行きつく先
『すべてを……失った……』
先ほど錬金場へ向かった人が帰ってきた。
装備まで全部錬金に入れてしまったのか、パンツ一丁姿になっている。
足取りがおぼつかず、目もうつろで、口の端からヨダレをだらだらと垂らしていた。
見るからにやつれた様子。
タリスマンに続き、錬金術でも大きく負けてしまったようだ。
『あそこで大当たりさえ引けていれば、こんなことには……くそぅ……』
ひざから崩れ落ち、力なく地面をたたいていた。
『こっち側へようこそ』
『いらっしゃーい』
『また仲間が増えたぜ』
『すべてを失ったわけじゃないぞ。俺達がいるじゃないか』
『あと借金もあるさ』
周りにいるパンツ一丁の人たちが声をかけていた。
生暖かい視線を向けながらおいでおいでをする。
『頼む! 金を貸してくれ! 次はきっと当たるから! 倍にして返すから』
四つん這いのままカサカサと駆け寄り、パンツ一丁の人たちに懇願する。
『今日だけで50回は聞いたセリフ』
『そのうちの1人が俺だ』
『俺もだ』
『俺を忘れてもらっちゃ困る』
『借金生活に突入したからもちろん金はないぜ』
『くそ、どうすりゃいいんだ……』
『また錬金ができるまで稼ぐしかないだろう』
『ボスでも狩るのが手っ取り早いんだが、ボスを狩れる装備がない』
『今ならだーく☆わんわん1匹相手に完敗できるぜ』
『俺は普段から完敗してるけどな』
『負けんなよ! 俺はフル装備ならちゃんと惜敗ができるぜ!』
『結局負けてんじゃねーかw』
『地味に速くて強いんだもん』
『死角から襲ってこられると詠唱間に合わないし』
『おっさんの反応速度なめんなよ? 今月だけで3回漏らしたぜ』
『あっと思ったら押さえる間もなく漏れてるよね』
『あるある』
『トイレ探そうと思った時点で半分は漏れてるわ』
『じゃあ、スライムでも狩るか?』
『それなら素手でもいい勝負できそう』
『ギリギリ辛勝できるかもしれん』
『余裕で勝ってくれw』
『うかつに攻撃すると反撃でボコられるじゃん』
『あいつらのガードわかりづらいんだよ』
『素っ裸だとダメージ痛いし』
『まあ、みんなで囲めばなんとかなるんじゃね?』
『そうだな』
『行くか!』
『行こうぜ!』
『狩りの時間だ!』
『乱獲しまくるぜ!』
雄叫びを上げながら去っていく人たち。
ポンッ。
憲兵さんがやってきて肩をたたく。
先ほどの人たちと同じように、どこかへと連れ去っていった。
装備の貸し出しでもしているのかな?
連れていくのは全員ブリーフ一丁の人たちだから、見るに見かねてなのかもしれない。
装備がなくなってしまったらお金集めもままならないし、熱くなってやりすぎないように気をつけよう。
見るに見かねて住処と服を与えてくれる素敵な保護団体。




