ギルド勧誘
『武器強化失敗した……死のう……』
『露店でケタ入力間違えた……死のう……』
『今日もフレンド0人……死のう……』
基本的にはオープンチャット(※1)なので、いろんな会話が聞こえてくる。
ゲームの話だったり、世間話だったり、その内容はさまざま。
『そこのお嬢さん! ほら、そこのヒーラーの、かわいらしいお嬢さん!』
待ち合わせしている人もよく見かける。
「ねぇ、待ってよ!」
「えっ? ボクですか?」
「そうそう」
20歳くらいの、見た目さわやかなお兄さんに呼び止められる。
「なんのご用でしょうか?」
「うちのギルドに入らない?」
ギルドの勧誘だった。
プレイヤー名の横にある『ひよこ団お昼寝クラブ』がギルド名かな?
「小学生? うちにも何人かいるよ」
「小学生ではないです……」
「え? 園児? 最近の子は発育がいいなぁ」
「もっと違います……」
「え? 中学生? 身長が低いから、てっきり……」
「……」
「ごめんごめん。同じくらいの子も多いから、話合うと思うよ」
「えっと……」
ギルドのこととか、まったく考えてなかった。
りょーちゃんは、作る気あるのかな?
作るんだったら、保留しとくけど……あっ。
「友達がギルド作ると言っていたので、そちらに入ります」
田中くんたちが『みんなログインできたら、ギルド作って砦取りに行こうぜ!(※2)』と言っていた。
ボクもりょーちゃんも声をかけられている。
「そっか。急に呼び止めてごめんね」
「いえ……せっかくのお誘いなのに、申し訳ありません」
「もしまた気が向いたらここにおいでよ。友達も誘ってね」
「はい」
手を振って別れる。
すごくいい人そうだった。
ギルドに入るのも楽しそうだけど、あんまり距離が近くなると男だってバレそう……。
「君、ギルド入らない?」
「?」
また違う人に話しかけられる。
「ボク、ですか……?」
「そうだよ。君、リアステ高いね。何か別のゲームでもやってた?」
「えっと……」
「今、GvGのメンバー集めてるんだよね。君だったら歓迎するよ。小学生? 平日は何時間くらいINできる?」
「ご、ごめんなさい! 他に予定があるので!」
頭を下げてから走り去る。
「オウフwww幼女が迷い込んできたでござるwww拙者のギルドで保護せねばwww」
「事案発生wwwロリコン自重しるwww」
「たのもー!」
「勇者キタコレwww」
「ごめんなさい!」
さらに声をかけられそうになったので、全速力で駆け抜ける。
「はぁ、はぁ……」
ある程度人が少なくなる場所まできてから、息を整える。
「なんで、こんな急に……」
広場なんかはもっと人が多かったのに、こういった勧誘はなかった。
誰か来るのを待ち構えていた気さえする。
「あの通りは、ギルド設立の建物がありますからね」
ナビ子さんが説明する。
「町中で勧誘しまくってるとうざいって話が多々ありまして『場所決めようぜ!』という流れになったんですよ。そこで、ギルド建物がある例の通りが勧誘場所となったわけです。通称『新歓コンパ通り』と呼ばれています」
「知っていたなら教えてほしかったです……」
「ギルド入らないんですか? ワイワイしたギルド狩りのパーティーからあぶれて、流れてくるギルドチャットをただ眺めるだけのぼっちプレイとか楽しいですよ?」
「考えておきます」
今月中には、品薄になっていた端末の予約待ちが解消されるらしい。
田中くんたちが来るのも、そう遠くないはず。
それまでに、この見た目をどうにかしないとだけど。
「へいッ! らっしゃいッ!」
武器屋に到着する。
丸刈りで威勢のいいおじさんが、店番をしていた。
「矢を見たいです」
「いいの入ってるよ!」
矢の一覧が表示される。
木の矢:普通の矢。3本そろっても簡単に折れる。
鉄の矢:鉄で出来た矢。つまようじ代わりにも。
銀の矢:銀が使われている矢。アンデッドに使うと効果、て……き……。
まずは試しで使ってみたい。
一番安いのでいいかな。
木の矢は、1本1G。
セットだとちょっと安くなるので、1セット100本95Gにしよう。
「まいどありぃッ!」
鑑定した弓と、一緒に装備してみる。
「……あれ?」
アイテムから取り出せるのが、1本ずつ。
腰にセットできるのも、1本ずつ。
「……」
もう一度、武器屋の商品をよく見る。
矢筒:矢を100本収納することができる。それ以上入れようとすると鳴く。
そういう仕組みらしい。
お値段300G。
「……」
手持ちが12G。
ちゃんと確認するべきだった……。
お金がたまるまでは、1本1本取り出しながら使うしかない。
しばらくは、お金集めしないとダメかも。
町のすぐ外なら初心者向けマップだろうし、試し撃ちのついでに回ってこようかな。
「……っと、その前に」
スキルポイントを振っていなかった。
何個かレベルが上がったし、スキルポイントもたまってるはず。
まずは……ブレスが最優先かな?
