お役立ちナビ子さん
「じゃあ、町に戻ってアイテム整理を……」
『出番がなーーーい!』
「わっ!」
ナビ子さんが飛び出してきた。
「せっかく! はじめてのダンジョンだというのにぃ! 何の説明もしないまま終わっちゃいましたよ!」
「え、えーと……?」
「新たな場所、そして新たな敵に苦戦し、倒される冒険者様……そこにかっこよく登場するこの私! システム的な力を分け与え、時にはエールを送り、時にガン見し、勝利へと導いていくのです!」
熱く語りだした。
「そうしてダンジョンをクリアした時、冒険者様はこう思うでしょう……『キャー、ナビ子さん素敵! 抱いて!』と」
「……?」
「それなのに、説明は全部krbrx様がしちゃうし! 復活させようにも、1回もやられませんし!」
「ご、ごめんなさい」
「Lv10までは無料で何度でも復活できるんですよ? なんでリョナらないんですか! ファンタジー物必須のくっ殺精神はどこに置いてきたんですか!」
「りょな……?」
「貴重な私の見せ場なのに……しくしく」
泣いちゃった!
「その……ナビ子さんに聞きたいことは、まだまだいっぱいあります。泣かないでください」
「ホントに……?」
「はい。スキルのこととか、アイテムのこととか……」
「スキル取るにはスキル経験値が必要になるから、欲しいやつはガンガン上げて使ったほうがいい」
「りょーちゃん!」
「しくしくしく……」
泣いているナビ子さんをなだめる。
「もっと出てきてくれたら、ナビ子さんに頼るのに」
「βの頃(※1)はそうしてましたよ? 常に冒険者様のそばに控えて、かいがいしくお世話したものです」
「そうなのですか?」
「そうなのです。私だってがんばろうとひたすら話しかけていたら『うざい』とか『お前を消す方法』とか言われるようになって、呼び出しに応じる今の形に……」
「ボクは、ナビ子さんのお話好きですよ?」
「SENRI様! あなたが天使ですか! 嫁に来ませんか!?」
「えっと……ナビ子さんは男性なのですか?」
見た目や名前は、女性っぽい。
「性別は設定されてないです。妖精なので」
「その辺りはファンタジーですね」
「心のち○ぽなら3本くらい生えてますけど」
「?」
精神的には男性、ということなのかな?
「どのみち、嫁には行けません」
「うわーん! フラれたー!」
また泣き出してしまった。
物理的に無理って意味なんだけど。
ボク、男だし。
「チェンジって言うと、違う妖精と交代できる」
「ちょっと!? なんてこと言うんですか!」
りょーちゃんの言葉に、激しく反応する。
「いろんな種類がいるから、もっとおとなしい妖精もいる」
「やめてくださいよ! ただでさえ私人気低いんですからね!? これ以上チェンジポイントがたまったら、転生させられちゃいます! きれいな私になっちゃいます!」
妖精さんの世界も、なかなか大変みたいだ。
「8回連続でチェンジすると、妖精たちが怒って出てこなくなる」
「当たり前ですよ! 私たちをなんだと思ってるんですか!? リアルでやったら、怖いお兄さんたちと一緒に秩父山中の薄暗い森の中までドライブコースですよ!? トランクの中に剣先スコップとか積んでありますよ!?」
「あの……ボクは、ナビ子さんを代えるつもりはないですよ?」
「結婚する?」
ちょっと変わってるところもあるしれない。
でも、がんばってる感じは伝わってくる。
せっかくこうして知り合ったんだし、応援してあげたい。
「どうやら、役に立つところを見せる必要があるみたいですね。なんでも聞いてください!」
自信ありげな表情で胸を張る。
それを見たりょーちゃんが質問する。
「効率的な金策方法」
「うーん……リアル金持ちのマダムをひっかけて、ヒモになることですかね?」
「現実的な対処法!」
「なるほど」
「りょーちゃんも納得しないで!」
いくらお金が欲しいからって、現実の人に迷惑かけるのはよくない。
ゲームの中でも迷惑かけちゃダメだけど。
「SENRI様は何かありませんか? ナウでヤングなスキル構成なんかも、一瞬で検索できますよ?」
「えーと……あ、そうだ」
「お、ありました? どういった質問でしょう?」
「今って、何時ですか?」
ログインしてからそこそこ時間はたってると思うけど、時計がないのでわからない。
遅くなりすぎると、朝起きられなくなっちゃう。
「メニュー→設定→画面設定から表示できますよ。用事がある場合はアラームもセットできますし」
「その機能は欲しいかも……あった」
午後10時50分。
「もうこんな時間!」
いつもなら、もうとっくにお布団に入っている時間。
ゲームにはまり込んでいて、全然気づかなかった。
「ごめん、りょーちゃん。今日はもう落ちるね!」
「ああ」
「おやすみなさいませー」
急いでログアウトして、現実世界に戻る。
「……」
時計を見ると、10時51分。
はじめたばかりのゲームということもあって、つい熱中しすぎちゃった。
今度から気をつけることにしよう。
『あんまり夜更かししないようにね』
りょーちゃんにメッセージを送り、寝る前の準備を済ませてくる。
『善処する』
返事がきてたけど、相手はりょーちゃん。
スムーズにプレイしていたし、このゲームをだいぶやり込んでいる。
明日は休みだし、遅くまでやっていそうな気がする。
張り切りすぎて、体を壊さなければいいけど……。
全年齢対象の健全なゲームなので、内容もすべて健全なものになっております。
※1、βテスト:正式サービスを開始する前の体験版のこと。
人数が限定されているクローズベータと、誰でもウェルカムなオープンベータがある。
実際にプレイしてもらい、意見やバグ報告などを集めるのが目的。
現実世界で説明すると、お腹が痛いときに屁で紛らわそうとした時に一緒に出てくる具。