6:覚めない夢と訪問者
追記:少し改稿しました。メインストーリーに影響はありません。
マリンカと話し終わり、今は彼女が住んでいるという洞窟にいる。
ここに来るまでにさっき襲われたトカゲを一匹見つけたが、なんとかバレずに済んだようだ。
バッグを置き洞窟内を見渡す。
入り口は狭かったが、中は意外と広めで地面は平たく、奥行きもある。
特に危ない所は無いように見えた。
まぁ、彼女が暮らしているという事は何も問題ないはずだ。
だが、少し暗い。
何か明るくするものを探そう……あ、そういえば……
ポケットに手を入れる。
良かった。あったスマホ。色々と起こりすぎて今まで忘れていた。
試しに起動してみる。
……何となく分かっていたけど、やっぱり圏外か。
夢なんだから、そこは繋がって欲しかった。
「……何それ……?」
マリンカが不思議そうにスマホを見てくる。
「うーん……俺だけにしか使えない道具?」
疑問に疑問で答える。
恐らく、この世界でスマホを持っているのは俺1人だけだろう。
ともかく、スマホでライトを起動する。
うわ、結構明るいなコレ。
隣では、マリンカが急な発光にびっくりしていた。
「……そんな道具見たことない……さっきの食べ物も……一体何者……?」
何者と言われてもな……
別の世界から来ましたとか、これは俺の夢の世界だから、俺が絶対なんだ、とか言えない。
「ただの一般人だよ。そんなことより、ちょっと聞きたい事がある。マリンカはどうして空から落ちてきたんだ?」
適当に誤魔化し、思い出したことを聞く。
彼女は空から降ってきた。
俺が罠を起動してなければ、間違いなく死んでいただろう。
「……もう、周りの人の目を気にする今の生活に耐えられなくなって……もういいやって……」
……なんかシンパシーを感じる。
この少女も俺も、周りから虐げられていたからだろうか……?
「……その気持ち凄い分かる……俺も職場で周りから色々言われてたから……」
「……そ、そうだったんだ……」
あ、ヤバい。運命感じたかも。
同じ苦痛にあっている二人が偶然出会う……よくあるパターンだ。夢だから同じ境遇の少女に出会ったのだろうか。
「お互い大変だったみたいだね」
「……うん……」
ふとマリンカと目が合い、お互いに恥ずかしくなって目を同時に逸らした。
あぁ……夢なんだよなコレ……
もっと見ていたい。夢から覚めたくない……
しばらくの間、マリンカと洞窟内で会話していると、洞窟の外が真っ暗になっている事に気付く。
流石にスマホのライトだけでは心細くなってきたな。
それと、今日は色々とあったからだろうか。急に眠気が襲ってくる。
……ここで寝てしまったら、目覚めた時にはまた地獄の社畜生活か……
もっと起きていたい。
もっとマリンカと話をしていたい。
もっとこの世界で生きていたい。
だが、マリンカも眠そうにしている。無理やり彼女を起こしておくのも可哀想だ。もう寝よう。
「そろそろ眠くなってきたから、寝るか……」
「……うん、そうする……」
眠そうにマリンカが答える。
「今日は色々とありがとう。助かった……じゃあ、おやすみ」
「……わ、私も……おやすみ……」
石の上に体を寝かせる。
ボストンバッグはマリンカに枕代わりに使ってもらった。
俺は枕が無くても寝られる。
あぁ、もうこの楽しい時間も終わりか……
色々とあったなぁ……
目が覚めたら知らない森で、化け物トカゲとあって、魔法を起動させて、マリンカと出会って……
次起きた時には再び地獄の会社。
そう思うと嫌になってくる。
このまま目覚めなければいいのに。
なんて色々と考えているうちに、意識は無くなっていた。
背中に冷たい感覚がある。
何処だ……?あぁ、もう朝か。
……夢から覚めてしまったのか。
また今日から地獄の社畜生活か。
嫌だな……起きたくない……
そう思いながらも、自然と意識が覚醒する。
目に入るのは自分の寝室の天井ではなく、石ばかりの天井だった。
……ん?……どういう事だ?
目覚めたら洞窟?
何故だ……まるで夢の続き見ている感覚だ。
体を起こして周りを見渡す。
隣には、ボストンバッグを枕にして寝ている少女がいた。
マリンカだ。
……目覚めても夢から覚めない?
言葉が矛盾している。寝ぼけているのか、元からぼけているのか、今の状況がわからない。
もしかして一生覚めない夢なのか?
……なんかそれで納得してきた。多分、今の俺は意識不明の重体で病院に寝かされていて、その間、俺はずっと夢を見ているとかだろう。
この夢は不明な事が多いが、会社に行くより遥かにマシだ。
一生目覚めなくてもいい。
目覚めたら目覚めたで、会社に行かなければならない。
よし、この夢の世界で生きていこう。
きっと神様が社畜生活から救ってくれたんだ。
神様がいるのかどうか分からないが、この夢を見続けていた方がいい。
……家族にもう会えないのは残念だが、夢なら何処かで家族が登場するかもしれない。
とりあえず、立ち上がって背伸びをする。
すると、今まで気付かなかったが、数個の段ボールが洞窟の入り口付近に置かれている事に気付く。
昨日まで無かったはずだ。
恐る恐る近づいて中身を見る。
そこには、自宅にあったノートパソコンと周辺機器、いくつかの飲食料、枕に毛布などの生活用品が入っていた。
……何で家にあった物が夢の中に現れるんだ?パソコンとかこの世界で使えるのか?
しばらく段ボールの中身を確認していると、後ろから声が聞こえてくる。
「……何してるの……?」
どうやらマリンカが起きたようだ。
「おはよう。自分の荷物を整理していたんだ」
自分が用意したわけでは無いが、自分の荷物なのでそう答えると、マリンカも挨拶をして段ボールの中身を見に来た。
「……この茶色い箱と中に入っている物、全部見た事が無い……」
まぁ、そうだろうな。
しばらく荷物の整理をしていると、洞窟の入り口から謎の音が響いてきた。
……これは……足音だ。
まさか、誰かが洞窟に入ってきたのか!?
マズい、もし相手が武装をしていたら勝ち目が無い。
つい数分前に、この夢の世界で生きていこうと決めたばかりなのに、なんでここで死ななければならないんだ。
マリンカが不安そうに俺を見てくる。
本当にマズい。
とりあえず洞窟の入り口を警戒する。奇襲を受けない為にだ。
……奇襲じゃなくても、こちらは何も対抗する手段が無いんだけどね……
しばらく警戒していると、その足音の正体が現れる。
「あ、あの~……黒沢さん~?いますか~?」
何故か俺の名前を呼びながら、目の前に女性が現れた。
見た目は俺と同じくらいの年齢で、身長も同じくらい。
髪はピンク色で、スタイルが良い女性だった。
初めて見た人だが、何故俺の名前を知っているのか?
そんな事を考えていると、その女性と目が合った。
その瞬間、その女性は笑顔になり、俺に勢いよく抱き着いていた。
「黒沢さ~ん!会いたかったです~!」
……なんだこの状況。
この夢の世界は少々刺激が強い気がする。
マリンカが変な目で俺を見てくる。
やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ……