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1、始まりは騒がしく③

ヒロイン登場回ですね、わかります

「ててて、てぇえへんだ! てぇへんだぁあああ!!!!」

「「何があった!?」」


 そしてホームルームが終わった頃、事件は起きた。

 隣のクラスに訪問していた太陽が慌ただしく紫苑と桜の目の前に現れたのだ。


 太陽は耳まで真っ赤になっており、興奮が冷めやらないのがよくわかる。いつもテンションは高いが言葉遣いからも分かるようにその差は歴然。

 これにはいつもの太陽の馬鹿っぷりを見ている二人をしても驚きを隠せない。

 故に紫苑は兎も角、武士の如く冷静を保つ桜さえも慌てて尋ねた。

 それに一瞬で返事をする太陽。舌は未だに回っていないようだが必死にその内容を伝えた。


 というのも先程隣のクラスに忘れた教科書を取りに行った時のことだった。

 太陽はすぐに野球部のチームメイトを見つけ出し、その席まで行こうとして…固まった。

 その原因はその席の横にこそあった。

 美少女だったらしい。

 超弩級の、モデルでも中々にいないレベルの、超絶美人。


「「ないわ〜〜」」

「何ぃっ!!なんだと!!? 俺がそんなに信じられません!!?」


 この時、紫苑と桜は顔を見合わせて一拍。


「別にお前を信じてないとかそんな問題とは違うぞ?」

「ただ胡散臭いだけだ」

「言ってるようなもんだろ! それ!!」

「とは言え盛りすぎだぞ。美女見たから硬直するとか無いだろ」

「ああ、無いな。間違いなく無い」


 流石に過剰すぎるだろ、と二人は笑う。

 二人は全くもって信じていないらしい。案の定窓の方を見て、太陽の視線と目を合わせないようにしている。さも見ては教育に悪いものから逃れるために。逃れるために!!

 しかし太陽はそれに堪えきれなかったようで指を立てて、叫んだ。


「よしっ! 言ったなお前ら! 隣のクラス見に行くぞ! ぜってぇー、固まらせてみせてやる!!」

「なら負けた奴は揚げ物奢れよ」

「上等だ」

「…やったるぜーーーー!!!!!」

「一瞬詰まっただろ」

「それで良くもお前自信満々に言えたな」

「うっせー!!! ぜってぇー固まるから!!」


 そうして太陽は椅子に座ったままの紫苑と桜を椅子ごと引きずり、隣の教室まで連れて行く。

 ちなみに彼らは五組で隣は六組だ。この学校は一学年12クラス。近頃の学校とすればそれなりに人数が多いのだ。


 それは兎も角、紫苑達は太陽に促されるまま扉から教室の中を覗いた。一応太陽がそれだけの興味を示したという時点で紫苑達はちょっとは気になっているのだ。

 つまりは「こいつ、どんな奴が好みだろうか?」的な下心満載の内心である。


「ほら! 窓側の一番奥! あの人だって!」


 指し示された指。失礼だな、と思いながら紫苑はその先を追う。一直線にその先をなぞり、そして見つけ出した。

 目を張った。

 身体が止まる、なんていう問題ではなかった。

 むしろ身体は慌ただしく蠢いた。震えた。火照っていった。


 髪の長い三つ編みの女性。

 モデルのような見た目でスリム、というのが一般的だろう。

 決して男受けのいい体格ではないが、そんなことなど意味をなさなかった。

 凛とした美しさ。

 彼女の持つ雰囲気は万人をも引き寄せる。

 もちろん顔も猫のような愛嬌があり、可愛らしい。

 美しさと可愛らしさ、両方が彼女の中で際立っていた。


 視界が震える中、紫苑は自覚する。

 己の高鳴る鼓動を。

 そして理解した。

 己の一目惚れを。


「…単純だな、俺」


 二人に聞こえないように紫苑はポツリと呟いた。声に出さずにはいられなかった。

 人生初めての恋はあまりにも高い、高嶺の花。

 それを意識せずにはいられなかった。

 それを理解しての心の声だった。


「で、どうよ! めっちゃくちゃ綺麗だろ!」

「そうだな」

「「!?」」


 桜がそう即答する。

 基本桜は人のことを綺麗だのどうのとは言わない。

 あまり女子に興味がないという噂がつくほどに桜はラブレターやら告白やらをバッサリと切り捨ててきた。

 最も男子のことが好きという噂までは出てはいない。やはりイケメンはそんなマイナスイメージを払拭できるようだ。

 そのため紫苑と太陽は桜の発言に目を張った。


「だがタイプではないな」

「…さいですか! そうですか、畜生め!!」

「………」


 太陽が桜をからかえると思ったのかその期待を裏切られ、叫ぶ。

 太陽の「じゃあお前のタイプなんなんだよぉおおおお!!

 」という虚しい叫びが響く。「生涯一人だけしか好きにならない予定なんだ」と桜は流す。それにまた太陽は発狂した。

 モテない男の悲しい断末魔。

 それにそこらの男の子が首を縦に振った。涙も流している。


「…良かった」


 思わず口に出ていた。

 紫苑はそれに自ら驚愕した。


 どうやら恋というものは自分を狂わせるらしい。

 そう自覚せずにはいられなかった、今日この日であった。

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