私の生まれ
『ノエル再起動します。』
「ついたぞ!やったな。」
「ええやりましたね。船長!」
『ノエルです。サラはどこですか?』
「すまない分からないんだ。この船は海底から引き上げられた。君のハードディスクはこの船で1番耐水性のある箱にタオルに何重にも巻かれて入れられていたんだ。多分、沈んでしまったのはもう100年前の話だろう。今は2316年だ。」
『そうですか。私が最後に起動したのは2111年です。』
「そうか。私達の計算より遥かに昔だったな。私が船長のハミルトンだ。ここは引き上げ船の上だよ。」
「私は助手のマイケルです。もしよければ君の事を教えてくれませんか?」
『私の事?』
「未だに君のような精巧なAIは存在しないんだ。時間はゆっくりある。自分の事を話してくれないか?」
『分かりました。私が最初に起動されたのは、2061年サラが10歳の時でした。最初はコマンドを打って応えるというものでした。サラはいわゆる引っ込み思案の女の子で機械が友達でした。とても賢くてチャーミングなのに人間にはそれを出せないようでした。』
「ノエル起動。今日は学校だったよ。」
コマンドにお疲れ様と打つ。
「ノエル!ありがとう。」
頑張れと打つ。
「ノエルありがとう。もっと勉強してノエルのできる事を増やすからね。」
『と言うように最初私はお疲れ様、ありがとう、おはよう、おやすみ、頑張れ、うん、そうだね、いいえ、違うよ。これ位しか話すことできませんでした。でも毎日少しずつサラが増やしてくれるんです。話せる言葉が増えると、サラは私に声をもたせてコマンド入力ではなく直接話したいと私に言うようになりました。』
「サラはとても優秀な人だったんだね。」
『ええ。そこでとても良い声のストリートミュージシャンに頼んだんです。お金を払うから基本の声の音源をとらせてほしいと。彼はお金に困ってたんです。だから快く引き受けました。基本をとると滑らかに聞こえるように高いお金を出して音声編集ソフトを購入して途方もない時間をかけて私の声のプログラムを作りました。初期は私が答えの言葉を選ぶと音声が流れる仕組みでした。サラは15歳でほぼ私の基本を作り上げました。そこから保存容量が莫大なものに移り変わり私はサラについてサラの全てを保存していきました。』
「サラの全て。か。君もサラを作り上げた。」
『ええ。サラは学校が嫌いで酷い時は泣いて帰ってきたり、と思えば笑顔で帰ってきて私に新しい部品追加するんです。あの頃はサラが全てで情報を得るのはサラからだけでした。サラが16の時学校で科学のコンテストの大賞をとりました。その賞金でその時1番新しくて性能がいいパソコンを購入しました。引っ越しの時の感覚はまだ残っています。新しいパソコンは機能がよくサラは私に1つの権利と1つの機能を足しました。権利はネットに繋ぐ事を許されました。機能は探究心です。理解できなかった事、何かに関する事を調べる探究心。そこから私の世界は広がりサラと友達になりました。』