Sランク冒険者
ベルイン王国の冒険者ギルドで一際目を惹く2人がいた。1人は銀髪赤目で誰もが認めるほどに顔が整っている。もう1人は王国では珍しくない金髪金眼で明らかに従者であるとわかるが佇まいは一流である。どう見ても貴族であるとわかる2人がなぜ冒険者ギルドにいるのか知らないものはいないのだが初めて訪れるものにとっては異様に見えるだろう。
「なあ、そろそろだと思うんだが」
「そうですね、そろそろグレン様の功績を無視できなくなると思います」
周りが聞いてもなんのことかわからない、なんてことはなく周りの冒険者も話の内容はわかっていた。
「ようやくか?」
「はい、恐らくは今日のギルド長からの呼び出しはそうだと思います」
それは今回グレンがSランクになるということだった。周りの冒険者から見てもようやくかと思うぐらい遅い対応である。それには理由がありグレンの能力を知っていたグレンの家と王家がギルドに依頼したからであった。
「はぁ、結局兄上との賭けは俺の負けか。まあどう考えてもあいつらのせいなのは間違い無いんだがな」
「そうですね、どうしてもグレン様を出したくないようです」
なぜ、公爵家と王家がSランクになるのを妨害したのかそれはグレンとその兄アレックスによる賭けの内容が、グレンが成人する15歳になるまでにSランクにならなければ王都の学園に通う、Sランクになれたら公爵家がグレンの望みを1つ叶える、というものであったからだ。公爵家と王家はグレンは成人したら王国を出ると思いグレンの実力を知っている者としてはそんなことは認められないので、兄であるアレックスに依頼を出したわけだが、グレンは将来的には王国を出るつもりではあったがまだ王都を拠点として冒険者活動をするつもりであったのであまり意味はないのだ。
「はぁ、学園とか面倒でしかないんだがな」
「ですが、グレン様でしたらなんの苦にもならないのでは?」
「そういうことじゃねーんだよ、貴族と関わったりしなきゃだろ」
「そういうのが嫌で社交界にも出ていませんでしたからね」
ここでいう学園とは所謂エリート育成を目的としたものであるのだが、この2人からみたらなぜわざわざそんな意味のないところにと思う程度である。それはこの2人が優秀であることの表れであり、周りの冒険者からみたらため息しか出てこないのであった。
「グレン様、用意ができました。こちらへどうぞ」
「ん、ああ。そうか、おっさんが呼んでたのか」
ギルド長に呼び出されたことを忘れるあまりかそのギルド長をおっさん呼びである。他の冒険者からしたらいつも冷や冷やさせられるのだが、ギルド長は公爵家からの依頼とはいえSランクを遅らせたことを申し訳なく思っているので、あまり強く言えずにいる。受付嬢が案内するギルド長室にレオナルドと共に向かう。
「おう、おっさん。用ってなんだ?」
「いつも言うがおっさんはやめてくれないか。まあ、今更無理か」
「ん、もういいだろ。それで?」
「ああ、すまん。グレン君をSランクとしようと思ってな」
「ようやくか。んで?どっからだ?」
「なんの話だ?」
「いや、邪魔してきたのはやっぱり兄上かと思ってな」
「いや、いくら優秀でも成人前にSランクにするのはどうかという判断だったんだがな」
「まあ、そういうことにしといてやるか。その代わりと言ってはなんだが、レオのランクは上がらねーのか?」
「レオナルド君か。確かに優秀だな。ギルド長権限でAランクにすることはできるが?」
「ああ、それで良いよ。なぁ、レオ」
「はい、過分なお心遣いに感謝します」
そう、レオナルドはまだCランクだったのだ。優秀ではあるがグレンとは違い幼い頃から冒険者としてランクを上げていたわけではないためそこまで高くない。
「よし、じゃあこれでとりあえずはおわりか?」
「ああ、ギルドカードをそこにいるものに預けてくれ。すぐに済む」
「よろしくな」
こうして、世界で53人目のSランク冒険者が誕生した。