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1:ギルド

物語にズレが生じた為、主人公の話し方を修正しました。


追記:少し改稿しました。メインストーリーに影響はありません。

「初めまして!篠塚紬と言います~!」


 満面の笑みでマリンカに自己紹介をする神様、篠塚紬。


「…………」


 それに対し、「……誰……?」と言ってくるようにマリンカが俺の方を見上げる。


「……えっと、幼馴染だ」


「はい!翔也さんの幼馴染です!」


 いつの間にか名前呼びになっている。


 俺も名前で呼んだ方がいいのだろうか?


「マ、マリンカです……」


「マリンカちゃんだね。よろしくね!」


「よろしくお願いします……シノツカツムギさん……」


「あ、私も篠塚が姓で紬が名です。それと、そんなに堅苦しくなくても良いですよ~。気軽に紬とお呼び下さい~」


「……あ、うん……ツムギ……」


 マリンカも自己紹介ををする。


 仲良くなってくれるだろうか。


「……あ、あの私、闇属性なんです……」


「ん?闇属性?」


「なんで紬さんが知らないんだよ」


 なんで知らないんだ。


 急いでいたとはいえ、あなたがこの世界に飛ばしたんだろ。


「それはですね……翔也さんが亡くなってしまうのが急だったので、言語が同じっていう共通点だけでこの世界を選んだんですよね……というか、今名前で呼んでくれました?」


「……マズかったか?」


「いえ、嬉しかったもので!それと、呼び捨てでも構いません!」


 本人が呼び捨てで良いいうのなら呼び捨てで良いだろう。


 それと、さりげなくこの世界を選んだ理由を聞けた。


 言語が一緒っていう事か。


 確かに、今まで気にも留めなかったが、マリンカとは普通に会話が出来ている。


「……そういえば、この世界の記憶は無いのに何でツムギの事……?」


 あ。


 そういえば、そういう設定にしてたっけ?


 ……忘れてた。


「あ、えーと、紬の記憶は残ってるんだ」


「…………」


 急いで誤魔化す。


 自分で言っておいて何だが、記憶喪失って設定面倒くさいな。


 そして、初めて俺が記憶喪失と聞いて紬が少し驚いていたが、こちらの事情を分かってくれたのだろう。


 すぐに納得したような表情になった。


「さて!とりあえず落ち着いたのでご飯にしましょう!さ、翔也さん!お願いします!」


 そういえば、朝食を食べていなかった。


 紬の登場ですっかり忘れていた。


 バッグから適当にコンビニ弁当を取り出す。


 海苔弁当でいいかな。


「……また見た事ない食べ物がある……」


 マリンカの視線は海苔弁当のフィッシュフライに注がれている。


「これは魚を揚げた物だよ。で、上に乗っているのがタルタルソースっていうんだ。大丈夫、美味しいよ」


「わ、分かった……食べてみる……」


「じゃあ、私も頂きます~」


 2人はそれぞれ海苔弁当を食べだした。


 俺はというと、海苔弁当が二つしかなかったので唐揚げ弁当を食べている。


 昨日はスナック菓子しか食べていなかった分、すごく美味しく感じた。


 そこで、ある事実に気が付いた。


 このままのペースで俺の食料を食べていけば、早いうちに全部無くなってしまう。


 それに、食料を保存する手段もない。


「そういえば、ここではどうやって資金稼ぎをすれば良いんだ?このままだと結構困る事になる」


「……一番簡単なのが……ギルドの依頼を受ける事だと思う……」


 クエストか。いかにも異世界らしい。


「依頼って、どんなものがあるんでしょうか?」


 海苔弁当を完食した紬も興味を示してきた。


 まぁ、これから一緒に行動するとなれば当然か。


 ……というか、完食するの早くね?


「……魔物を討伐したり、薬草とかを採取したり……あとは、頼まれた物を遠くに届けるとか……」


 魔物か……昨日のトカゲを見た後だとなぁ……


 薬草も種類とか知らないし、遠出するのもなぁ……


 デスクワークばかりやっていたからなのか、あまり動きたくない。


 社畜はいきなり異世界に来るものじゃないな。


「どれも面倒くさそうだな……」


「仕方ないですよ。この世界にはパソコンなんてものは無いですから」


「パソコン作業も嫌なんだが」


「……ぱそこん……?」


 知らない単語が出てきて困っているマリンカは放っておこう。


 一からパソコンを教えるのなんて疲れる。


「とりあえず、ギルドに行ってみるか。何か出来る仕事があるかもしれない。それと、自分の属性も知りたいし」


「あ、私も行きます!」


「そうか。じゃあ、俺たち二人はギルドに行ってみるけど、マリンカは……えーと……」


 マリンカにギルドへの案内をしてもらいたいが、マリンカは小さい時にギルドで嫌な思いをしている。無理やり連れていく事は避ける。


「……だ、大丈夫……多分……」


 本当に大丈夫だろうか?


