スカッとさわやか特製ジュース
「あ、木の枝集めてこないと」
調理場を使うなら、燃料となる木の枝が必要だった。
引き返そう……としたところで、りょーちゃんに止められる。
「必要ない」
「?」
調理場のほうを示す。
何人かがかまどの前に立ち、料理をしている。
いつもの光景。
特に変わった点はないけど……。
「?」
ブワッと、炎が舞い上がる。
あの一角だけ、やけに火力が高い。
2メートルくらい上がってた気がする。
屋根に燃え移ったりしないか、ちょっと心配。
「……?」
よく見ると、炎が動いていた。
かまどの中で、あっちこっちに移動している。
中に何かいる?
よく見たら、赤ネームが表示されていた。
『サラマンダー』というモンスター。
「町の中でもモンスターって出るの?」
「出ない。町の外でモンスターBOX(※1)使って引っ張ってきたんだろう」
「そんなことができるんだ」
「たまに露店が全滅してる」
「実害が!」
「死んだ状態でも売買できるから、これといった問題はない」
「それなら安心……なのかな?」
全員倒れたまま取引するのは、ちょっと気になっちゃうかも。
ログインしたらみんな倒れていた、とか何も知らなかったらびっくりしそう。
ぽふっ。
かまどにいるサラマンダーが、炎を吐く。
全身が炎に包まれていて、なかなか強そうな見た目。
もぞもぞと動いているけど、外には出てこない。
「近づいたら、攻撃されないかな?」
「オブジェクトに埋まってるから、お互いに攻撃不可」
「ハマっちゃってるんだ」
「判定の広い投げ技で吸い込めば引っ張り出せる」
「誰かがこうしたんだよね?」
「真空投げ使った座標バグ(※2)。βの頃から放置されてる」
「運営さんに怒られないの?」
「仕様なのかバグなのか判別付かない現象が無数にあるからな。重大なバグ以外は黙認状態」
「そうなんだ」
対応しなきゃいけないことも多そうだし、運営するのも大変そう。
ナビ子さんも戻ってこないし。
『料理や修練用にどうぞ~』
看板も立ててあった。
このサラマンダーを用意した人が置いていったのかな?
自由に使っていいみたいだし、今のうちにクエスト品を作っちゃおう。
バッグの中から、フライパンと、ちぢれ毛を取り出す。
ついでに説明文も読んでみる。
抜け落ちたちぢれ毛:ゾンビが落とした黒いちぢれ毛。いくら掃除しても部屋のどこかから無限にわいてくる。
料理用アイテム、なのかな……?
読んだだけじゃわからない。
レシピには書いてあったし、これで大丈夫なはず。
フライパンに乗せて、そーっと火に近づける。
火力が強いので、うまく調整しないと炭になってしまいそう。
「どのくらい焼けばいい?」
「水分飛ばしてチリチリになるくらい」
「わかった」
ちぢれ毛を火にかけ、慎重に揺らす。
しばらくすると、くるくると丸まってきた。
「これくらいかな?」
おたまで突いてみると、パラパラと崩れた。
よさそうな感じ。
「粉状にして温泉汁に混ぜれば完成」
「うん」
おたまで粉々にし、しゅわしゅわの水に入れる。
フタをして、何度か振ると……。
ぽぽんっ!
『スカッとさわやか特製ジュース(品質:ふつう)ができました!』
弾けるような効果音と共に、アイテムが変化した。
透き通った黄色で、炭酸っぽい泡がぷくぷくしている。
名前も合っているし、ひとまずこれで完成。
「砂糖やレモンって、入れたほうがいい?」
「リザ習得には関係ない」
「じゃあ、このままでもいいのかな」
神父さんの好みを聞いてからにしよう。
食料品店で、レモンと、砂糖を購入。
完成したアイテムを持って、教会に戻る。
エ○ゲーの音楽に合わせてノリノリで『頭』振っていたら、『腕』をやられました。
自分の体の弱点がよくわかりません。
※1、モンスターBOX:使うとモンスターが飛び出してくるアイテム。
レイドボス以外のモンスターからランダムで出現する。
フィールドボスなども出てくるので、うかつに使うと大変なことになる。
現実世界で説明すると、イケメン男性教諭が転勤してきた時の女子校。
※2、真空投げ:謎の空間をつかんで投げることができるバグ。
位置ずれバグの一種。
通常では投げられない場所から投げることができるので、うまくいくとモンスターが壁の中にめり込むことがある。
クエストによっては進行不能になるバグなので一度修正された……が、全部は直らなかったのであきらめたらしい。
現実世界でも、べろんべろんに酔ったサラリーマンが植木に突っ込んでいる姿を見かける。




