穴の中
ズゴゴゴゴ……。
巨大クジラが間近に迫ってきた。
パンティーをかぶった変態が掘ってくれた穴の中に身を隠して備える。
べとーん。
視界が完全に閉ざされ、巨大クジラが真上を通過していく。
これだけの重量があるなら人の手で掘った穴などまったく意味なさそうだが、不思議と問題はなかった。
空間がしっかり確保されている。
物理法則に従ったら絶対に回避不能になるからそういう仕様にしたのだろう。
だったら最初から大きさを考えろと言いたい。
巨像恐怖症の人とか失禁してるわ。
ぷちっ、ぷちっ、ぷちぷちっ。
真っ暗な視界の中、人が潰されていく音だけが聞こえる。
いやホラーゲームか。
閉所恐怖症じゃないけど漏らしそうになるわ。
しかも長い。
横幅何百メートルあるんだよ。
気が狂いそうになる。
しばらく暗闇の中で待っていると、ようやく視界が明るくなってきた。
安定の壁とご対面する。
辺りを見ると、マンガのようなペラペラ人間がひらひらと漂っていた。
リアルな表現にするとグロ要素満載の18禁ゲームになってしまうからこうしたんだろうが、これはこれで怖い。
たまに2~3人がくっついてるペラペラ人間とかいるし。
『ヴァニキひかれたw』
『え?』
『穴掘り間に合わなかったの?』
『腰振りながら穴掘る余裕あったのに』
『腰振ってるから余裕がなくなるのでは?』
『ヴァニキの腰振りは加速装置だから』
『腰振ってるときのヴァニキは超速』
『酒飲みにとってのこのわたみたいなもんよ』
『酒飲まないからわからないけど、カレー食ってるときの福神漬けみたいなもんか?』
『そうそう』
『なるほど』
『ヴァニキの腰も福神漬けもぬるぬるしてるしな』
『福神漬けはぬるぬるしてねぇよw』
『なんか思ってたより胸の部分がはみ出していて引っかかったらしい』
『わがまま大胸筋がw』
『まーたあの胸が悪さしたのか』
『まだ筋肉増えてんのかよw』
『どんだけだしw』
『鍛えすぎwww』
ブリーフマッチョの変態がやられていた。
あの痴態を見ないで済むと考えたらむしろラッキーだ。
ありがとうクジラ。
「そんじゃ追いかけるか」
パンティーをかぶった変態が起き上がる。
こっちは無事だったようだ。
残念。
「いやなんで?」
「ん? どうした?」
振り返った変態から大量の汁が飛び散ってくる。
なぜか全身べっちょべちょのぬるぬるになっていた。
この短時間の間に何があったというのだろうか。
穴の中に入っていただけでここまでぬるぬるになるか?
クジラの汁でも流れ込んだの?
どういう生態しているのか不思議でしょうがない。
「……なんでもない」
とりあえず気にしないことにした。
運動したら汗をかくように、密室に閉じ込められたらぬるぬるした汁くらい出す人間だっているだろう。
密閉サウナ効果。