 彼女は周りから色々と言われて命を絶とうとした。


 それほど辛い筈なのにギルドに行くという事は、相当な決断をしたはずだ。


 彼女を信じてみよう。


「無理だけはしないでくれ」


「……?」


 紬は状況が理解出来ていないようだ。


 説明しておかなければ……




 ◆




「……何ですか、それ?闇属性だからって差別するんですか?……はぁ……人間の事はよく分からないです……」


 説明を受けた紬は呆れているようだ。


 俺も人間だが、人間の事はよく分からない。


「マリンカちゃんは今まで辛い思いをしてきたんだね……大丈夫。私達が守ってあげるから」


「う、うん……」


 そう言って、紬はマリンカに抱き着いた。


 マリンカは急に抱き着かれてビックリしていたが、嫌というわけでは無いようだ。


「よし、じゃあギルドに行ってみるか。マリンカ、案内してもらって良い?」


「……う、うん……」


 マリンカに案内を頼むと、俺達はギルドを目指して洞窟を後にした。




 ◆




 マリンカを先頭に森を進むんで行くと、徐々に町のようなものが見えてきた。


「アレがギルドのある町か……」


「……うん……フーバールっていう町……」


「私達が住んでいた所とは全然雰囲気が違いますね。翔也さん」


 日本の事か。確かに、この町は日本とは似ても似つかない。


 なんとなく、中世ヨーロッパみたいな感じに見える。


 うん、ザ・異世界って感じの町だ。


 町の人達は色々な話で盛り上がったり、小さな子供は外で元気に遊んでいる。


 でも、この人達はマリンカを差別する。


 マリンカには一応、バッグの中にあった俺のコートを被ってもらい、正体がバレないようにしてもらっているが、気を引き締めて行くとしよう。


「お!アンタら、この辺では見ない顔だな?冒険者か?」


 知らない男性がいきなり話しかけてきた。


 へー……冒険者はよくこの町に来るのか。


「そんなところです。ところで、ギルドの場所を教えて下さいませんか?」


「ギルドなら、そこの道を右に行ったらある。目立つからすぐ分かると思うぜ」


「分かりました。ありがとうございます」


「デカい依頼選んで死ぬんじゃないぞー!」


 別れ際に男性が笑いながら忠告してくれた。


 俺達は初心者パーティに見えたのだろうか?


 まぁ、初心者だが。


 それよりも……


「マリンカだとバレなかったみたいだな」


「そうだね……」


 今の会話で、マリンカだとバレる心配も無くなった。


 コートが取れたら終わりだが。


 男性に教えてもらった通りに行くと、人で賑わっている建物があった。


 ここがギルドか。


 中に酒場もあるようだ。


「どう見てもここがギルドだな……ちなみに、ここで合ってる?」


「……うん……ここがギルド……壁に貼ってある依頼の紙を奥の受付に持っていくと依頼を受けられる……それと……受付の前にある水晶で属性がわかる……」


「早速行ってみるか……」


 ギルドの中に入ると、酒場の方では、まだ昼間なのに酒を飲んで騒いでいる人達が居る事が分かる。


 俺も久しぶりに飲みたいな……


 社畜の時は、酒を飲む暇すら無かったからな……


 酒の事は一旦忘れて、まずは属性を確かめる。


 壁に貼られている依頼の紙を少しだけ見たが、文字が読めなかった。


 受付に行き、カウンターにいる女性に声をかける。


「すみません。自分の属性を知りたいのですが……」


「はい。分かりました。では、こちらの水晶に手を翳してください」


 この水色の水晶か。


 俺は言われた通りに水晶に手を翳した。


 すると、水晶が白く光り出した。


 ……ん?光出したのは良いが、どうやって属性が分かるんだ?


「えーと……俺の属性は何ですか?」


 属性の見方が分からなかったので受付の女性に尋ねると、その女性は驚いた表情で水晶を見ていた。


「……す、凄いです!初めて見ました!光属性を持つ方!」


 女性は一人で物凄く興奮し始めた。


 ……そういえば、光属性を持つ人は、天使とか何とかって言われるんだっけ?


 え?それって俺凄くね?


「何!?光属性だと!?誰だ?光属性の奴は?」


 受付の女性の反応を聞いていた周りの人達が集まってくる。


 なんでこんな事になった。


「紬の仕業か?」


「違いますよ。私は翔也さんをこの世界に転移させただけですから。恐らく、光属性なのは元からだと思います」


 マジか。


 俺ってそんな凄い存在だったのか。


 もしかして、本当に生まれる世界はこっちだったんじゃないか?

