墓地
町から外れた寂れた場所。
プレイヤーの姿も、それほど多くない。
「あれ?」
ふと違和感に気づく。
こんなに日が傾いていたっけ……?
さっきまで昼間だったはずなのに、もう夕方くらいになっている。
このゲームって、昼夜の切り替えがあったんだ。
普段はずっと明るいので知らなかった。
歩くごとに、どんどん暗くなっていく。
「……?」
来た道を戻ってみる。
すると、少しずつ空が明るくなり始めた。
どうやら、このマップだけで起こる特殊効果らしい。
なんだか不思議な感じ。
そんな風景を楽しみながら、先へと歩いていく。
「……」
夜の世界に包まれると同時に、目的地である墓地に到着した。
壊れたお墓や、傾いた十字架などが、辺りに散らばっている。
「あぁ~。あのク○みたいな教会と違って、落ち着く場所ですねぇ」
「そうですか……?」
ナビ子さんはそう言うけど、自分1人だったらちょっと怖い。
お墓の下から何かが出てきそうだし。
ナビ子さんや、他のプレイヤーの姿が見えるから、まだ大丈夫だけど……。
ガシッ!
「ひゃぅ!?」
突然、足首をつかまれる。
反射的に足を引き抜こうとするけど、うまく動けない。
地面から伸びた何かが、ゆっくりとからみついている。
ボコッ。
地面が割れ、その何かの正体が明らかになる。
『アー……』
抜け落ちた髪。
土気色の肌。
暗くにごった目。
ゲームの世界ではおなじみ『ゾンビ(※1)』。
『ガァ……』
大きく口を開き、かみつこうとしてくる。
「ヒール!」
とっさに回復魔法を相手に使う。
効果はあったようで、足首をつかんでいた力が緩む。
すぐに距離を取り、ロッドを構える。
『ウー……』
つかみかかるように手を上げ、こちらに向かって移動してくる。
……。
……。
……。
「……」
遅い。
数メートルの距離なのに、全然近づいてこない。
思っていた以上にゆっくりだった。
カサカサ動くゾンビがいたら、それはそれで怖いけど。
「ブレス!」
距離があれば安全そうなので、支援スキルを使い弓に持ち替える。
これだけ動きの遅い相手なら、しっかり狙っていける。
カンッ!
予定通り、体の真ん中に命中するけど……。
「遠距離耐性?」
3しかダメージが通らなかった。
かなり高めの耐性があるっぽい。
さすがに、一方的に攻撃できるほど甘くなかった。
無理やり倒せないこともなさそうだけど、矢の消費がすごそう。
そうなると……。
「……」
ロッドで殴る?
自分の手元と、相手を見比べる。
向こうは素手なので、リーチは勝っている。
でも、自分から近づいていくのは、かなり勇気が必要。
見た目が見た目だし……。
「?」
頭をそらし、のけぞるゾンビ。
『オエッ!』
びちゃ。
「!?」
体を起こすと同時に、何か飛ばしてきた。
赤黒くて水気のある物体。
ジュっと、地面から煙が上がる。
触っちゃいけないモノだということはわかる。
「……」
いつまでも逃げ回っているわけにはいかない。
回り込むようにして近づき、ロッドを振り下ろす。
グチャ。
何かがつぶれたような感触。
ダメージは……10。
近距離耐性はなさそう。
ブンッ!
「!?」
攻撃を受けながら、反撃してきた。
のけぞり無効!
ギリギリ射程外だったので助かったけど、もう1歩踏み込んでいたら危なかった。
「……」
遠距離耐性に、のけぞり無効。
こうなってくると、うかつに手を出せない。
あとは……。
「ヒール!」
魔法で攻撃。
ダメージは14。
のけぞりも発生している。
この方法が一番効果的かな?
ヒーラー用のクエストなので、そこは優遇されているのかも。
『オゲェッ』
吐き出し攻撃を避けて、ヒール。
MPが足りなってきたら、距離を取ってお座り。
そして、ヒール。
ヒール。
ヒール。
……。
「HPが多い!」
20回近くヒールを当てたはずなのに、まだ倒れない。
いつもりょーちゃん任せだったので、火力不足を感じる。
いくら支援がメインだとしても、武器くらいは強化するべきかもしれない。
『オロロロロ』
パターンは単純なので、安定して攻略できるのが救い。
時間はかかるけど、1人でもやれそうだ。
ガシッ。
「わっ!」
移動中に足をつかまれ、ひざから倒れる。
「み、見え……見えぇ!」
目を見開いて、すっ飛んでくるナビ子さん。
「大丈夫です」
『アァ……』
「じゃないかも!」
すぐにヒールを詠唱し、足をつかんでいるゾンビを追い払う。
『ウゥ……ビチャビチャビチャ』
元からいたゾンビの、吐き出し攻撃。
転がるように避けて、なんとか危機を逃れる。
「危なかった……」
いきなり足をつかんでくるのは、なかなかやっかい。
捕まっている間に他のゾンビがきたら、対処できなくなっちゃう。
「見えなかった……」
しょんぼりとした感じで、ナビ子さんがつぶやく。
もしかしたら、ゾンビの出現を教えようとしてくれたのかな?
戦闘に夢中で気づかなかったけど、地面が割れるといった前兆があるのかも。
ガシッ。
「ないかも!」
ちょうど足元を見ていたけど、いきなり手が伸びてきた。
ヒールを使って抜け出し、他のゾンビとも距離を取る。
「……」
どうしよう。
どんどん増えてきた。
さっさと倒さないと、他の人の迷惑になっちゃう。
『どこだ?』
りょーちゃんから、メッセージが届く。
「リザレクションのクエストを受けて、墓地にいるとこ」
『わかった』
場所を確認したってことは、来てくれるのかな?
そうだとしても、少しは減らしておかないと……。
ボコッ。
近くの地面が割れ、ゾンビがはい出てくる。
ボコッ。
ボコッ。
「無理かも!」
製氷皿の後ろ側を濡らすと取れやすいと聞きました。
これでもうぐねぐねやっても取れなくてウギーってなることもありません。
早速チャレンジ。
水ジャバー!
ゴトゴトゴト(シンクに直接落ちる音
※1、ゾンビ:RPGの定番モンスター。
VRでリアルに再現して欲しくないモンスター1、2を争う。
基本的に動きが遅い種族だが、たまに爆速で近づいてくるユニークな個体もいる。
現実世界で説明すると、普段は薄暗い部屋の中で運動もせずだらだら生活しているが、イベント会場に着くと普段からは信じられないパワーで物販を買い漁っていく腐った人。




