ダンシングゾンビーズ
「あれも、ゾンビ?」
「ああ、このマップのユニーク『ダンシングゾンビーズ』」
「すごく速いんだけど……」
走ってる。
あきらかに、全力で走っている。
「かみつかれて死ぬと100%ゾンビになり、自分の意思と関係なく周囲の人間を襲うようになる」
「ホントにゾンビっぽい!」
あの速度で追われたら、いずれ追いつかれそう。
襲われた人がゾンビ化して増えていったら、被害が大変なことに。
「対処法は?」
「逃げる」
「わかった」
りょーちゃんと一緒にその場から駆け出す。
相手は10人くらい。
2人だけじゃどうしようもない。
『おっ、ユニーク出てるじゃん』
『倒す?』
『足止めいないと無理だわ。人呼ぼうぜ』
『おっけー。ギルメン誘うわ』
『近くの人にも声かけてくる』
『そういや、あっちのほうに女の子いたな』
『……なぁ』
『ん?』
『ゾンビ化したら、どさくさにまぎれて触れるんじゃね?』
『お前、さすがにそれは……合法だよな?』
『システム的に自分の意思じゃどうしようもない。合法だ』
『……ここは俺が引き止める。お前は早く逃げろ』
『何言ってるんだよ。お前だけに任せられるわけないだろ』
『やるしかないか』
『ああ、やるしかない』
『うぉおおお! 女体ぃいいい!』
『おっぱぁあああああい!』
突撃していく人もいるけど、すぐに取り込まれてしまう。
新しくゾンビとなって、獲物を探し始める。
「どんどん増えてるけど……」
「そのうち誰かが倒しに来るだろう」
索敵範囲外まで逃げて、様子をうかがう。
近くに誰もいなくなると、その場で踊り出した。
キレのある動きで楽しそう。
ガシッ!
「わっ!」
野良ゾンビにつかまった。
りょーちゃんと協力して、すぐに倒す。
追われている時じゃなくてよかった。
『なんだアレ?』
『ゾンビめっちゃ集まってるじゃん。誰かトレイン(※1)してるのか?』
『プレイヤーネーム見えないし、死に戻りしたんじゃね?』
『それなら範囲ぶっぱなしてもいいよな?』
『おう、じゃんじゃんいったれ』
『よっしゃ、覚えたてのインフェでじっくり消毒してやんよ』
『……あれ? 普通のゾンビと名前が違うような』
『インフェル……ノォオオオオ!?』
『な、何だ!? この速さは……あぁああああ!』
知らずに近づいていった人たちが、次々と巻き込まれていく。
これ以上犠牲を出さないためにも、近づく人に注意を呼びかけないと。
『こっちのほうで悲鳴が聞こえたような……』
『足元沸きに引っかかったんじゃね?』
『もしかしたらカワイイ女の子がいるかもしれないし、様子を見てくるぜ』
『どう聞いてもオッサンの悲鳴だったけど』
『オッサンみたいなカワイイ女の子かもしれないだろ!』
『なんという矛盾の塊』
『周りがオッサンだらけすぎて、女子ならなんでもいい気がしてきた……』
『落ち着け。いくら性別が女子でもゴリラだったらどうするんだ』
『……ゴリラって、カッコイイしカワイイよね』
『どうしてこの世界に救いはないんだ……』
『行ってくる』
『どうせオッサンだ。期待するんじゃない』
『……見た目がカワイければ、オッサンでも』
『俺はなんて無力なんだ……』
新しく2人組がやってきた。
ユニークモンスターがいるって伝えないと。
「あの……」
「止めないでくれ! たとえオッサンだろうが、俺は……」
こちらを振り返って、硬直する。
いきなり話しかけたので、びっくりさせてしまったかもしれない。
「え? ちょ、うを……え?」
「お前も見えているってことは、幻覚じゃないみたいだな……」
「驚かせてしまってごめんなさい。あそこにユニークモンスターがいるので、気をつけたほうが良いと思います」
