休日の朝
ピピピピピ……。
「ん……」
鳴り響く、目覚ましの音。
腕を伸ばして、それをつかむ。
バチン。
「……」
目覚ましを止めて、もぞもぞ。
そのままの姿勢で、もう一眠りしそうになる。
でも、起きないと……。
目をこすりながら、体を起こす。
「……」
布団をたたんで、カーテンを開ける。
まだちょっと眠いけど、ご飯作らなくちゃ。
まずは1階に降りて、顔を洗う。
頭をすっきりさせてから、台所に入る。
「えーと……」
冷凍してある作り置きおかずと、玉子焼き、桜でんぶ。
あとは、じゃがいもを使って何か作ろう。
おじいちゃん家から送られてきた分が、まだいっぱいある。
だいたいのメニューが決まったので、手順通りに作っていく。
ジュー。
レンジとフライパンを使って、さっと調理。
最初のころと比べると、ずいぶん早くできるようになった気がする。
ただ、最近同じようなレシピばかりになってるので、もう少しバリエーションを増やしたいところ。
チーン。
お弁当のほうはこれでオッケーなので、朝食の準備を始める。
おばあちゃんが作ったジャムがあるし、トーストと……サラダとコーヒー牛乳でいいかな。
先に用意すると冷めちゃうので、まずはお母さんを起こしに行く。
「お母さーん」
部屋に入ると、ベッドから半分はみ出た状態でお母さんが眠っていた。
ベッドから落ちてないだけ、今日はマシなほうかも?
「今日もお仕事あるんでしょ? 遅刻しちゃうよ」
「んー……」
もぞもぞと、布団の中にもぐっていく。
「ご飯できてるよ?」
「んー……あと5分……」
「昨日もそう言って、起きなかったよね?」
「だいじょぶ……だい……じょ……zzz」
全然大丈夫じゃない。
「もう……仕方ないなぁ」
カーテンを開けて、光を取り入れる。
あと5分くらいならいいかな。
テレビをつけて、朝のニュースを流す。
今日、明日ともに、晴れ。
しばらくは、暖かい日が続きそう。
「そろそろ5分だよ」
「……あと5時間……」
「お母さん」
「うー……」
布団の中で、抵抗を続ける。
「具合が悪いなら、電話しておくけど?」
「……いくー」
しぶしぶといった感じで、布団から顔を出す。
「おはよう、お母さん」
「……ちーちゃん」
「何?」
「だっこ」
寝ぼけた顔のまま、両手を突き出してくる。
「ちゃんと前見てないと危ないよ」
両手を引っ張って、床に立たせる。
「おはよ、ちーちゃん……」
「うん。ご飯できてるから、顔洗ってきてね」
「ふぁーい」
トコトコと、洗面所まで歩いていく。
その間に、朝食を用意しとこう。
「おいしー♪」
べっとりと杏ジャムを乗せたパンをほおばって、ご満悦の表情。
すっかり目が覚めたようだ。
「ほっぺたについてるよ」
「むぐぅ?」
「ほら」
指でぬぐう。
「ちーちゃん、結婚する?」
「お父さんと仲良くしてね」
「ヤダヤダー! ちーちゃんと結婚する! 料理もできて、こんなにかわいいんだもん! すぐにお嫁に行っちゃう!」
「それだけは絶対にないから、安心して」
ボク、男だし。
お婿さんになる、ということならわかるけど。
そもそも、結婚といわれても全然ピンとこない。
「それより、急がなくていいの?」
いつもよりゆっくりしていたせいで、もう出勤の時間。
「またみっちゃんに怒られちゃう!」
勤めている会社の上司で、お母さんと同級生。
帰りが遅くなると、うちまで送ってくれるやさしい人だ。
お母さんいわく『仕事にはきびしい!』とのこと。
「早く行かなきゃ!」
「はい、お弁当」
「いつもありがとう、ちーちゃん! 愛してる!」
「それはいいから、急がないと」
抱きついてくるお母さんをはがして、玄関まで見送る。
「んー」
「どうしたの?」
「いってきますのチューは?」
「お仕事がんばってね」
「ちーちゃんが冷たい!」
遅刻しないように送り出す。
さてと、片付けと残りの家事をやっちゃおう。
「よいしょ」
布団を並べて干して、ひとまず予定していた家事は終了。
買い物は、またあとにしよう。
ということで……。
「……あ」
部屋に戻ってベッドに転がろうとしたけど、今干したばっかりだった。
お母さんも出かけたことだし……居間のソファーでもいいかな。
必要な物を持って、居間に移動する。
見た目はアイマスクなので、持ち運びはとても便利。
旅行なんかにも持っていけそう。
さすがに、旅行中までやろうとは思わないけど。
「……」
ここは……。
キョロキョロと辺りを見回し、自分の居場所を確認する。
すぐ近くに、ダンジョン受付のお姉さん。
そうだった。
昨日は、ダンジョン内でログアウトしたんだっけ。
ログインし直すと、外に出されるみたいだ。
土曜日だけあって、朝から人が多い。
これだけ人がいるということは……。
「やっぱり」
フレンドをチェックすると、案の定りょーちゃんがオンラインになっていた。
「おはよ、りょーちゃん」
『ああ』
すぐに返事がくる。
朝からちゃんと中身がいる……って、こういうゲームだから当たり前だった。
そうなると、離席する場合ってどうなるんだろ?
