りょーちゃんと、ソファーで
「すごくおいしかったです」
「こちらこそ、美味しいオカズをごちそうさま」
夕食を食べ終わり、片付けの手伝いをする。
りょーちゃんは携帯端末をいじっていて、お母さんは……ゴロゴロしてる。
「千里くん、お風呂入ってくでしょ?」
「さすがに、そこまでお世話になるわけには……」
「入るー!」
「お母さん……」
ご迷惑をかけることになりそうだ。
「千里くんも一緒に入る?」
「ボクは大丈夫です」
「えー、ちーちゃん入らないのー?」
「家で入るから」
お風呂場に向かう2人を見送る。
ホントに仲がいい。
「りょーちゃんは何を見ているの?」
部屋に戻らず、どこかのサイトをチェックしていた。
「取引掲示板」
「ゲームしてなくても、ゲームのことしてるんだね」
「筋トレもしているぞ」
「それもゲームのためだよね?」
宿題なんかはちゃんとやっているので、特に問題はないのかもしれない。
ゲームに夢中でも、ボクよりずっと成績はいいし。
「斧が売れた」
「えーと……短剣の代わりに出たハズレ枠?」
「ああ」
「ハズレ枠でも売れるんだね」
「レア装備だからな」
剣や槍などと比べるとマイナー装備だけど、愛好者はいるらしい。
2斧流は『ロマンが詰まっている(※1)』とのこと。
「送金しておいた」
「ここからでも送れるんだ」
「メールで届いているはず」
「ありがと、ログインしたらチェックしておくよ」
お母さんを待つ間ひまなので、隣に座って一緒に見る。
「古ワイの素材は2Mか」
「あ、さっき出してる人いたよ」
同じ人かな?
……と思ったけど、他にもエンシェントワイバーンの素材が売りに出されていた。
小数点以下の確率でも、出る人には出ている。
運が良ければ2百万G。
一気に大金持ちになれちゃう。
またレイドボスが出現したら、優先して参加しよう。
「取引掲示板だと、どれも高価な品物ばっかりだね」
「安い品なら露店でいい」
「このゲームの最高額のアイテムって、どれくらいなの?」
前にやっていたゲームだと、インフレが進んで、億超え取引が当たり前だった。
露店で売る時は、単位を間違えないようドキドキしていた記憶がある。
「神話級装備だと、そもそも取引に出ない。あったとしても、神話級同士の物々交換くらい」
「お金より装備の価値が高いんだ」
「まだ始まって1ヶ月だからな。現金持ってるヤツが少ない」
「そっか」
なかなかお金がたまりづらいゲームだし、そこまで大金持ちの人はいないのかも。
「先行組の鍛冶や服飾なら、100M以上持ってるだろうが」
「……」
住む世界が違っていた。
1万Gすらたまらないというのに。
「何か始めようかな?」
「牧場買ってヤギ育てるのが安定」
「ヤギだと……チーズとか?」
「それも売れるが、ヤギ自体も売れる」
「ペット用とか?」
「いろいろ用途がある」
どうやら、本格的な牧畜ができるっぽい。
「愛着が湧いて売れなくなるブリーダーも多数いるが」
「その気持ちはわかるかも」
ゲームだとわかっていても、懐かれたら手放せなくなっちゃう。
羊とか乳牛なら、手放さなくても稼げるかも?
「ちなみに、初期費用ってどれくらいかかるの?」
「50kくらい」
「……」
お金を稼ぐためのお金がなかった。
まずは、地道に稼がないと……。
「毒短剣300k」
「りょーちゃんが狙ってるやつ?」
「ああ」
「現在の予算は?」
「30k」
「全然足りてないね」
りょーちゃんのことだから、もっと稼いでるんだと思っていた。
この値段なら、自力ドロップを狙いたくなるのもわかる。
「未強化品ならこの半額」
「それでも15万G」
素材なんかを整理しても、とても届きそうにない数字。
がんばってお金をためて、ヤギでも育てようかな?
着替えると言っていたことをすっかり忘れる主人公。
※1、2斧流:『それ2刀流でよくね?』の略。
2刀流と比べると、攻撃速度が遅く、専用スキルや武器の数が少なく、ダメージのバラつきがひどくて、弱点部位を狙いにくい。
武器が安いのと、最大ダメージだけは高いのが利点。
有用エンチャントを斧に使うと価値が下がるため、あとで売るのも大変。
一度おっさんが履いた靴下みたいな扱いになる。




