビ子さんは戻ってこなかった。
用事が終われば、自然と戻ってくるよね?
いつ戻ってくるのか分からないし、ひとまず露店へ向かう。
大丈夫じゃなかったみたいです(強制回収
※1、露店:プレイヤー同士でアイテムを売ったり買ったりできる場所。
ある程度ゲームに慣れてレベリングなどもひと段落してくると、露店をぶらっと見てチャットだけするのが日課になったりする。
※2、マイホーム:家。
全裸になっても怒られないのが売り。
そもそも町中で脱いでも大丈夫なゲームなので、なくても特に困らない。
おまけでハウス販売機能や、調理場や、工房が付いてくる。