急にトイレに行きたくなった場合とか、困るよね?
「ちょっと聞いてもいい?」
『なんだ?』
「少しだけ席外す場合も、ログアウト状態になるの?」
『離席モードにしておけば落とされない』
「それならよかった」
ボスの手前まで行って『はい、やりなおし!』みたいなことになったら、がっくりしちゃう。
『携帯端末なんかでINしとけば、24時間放置できるぞ』
「そういえば、他の端末からでもログインできるんだっけ?(※1)」
『ああ』
最初のキャラ登録だけは、専用の端末が必須。
それ以降は、パソコンや携帯からでもログインできるシステムがあったはず。
休み時間に露店をチェック、といったプレイができるそうだ。
自分というキャラを自分が操作することになるので、変な感じになりそうだけど。
「りょーちゃんは、やってみたことある?」
『ない。専用端末じゃないとリアステ反映されない』
「そうなんだ」
最大火力にこだわっているみたいだし、せっかくならリアルステータスも反映させたいところ。
ボクの場合は最低値なので、反映させても効果は実感できないだろうけど……。
『別ゲーやりながらできるから、それなりに利用しているプレイヤーはいる』
「なるほど」
動画でも見ながらダンジョン周回できるなら、楽でいいかも。
難易度の低い狩場なら、ステータス補正がなくても周回できそうだし。
「……あれ?」
フレンドの詳細から、レベルや装備などが確認できる。
りょーちゃんの情報を見ると、なんというか……レベルが8も上がってる?
昨日のダンジョンだと、りょーちゃんは1しか上がってなかった。
残りの7は、あれから自力で上げたことに……。
「りょーちゃん、ちゃんと寝てる?」
『3時間は寝た』
「ちゃんと寝ないと!」
睡眠時間が少ないよ!
ある程度予想はしていたけど、やっぱり生活に支障が出そうなプレイをしていた。
「ご飯は、ちゃんと食べてるよね……?」
『1日くらいは食わなくても死なない』
「体に悪いよ!」
予想していたより悪かった!
寝てる時間以外は、ずっとゲームに張りついているっぽい。
「智子さんは?」
『朝から出かけてる』
「せめて何か食べようよ」
『カップラーメンならあったな』
「うーん、何も食べないよりはいいけど……」
それだけだと心配。
せめて、野菜も一緒にとってほしい。
「今から何か作りに行こうか?」
『いいのか?』
「買い物に行かなきゃいけないし、そのついでに」
『まだ少しやることあるから、昼に頼む』
「うん、任せて」
普段は助けられてばかりだから、こういう時くらいは役に立ちたい。
ホントは、りょーちゃんだって料理できるんだけどね。
ゲームを優先してやらないだけで。
「それじゃあ、鑑定とかしてくるよ」
『わかった』
まずは、昨日拾ったアイテムを整理しよう。
たっぷりの睡眠時間(9時間)をとっている主人公より、不規則で少なめの睡眠時間(3~6時間)のりょーちゃんのほうがモリモリ成長している現実。
※1、いろんな端末でプレイ:VR機能を使わなくてもゲームができるシステム。
仕事中でもささっとプレイできるので、忙しい人におすすめ。
晩酌しながらゲームする派にも好評。
ゲーム内と同じ『主観視点』と、自分の後頭部を眺め続ける『後方視点』が選べる。
自分がやられる姿を客観的に観賞できるので、一部の性癖の人にも好評。




