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2:初クエスト

追記:少し改稿しました。メインストーリーに影響はありません。

 ギルドからはすでに撤退し、今は洞窟にいる。


 本当に最悪な場所だった。


 ギルドには酷い連中しかいないのか?


 思い出したら、物凄く腹が立ってきた……


 だが、俺よりもマリンカの方が精神的ダメージが大きい。


 マリンカは、ずっと下を向いて一言も喋らない。


 なんて声を掛ければ良い……?


 そんな風に悩んでいると、マリンカが口を開いた。


「……ご、ごめんなさい……私の所為で2人に酷い事を……」


「なんでマリンカが謝るんだ?悪いのはギルドに居た人間だろ」


「そーだよ。あんなゴミ共、生きてる価値も無いですから。マリンカちゃんが謝る事なんて無いよ」


 いつの間にかマリンカの口調が戻っている。


 マリンカは何一つ悪くないのに。


「……でも、私がこの服をしっかり被っていれば、あんな事態には……」


「いや、私が水晶を爆発させたからだよ……悪いのは私だよ……」


「俺がギルドに行こうと言わなければ、こんな事にはならなかった……悪いのは俺だ……」


 皆が、それぞれ自分を責め始めてしまった。


「私の所為で2人まで悪く言われて……本当に……ごめんなさい……」


 ついには泣き出してしまった。


 どうして、彼女のような優しい少女が泣く必要があるんだ。


 ここまでさせたギルドの奴らが憎い。


 部長よりも憎いと思ったのは人生で初めてだ。


「大丈夫だよ。私達は全然気にしてないから。ごめんね……こんな思いさせちゃって……」


 紬がマリンカを抱き寄せて頭を撫でる。


「本当にごめん……もう、二度とマリンカにこんな思いはさせない。ずっと俺達が側に居るから……」


 俺もマリンカの頭をそっと撫でる。


 なんとなく、そうしなければならないと思った。


 その瞬間、マリンカの泣き声は大きくなった。


「……ありがとう……本当に……ありがとう……」


 洞窟にはマリンカの泣き声だけが響き渡る。


 もう、マリンカを泣かせたりはしない。


 この世界は、本当に残酷だ。







 洞窟の外は既に真っ暗だ。


 スマホのライトをつけて、3人で今後の予定を組む。


 なんとかマリンカは落ち着いたようで、今は泣き止んでいる。


「今後をどうするか決めよう。2人とも良いか?」


「良いですよ~!」


「……だ、大丈夫……」


 2人の了承を得たので自分の意見を述べる。


「とりあえず、俺はこの町から離れた方が良いと思う。他の町や村に行くとか。でも、お金がない。せめて宿に泊まれる程度の資金は欲しい。その為にはギルドの依頼を受けるしかない。だが、1日で依頼をこなして、宿を探すとなると相当キツイ。朝早く洞窟を出て隣町に行けば何とかなるかもしれないが……ちなみに、隣町までどれくらい離れているんだ?」


 確認の為にマリンカに問う。


「……森を抜けたらすぐって事しか分からない……行った事が無いから……」


 それだけでも良い情報だ。


「森の深さにもよるが、何とかなるだろ。まぁ、そんな感じで俺は考えているが」


「それで良いんじゃないでしょうか?恐らく、この洞窟が街の人間にバレるのも時間の問題でしょうし」


 バレたら非常にマズイ事態になる。


 いち早く、この洞窟を出た方が良さそうだ。


「マリンカは大丈夫?洞窟を離れる事になるけど……」


「……大丈夫……」


「よし。なら、明日にでも隣町を目指そう。という訳で、今日は早めに寝るか」


「そうですね。それでは、おやすみなさい」


「……おやすみ……」


「うん、おやすみ」


 就寝前の挨拶も終わり、毛布が1つしか無い為、3人で一緒に寝る。


 ちなみに俺は真ん中だ。


 こんな経験、二度と味わえないだろう。


 それはともかく、俺は目を瞑りながら今日の事を振り返る。


 紬と出会って、ギルドに行って……そこからは思い出したくない。


 そんな事を考えながら、俺はいつの間にか眠っていた。







 目を覚ます。スマホの時間を見る。


 五時。


 早い。会社の出社時間よりも遥かに早い。


 昨日は早めに寝たからだろうか?