「ちょっと失礼」
お互い引っ張り合うようにして、少し離れたところに移動する。
『待ってくれ。いきなり幼女とエンカントするとは聞いてない』
『俺も予想外だ。この世界にオッサンとオバサン以外存在していたんだな』
『どうしたらいいんだ?』
『どうするも何も、普通に対応するしかないだろ』
『オッサンに囲まれる生活が長すぎて、女の子と会話する方法がわからない』
『涙も枯れ果てるレベルだな』
『お前はわかるというのか?』
『さすがに、このサイズは想定外だ』
『……とりあえず、アメでも与えて様子を見る?』
『通報されたくなかったら早まるな。社会的に死にたいのか』
『お前んち姪っ子いただろ。慣れてるんだからどうにかしろよ』
『1歳だよ。まだ言葉も話せねーよ。お前こそ女子と話したがっていただろ』
『幼女は範囲外だよ。女子大生くらいが最高だ』
『あと十数年もすればそうなる。事前練習だと思って当たっていけ』
『会話、会話……女児向けアニメの話なら食いつくかな?』
『いい歳してアニメ見ているキモイおじさんだと思われるリスクもある。話題は慎重に選ぶしかない』
『安全でキモがられない話題……折り紙ならドラゴンとかサソリとか折れるぞ?』
『方向的にはいい感じだが、女児にウケるかどうか微妙なラインだな』
「あの……」
「!?」
もう一度声をかけると、ビクっとしながら振り返った。
2人の邪魔をしたくないけど、伝えるべきことは伝えておかないと。
「ユニークモンスターが、こちらに近づいてきています」
「ん? ユニーク? ゾンビ?」
「はい」
「……ああ、そういうこと」
わかってくれたようだ。
「安心してくれ、お嬢ちゃん。オジサンたちは退魔特化なんだ」
「見た目は闇属性だけどな」
「どこがだよ! 癒しだろ! どこからともなくマイナスイオンとか出る感じだろ!」
「ああ、すまん。頭頂部は神々しいな」
「誰がザビエルや! ありがたいオーラとか出てこんわ!」
そうこうしているうちに、ダンシングゾンビーズが近づいてくる。
早く逃げないと、索敵範囲内に入ってしまう。
「来たか、ゾンビども。相手になってやるぜ」
「お嬢さんは下がってな。近くにいるだけでも討伐報酬入るから」
頼もしいセリフを言って、ダンシングゾンビーズに向かって走っていく。
退魔特化の人なら、ペアでも倒せちゃうのかな?
『……なぁ、多くね?』
『多いな』
『単体用のディバしか取ってないから、複数相手は……あ、タゲられた』
『終わったな』
『しかも、くっそはえぇ!』
『逃げるか』
『いや、無理だろ。ヤベーよアレ。バーゲンセールのオバちゃんレベルですわ』
『あの娘と逆方向へ』
『ん? ……ああ、そういうことね。こいつは、うってつけのシチュエーションだ』
このままだと囲まれちゃうけど、大丈夫だろうか。
魔法の詠唱なども見えないし。
『お嬢ちゃん! ここは俺たちに任せて逃げるんだ!』
『早く! 俺たちに構わずに!』
『ふぅ。一度言ってみたかったんだ』
『悪くないな』
そう叫んだと思ったら、ゾンビの群れに突撃していった。
すぐにゾンビ化して、新たな一員に加わる。
製氷皿から氷を取るのは、やっぱりぐねぐねが一番!
水を入れすぎて隣の氷と合体していても、力ずくでぐねぐねすれば……すぽーん、ごりゅっ!(飛び出した氷が足の小指に直撃する音)
※1、トレイン:モンスターを集めて百鬼夜行のように練り歩くこと。
まとめて範囲攻撃で倒すと効率が良いので、マップ内を駆け回ってたくさん集めようとする光景が各地で見られる。
その分他のプレイヤーの獲物が減るので、やりすぎるとリアルPKに発展する。
現実世界で説明すると、鹿せんべいを手にした時のヤツら。




