温泉回
『おつー』
『援軍さんきゅー』
『まーーーたポーションだよ!』
『あれ? このゲームって敵を倒してポーションを集めるゲームだよな?』
『間違いない』
『倉庫の在庫が4ケタ突入しそうなんですが……』
『ブラックカイマンさん、何か出ました?』
『んー、新鮮なゾンビ汁』
『びみょーっすね』
『エンチャ以外うま味ないしなぁ』
参加報酬の話題で盛り上がる。
攻撃には参加していなかったけど、ボクのところにも届いていた。
・抜け落ちたちぢれ毛×5
「りょーちゃん、必要数がそろったよ」
「次は温泉か」
「うん」
予定数より多くなったけど、多くて困ることはない。
アイテム合成だと、失敗する場合もあるかもしれないし。
「行くか」
「あ、ちょっと待って」
まだ倒れたままの人もいる。
ゾンビ化していた人たちだ。
在庫がある分だけ復活薬を使っていく。
「お待たせ」
「町」
「うん、わかった」
帰還の羽を使い、いったん町へ戻る。
道具屋でアイテムを補充してから、りょーちゃんのあとをついていく。
町を出て、南へ進む。
ひたすら南へ。
道中、ネコっぽいモンスターや、カメっぽいモンスターがちらほら。
アクティブではないようなので、その横を素通りしていく。
草原を抜け、森を抜けた先。
「着いたぞ」
「……ここ?」
「ああ」
穏やかな流れの小川と、小石の転がる川原。
辺りを見ても、温泉らしき物は見えない。
「川だよね?」
「川だな」
川だった。
もしかすると、この川が温泉なのかも?
近くまで行って、手を入れてみる。
「……?」
感覚フィルター制限のせいか、ほんのり冷たいとしか感じなかった。
湯気も出ていないし、どう考えても普通の川としか思えない。
「掘るぞ」
「ここを?」
「ああ」
そう言って、川から離れた場所の石を動かし始める。
ここを掘ると、温泉が出てくるんだろうか?
とりあえず、りょーちゃんと一緒にに穴を掘る。
スコップなどはないから、素手でせっせと。
ある程度石をどかすと、砂地が見えてきた。
さらに掘り進める。
「?」
水が出てきた。
「……うーん?」
触ってみても、やっぱり温泉といった感じはしなかった。
りょーちゃんは黙々と掘り続けているので、ボクもそれに習う。
崩れてこないように石を積み重ね、掘った土で固めていく。
「こんなもんだな」
「これでいいの?」
「ああ」
そんなに深く掘ってない。
座って入って、ギリギリ腰まで届くかどうか。
「これからどうするの?」
「待つ」
「?」
何もしなくていいらしい。
その場に座って攻略サイトを開いていた。
ボクも隣に座って、何かが起こるのを待つ。
「?」
しばらく待っていると、何かがこちらに近づいてきた。
モンスター……ではなさそうだ。
赤いネーム表示がないので、一般の動物っぽい(※1)。
大きさは1メートルくらいで、特徴的な鼻をしたネズミのような姿。
動物園で見たことがある。
カピバラさんだ。
ちゃぷん。
跳ねるようにして、穴の中に飛び込む。
水につかったまま、じっとする。
『……』
気持ちいいのかな?
どこか遠くを見ながら、ゆったりとくつろいでいる。
『……ぶぇっくし!』
くしゃみした!
ちょっと冷たかったのかもしれない。
のそっと立ち上がり、ブルブルと水分を飛ばす。
『……がふっ』
しっぽを振りながら、どこかへ歩いていった。
りょーちゃんの反応はないので、引き続き待つことにする。
「?」
また違う動物がやってきた。
遠目で見ても、かなりの大きさ。
『パオーン』
象さんだった。
のっしのっしと近づいてきて、穴の中に座り込む。
『……』
はみ出てる。
……というより、ほとんど入ってない。
もう少し、穴を広げたほうがいいのかな?
べたーん。
地面に転がって、水浴び(?)を楽しむ。
ある程度転がって満足したのか、のそっと立ち上がる。
そして、来た時と同じように、ゆったり歩いていった。
りょーちゃんは、まだ動かない。
バシーン、バシーン。
「?」
何かを叩くような音。
なんだろうと振り返ると……。
バシーン、バシーン。
ふんどし一丁のおじいさんが、体をタオルで叩いていた。
プレイヤー……なのかな?
髪やヒゲは、真っ白。
深く刻まれたシワは、相応の年月を感じさせる。
服装からすると、5町の人かも?
「こんにちは」
すぐ近くまで来たので、あいさつする。
「……(ニコッ)」
くしゃっと笑い、先ほど掘った穴に座る。
象さんが入った後ので、ほとんど水は残っていない。
ぺちーん。
頭にタオルを乗せ、体全体を伸ばす。
気持ちいいのかな……?
表情を見る限り、くつろいでいるように見える。
せめて、もう少し水を入れたほうがいいような……。
「?」
水が増えてる……?
いつの間にか、おじいさんの腰の辺りまで増えていた。
よく見たら、湯気らしき物も漂っている。
バチーン!
バチーン!
おじいさんが立ち上がり、タオルで体を叩き出す。
体の水分を取っている。
ある程度ふき終わると、どこかへ歩いて行った。
「……」
不思議な感じの人だった。
ゲーム内を巡り歩くのが趣味の人、とか?
素材集めなどもあるし、ぶらぶら旅をするのもアリなのかも。
「あれ?」
掘った穴を確認する。
「これって……お湯になってる?」
ほどよい感じに湯気が出ていて、露天風呂のようになっていた。
少し黄色っぽい色なのは、硫黄か何かの影響だろうか。
「温泉妖精だ(※2)」
今まで静観していたりょーちゃんが、動き出す。
「妖精さんなんだ」
言われてみれば、名前表記がなかったような気も?
ナビ子さんと比べると、ずいぶん違った見た目。
大きさも人並みだし、羽も生えていない。
同じ妖精さんでも、役割によって違うのかな?
「採取できるぞ」
「あ、そうだね」
温泉ができたわけだし、目的を達成しないと。
前にクエストで使ったビンに入れて、採取完了。
アイテムの説明を見る。
しゅわしゅわの水:温泉の妖精の体から染み出したエキスたっぷり。舌と目にくる刺激的な味わい。ほんのり加齢臭。
妖精さんの体から、温泉の元が出てくるらしい。
現実世界にいたら、お風呂代の節約になりそう。
「戻るか」
「あとは……ちぢれ毛を火にかける?」
「フライパン使えばいい」
「なるほど」
前に料理をしたことがあるので、それを使えばいい。
町に戻って、調理場へ移動する。
ナビ子さんも切望していた温泉回です。
全裸、全裸、半裸と、できる限り攻めてみました。
※1、野生動物:その辺の動物。
モンスター以外の動物も普通に生活している。
攻撃対象ではないので、プレイヤーからは攻撃できない。
たまにとんでもなく高ステータスの個体も生まれてくるので、フォールドボスと対等に渡り合っているヒヨコなども目撃されている。
※2、温泉妖精:液体を温泉にする能力を持った癒しの妖精。
見た目はふんどし姿のおじいちゃん。
妖精の羽は背中のシワの中に埋まっている。
ユニーク個体だと温泉が泡風呂式になる。
常にぷるぷるしているので、触っているとマッサージ効果もある。