 

「すげぇ!初めて見たぜ光属性!おい、アンタ!俺と握手してくれ!」


「ちょっと!天使様と握手するのは私が先よ!」


「にーちゃん!俺らのパーティに入らないか?」


「おい待てよ!僕らのパーティも欲しいんだぞ!」


 光属性と分かると一気に目立ってしまった。


 いきなりパーティに入れようとしてくる奴もいる。


 俺は初心者なのに。


 光属性がいるっていう事実だけが欲しいのだろうか?


 愚かすぎる。


 初心者だからって、簡単にパーティに入ると思っているのか。


「最初から凄い属性を出しちゃうなんて……後の私の事も考えてくださいよ……」


「いや、俺にはどうする事も出来ないだろ……」


 文句を言いながらも、紬も水晶に手を翳す。


 すると水晶は、カラフルな色で光り輝いたかと思うと金色変わった。


「え?何こ……」


 紬が何これ、と言い終わる前に水晶は爆発した。


 水晶の破片が周りに飛び散ったかと思ったら、空中で静止している。


「だ、大丈夫か!?」


 急いで紬の安否を確かめる。


「ちょっと爆風で飛ばされちゃいましたけど、怪我は無いみたいです」


「良かった。そっちは大丈夫か?」


 マリンカの方を向く。


 すると、マリンカが困惑した表情で俺を見てきた。


 見ると、コートは爆風で吹き飛ばされてしまった事が判明した。


 ……これはマズい。


「今の爆発は何だ!?何が起こった!?」


「さっきのねーちゃんは大丈夫か?」


「まさか、誰か魔法を使ったの!?」


「皆さん!落ち着いてください!この建物は魔法による被害から守るため、魔法は発動出来ません。異常を感知したら、その対象に時間停止魔法が発動します。爆発による被害はありません!」


 未だに、周りは水晶の爆発に気を取られている。今のうちに逃げなければ。


 が、そんな思惑は叶わずに、1人の男性がマリンカに近づく。


「そこの嬢ちゃん大丈夫か……って、なんでこいつがここに居るんだ!?」


 どうやら、男性はマリンカの存在を知っていたらしい。


 どうして気付くんだよ……


 男性が叫んだ事により、さっきまで水晶の爆発で騒いでいた人達が一斉にマリンカの方を向く。


「あ、悪魔だ……悪魔がいる!」


「あの子供がどうしたんだ?」


「あいつは闇属性だ!きっとこの爆発もアイツの仕業に違いない!」


「というかあの子、天使様の連れの子だったわよね?」


「あの光属性の小僧、悪魔と手を組んでいたのか!?」


「光属性かも怪しいぞ……」


 マリンカを見た瞬間、周りが好き放題言い始めた。


 突如、気分が悪くなる。


 なんかこんな場面が俺にもあったような……?


 ……あぁ、会社に居た時か。


 その頃マリンカは、周りの人間に怯えてしまって今にも泣き出しそうだ。


 一旦この場所から逃げるしかない。


 だが、すぐに危険が迫ってくる。


「丁度良い!悪魔狩りを始めよう!さぁ、俺の力を思い知れ!この悪魔め!」


 見た目がムキムキな冒険者みたいな男が、斧を振るってマリンカに襲い掛かる。


 その瞬間、男の動きが止まった。


 そういえば受付の女性が、異常があったら時間停止魔法とかなんとかが発動するとか言ってたな。


 発動しなかったら大参事だぞ。


「皆さん!落ち着いてください!」


「悪魔達め!さっさと失せろ!」


「堕天使に堕ちた愚か者が!」


 受付の女性が呼びかけているが、周りの好き放題は終わらない。


「すみません。ご迷惑をお掛けしました。こちらにどうぞ……」


 別の受付にいた女性がカウンターの奥へと俺達を誘導する。


 その先には、外へと通じると思しき扉があった。


 従業員専用の出入り口か。


 その前に、マリンカと紬を回収する。もちろんコートも。


 扉の前に来ると、受付の女性が頭を下げて来た。


「この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。皆さま、お怪我はありませんでしょうか?」


「……はい。大丈夫です」


「それは良かったです。それで提案なのですが……今後は、このギルドには近づかない方が良いかもしれません」


 当たり前だ。


 言われなくても二度とこんな場所には来ようと思わない。


「本当に申し訳ございません……お嬢ちゃんもゴメンね……」


「…………」


 受付の女性が謝るが、マリンカは下を向いて顔を見せずに、一言も話さない。


「翔也さん、早く戻った方が良いかもしれません」


「そうだな……こちらこそご迷惑をお掛けしました」


 とりあえず謝っておく。


 これは、水晶を紬が破壊してしまった事についてだ。


 現在起こっている騒動に関しては微塵も悪いと思っていない。


 そう思いながら、従業員用の出入り口から外に出る。


 まだ、町の全体にまで騒ぎは広まっていないはずだ。


 今のうちにさっさと洞窟へ向かう。


 ギルドの方からは未だ騒ぎ声が聞こえてくる。


 ……最悪な場所だった。

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