回復とバフ(※3)は、支援の存在意義だし。
『ブレッシングのスキルが1つ上がりました』
ブレスを1→2にし、続けて3にしようとしたけど……。
『スキル経験値が足りません』
注意メッセージが出てきた。
そういえば、りょーちゃんが何か言ってたかも?
スキル説明を見ると、そのことについて書いてあった。
・ブレッシングを使用する。
・ブレッシングを他人に使用する。
この条件を満たすと、経験値が増えるらしい。
「ブレス!」
さっそく自分に使ってみる。
スキルアイコンの下のゲージがちょっと増えた。
これを100%まで上げれば、習得可能になるっぽい。
ついでに、ステータスを確認してみる。
「えーと……」
各ステータスが2上昇していた。
スキル最大で10になるのかな?
せっかくなので、他人にもかけてみたいけど……。
「……」
近くの人と目が合いそうになったので、ついそらしてしまう。
いきなり見知らぬ人にかけるのは、かなり恥ずかしい。
りょーちゃんは狩りしてるだろうし、他に知り合いはいないし……。
「おや? なんですか? 私の顔に何かついてます?」
ナビ子さんにはかけられるのかな?
試すだけ試してみよう。
「まさか、ホレちゃいました? ダメですよぉ~。いくら私が愛らしくて魅力的でも、みんなのナビ子さん(はーと)なんですから、うふっ♪ 特定の冒険者様と懇意になるのは、事務所としてNGというかぁ~、私本人としてはやぶさかでもないんですけどぉ~、どうしてもって言うなら聞いてあげないこともない、みたいな?」
「ブレス!」
「おぎゃぁあああ!」
「あ、できた」
ナビ子さんの頭の上に、ブレスアイコンが表示される。
スキル経験値も、その分増えている。
「お、おごぉ……」
「あれ? ナビ子さん、ダメージを受けています……?」
「な、何を言ってるんですか? この清純で無垢な存在である私が、祝福の白魔法でダメージを受けるわけがないでしょう! 薄暗い部屋でエ○ゲやってる闇の住人じゃあるまいし……」
「ブレス」
「ぅぶぐぉがっ!」
小さく叫び声を上げ、もだえ苦しむ。
「やっぱり、ダメージを受けているような……」
「だ、大丈夫っすよ! あんまりにも気持ちいいもんだから、思わず声が漏れちゃっただけですわ! 何回でもウェルカムですぜ!」
「でも……」
「こいやー! MP尽きてヒィヒィ言うまで吸い取ってやらぁ!」
「ブ、ブレス」
「アヒィイイイイイイ!!」
ディスプレイに日光が反射すると画面が見えなくなってしまうので、仕方なくカーテンを閉めて昼間から薄暗い部屋の中でプレイしています。
※1、会話システム:現実と同じく、聞こえる範囲の会話だけ聞こえてくる。
がんばって叫べばちょっと距離が伸びる。
フレンドやパーティーチャットなどの場合は他の人には聞こえなくなるので、道の真ん中で口をパクパクしながら笑っている危ない人に見える。
※2、砦取りに行く:対人コンテンツの『攻城戦』のこと。
勝つとお城がもらえる。
城下町を発展させて税金を稼いだり、要塞化させて防衛を有利にしたりできる。
専用のダンジョン、専用のボスなども用意されていて、所有ギルドのメンバーはおいしい思いができる。
お城の数に限りがあるので、当然競争は激しい。
ソロとかペアのプレイヤーにはあんまり関係がない。
※3、バフ:何かの英語の略だと思うけど知らないで使っている。
自分や味方を強化するスキルのこと。
自分だけの場合は自バフ、弱体効果を付ける場合はデバフ、バフをメインで使う人を支援職やバッファーなどと呼んだりする。
現実世界で説明すると、ほどよい酒の回り具合がバフ。
手酌で一杯やってるのが自バフ。
「俺の酒飲めや!」と絡んでくる人がバッファー。
トイレでオロロロロしてる状態がデバフ。