 疲れていたのに凄い早起きになってしまった。


 今更だが、この世界は1日24時間なんだな。


 体を起こし、両隣を見る。


 そこでは、マリンカと紬が気持ちよさそうに寝ていた。


 何とか2人を起こさないようにして毛布から抜け出す。


 さて、どうしようか。


 もう眠気も無いし、少し早めに隣町への出発準備でもしておくか。


 とりあえず服を着替えて、前まではマリンカの枕になっていたバッグを持ってくる。


 バッグには食料と着替えを入れる事に決め、適当に食料と着替えをバッグに放り込む。


 すると、放り込んでいた服の1部に、見覚えの無いモノを見つけた。


 ……あれ?俺ってこんな服持ってたっけ?妙に可愛らしいな……


 あ、紬のか。


 今まで気づかなかったが、この神様しっかりしている。自分の着替えを持ってきていた。


 そして、また私物では無いものを見つける。


 ……!?


 これは!?


 そこにあったのは、女性物の下着だった。


 しかも、妙に色っぽい。


 俺の荷物に入っていたという事は……紬の物か……?


 ……何でこんな刺激的な物を持ってきているんだ……


 朝から刺激が強すぎる。


 すぐに手に持っていた紬の物だと思われる服を置き、下着を隠す。


 危ない。


 これは罠か?


 服を片付けるのは後にしよう。


 また罠に掛かるのは避けたい。


 俺は一通り食料と着替えをバッグに入れ終わると、まだ開けていない段ボール箱が数箱ある事に気づく。


 そういえば、まだ何かあったのか。


 開けていない段ボール箱の1つを開けると、中にはキャリーバッグが入っていた。


 そういえば持ってたな。


 家族旅行をしたっきり押し入れに仕舞っていたのを忘れていた。


 丁度良い。


 パソコンとか、他の荷物を入れるのに使おう。


 結構なサイズだ。バッグに入りきらなかった食料などを入れる事も出来そうだ。


 俺は開封されていない段ボール箱に近づき、その段ボール箱を開ける。


 中には俺が昔に愛用していたリュックサックと、姉さんが俺の自宅に忘れていった雑誌や本が入っていた。


 しかし、だいぶ物を運ぶ手段が増えたな。


 これなら、荷物を全部運べそうだ。


 早速、荷物をキャリーバッグに詰める。


 その作業中に、後ろから声が聞こえてくる。


「……おはようございます。翔也さん」


「おはよう、紬」


 紬が目覚めたようだ。体を起こして俺の方に来る。


「荷物の整理をされていたんですか?」


「あぁ。……そういえば、あれって紬の持ち物か?」


 先ほどの可愛らしい服を示す。


「そうですよ。一応自分の荷物も持ってきました。過去に人間になった時に着た服があったので」


 やはりか。


「俺はこっちを整理しているから、自分の服とかをリュックサックに仕舞っておいてくれ」


「はい。わかりました。あ、その前に着替えてきますね」


 そう言って紬は、置かれている服の前まで来ると何の前触れも無く服を脱ぎだした。


 急いで作業に戻る。


 危ない。見えてしまうところだった。


 見たくないと言えば嘘になるが、ここで見てしまったら人として駄目な気がする。


「見ても良いんですよ?」


「……遠慮しときます……」


 心を読まれた……?


 元神様だからか?恐ろしすぎるだろ……


 俺がそう考えている内に着替え終わったのか、紬の方から荷物をリュックサックに詰める音が聞こえてくる。


 しばらく2人で荷物を片付けていると、マリンカが眠そうに毛布から起き上がってきた。


「……お、おはよう……」


「おはよ~!」


「おはよう、マリンカ」


 これで全員起きたな。


 後は、毛布を仕舞うだけだ。


「……着替えてくる……」


 そう言い残すと、マリンカは洞窟の端に畳んで置いてあった服を持ってくる。


 そして、困った顔をして俺の方を向いて来る。


 どうしたんだ?


「……え、えーと……」


「あ、ごめん」


 俺が見ているから着替えられないのか。


 何故俺は気が付かなかったんだ。


 マリンカの居る位置とは真逆の場所を見つめていると、マリンカが声を掛けてくる。


「……着替え終わった……」


「よし、これで準備完了だな」


 早速、隣町に向かって洞窟を出る。


 その時に、マリンカが洞窟に向かって何かに物思いふけていた。


 今までこの洞窟で過ごきたのだから、色々と思う所があるのだろう。







 森の中を進み、何とか道が舗装されている場所へ出る。


 これなら、キャリーバッグを引くだけで済む。


 ちなみに、キャリーバッグを見た時にマリンカは再び驚いていた。


 体感で30分くらい歩いていると、フーバールの町とは違う町が見えてきた。


「アレが隣町か……ちなみに町の名前って分かる?」


「……ごめん……分からない……」


 行った事が無いなら知らないのも無理は無いか。


 何で聞いたんだろう、俺。


「とりあえず、ギルドの場所の確認と宿の確保か。それじゃ、適当に誰かに聞くか」


 適当に、この町の住民っぽい女性に話しかける。


「すみません、ギルドと宿の場所をお聞きしたいのですが……」


「あ、冒険者さん達ですか?ギルドなら、そこの道を左に行った所にあります。宿はその奥にありますよ」


「ありがとうございます」


 ギルドも宿もお互い近い場所にあるようだ。


 冒険者は色々な場所を移動するっぽいし、当たり前なのかもしれない。


「まずはギルドからだな。先に資金を調達しないと、宿に泊まれないし」


「私達でも可能な依頼があると良いんですけどね」


 女性に教えてもらった道を歩いて行く。


 すると、妙に騒がしい建物があった。


 ギルドだ。


 中に入り、依頼の紙が貼ってある壁に向かう。


 うん。字が読めない。


「あのさ、マリンカ。俺は字が読めないから代わりに読んでもらってもいいか?」


「ごめんなさい。私も読めないので頼んでも良いですか?」


「……う、うん……分かった……」


 マリンカは返事をすると、壁に張られた紙を端に目を向けた。


「……えーと……アレが、ポイズンリザード10匹討伐……」


「ポイズンリザード?」


「……森にいた魔物……」


 あのトカゲってポイズンリザードっていうのか。


 ……待て。ポイズンって事は、あのトカゲ毒持ってたのかよ!?


 ……危ないな。噛まれてたら死んでいたかもしれなかったのか……


「……ごめんマリンカ。採取系の依頼に限定してくれ……」


「……あ、うん……そうだった……ごめん……」


 あんなトカゲに勝てるわけがない。


 そもそも武器も戦闘力も俺には無い。


「……これが、治癒のポーションに使う薬草の採取……でも、報酬が少ない……」


「うーん。それって、宿に一泊も出来ないくらい?」


「……多分……ただ採取するだけだから……」


 紬の問いにマリンカが答える。


 採取するだけだったら依頼者にも出来る。


 仕事で忙しいとか、危険な魔物がいるとかだったら理解出来るが、報酬が低いという事は依頼者が採取するのを面倒くさがっているだけか。


「……え?……何これ……」


 ある1枚の紙に目を通した所で、マリンカが急に困惑した表情になる。


「どうした?何か出来そうな依頼があった?」


「……いや、この依頼……すごく変な上に報酬が高いなと思って……」


「どんな内容なの?」


「……『光属性か闇属性の方、ここより東にある研究所に来てください。依頼内容はその場で話します』……だって……」


「怪しい上に、なんて好都合なんだ」


 報酬が高くて、光属性と闇属性を探している?


 好都合すぎる。


 だがしかし、とても怪しい。


 なんか罠とかありそうだな……


「研究所って事は、人体実験でもする気か?」


「……え……」


「……翔也さん、流石にその冗談はちょっと……」


 軽い冗談だったのに物凄く引かれた。


「ゴ、ゴメン!でも、人体実験は言い過ぎたとしても、何か裏があると思うけど……」


「うーん、行ってみない事にはなんとも……」


「……ちなみに、報酬は金貨7枚……」


 金貨7枚がどれだけ高いのか分からないが、マリンカが高いと言っているのだから高いのだろう。


「行ってみれば何か分かりますよ。とりあえず行ってみましょう。私は良いと思いますけど」


「……私も大丈夫……」


 マリンカはともかく、紬はこのクエストに出番は無いと思うが……


「2人が大丈夫と言うならコレにするか。じゃあ、この依頼を受付に出してくるから待ってて」


 壁から紙を剥がして受付に持っていく。


「すみません。この依頼を受けたいのですが」


「はい、こちらの依頼ですね……って、この依頼は……」


 受付の女性の顔が引きつっている。


 もしかして、光属性か闇属性を求めているクエストだから、どちらかの属性だと思われたのか?


「いや……こちらの依頼は、誰一人受けたがらない依頼内容だったんですよ。内容が内容なので……」


「あー……そうでしょうね」


「ですので、依頼者の方がどんどん報酬の方を上げていったんですが、それでも受ける人がいなかったもので……」


 だから報酬が高かったのか。


 この世界は光属性も闇属性も特殊な属性っぽいし、そういうものなのかもしれない。


「では、こちらの依頼を受けるという事でよろしいでしょうか?」


「はい。大丈夫です」


「では、お気を付けていってらっしゃいませ」


 属性を聞かれなくて助かった。


 光属性か闇属性かは確定してしまっているが。


 というか、身分証明書みたいなのも必要無いのか。


 意外と雑なシステムだな。


 俺は依頼の受付を済ませ、マリンカと紬のもとに戻る。


「よし、早速行ってみるか」


「おー!」


「……お、おー……」


 俺達の初クエストが始まった。


 依頼内容はその場で話すという事だが……


 本当に大丈夫だろうか?

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