6:神経衰弱(トランプ)
メアナがいつ起きるのか分からないので、何か暇潰しをする事にした。
無理やり起こす事も考えたが、気持ち良さそうに寝ている姿を見て、その考えは消えた。
そして、暇潰しの道具を探すべく、再びバッグを漁る。
あった。トランプだ。
『ほぉ。トランプか。前にアイツ等と一緒によくやってたな……』
「ギルもトランプで遊んだ事があるのか?」
『あぁ。結構あるぞ。神界にいた時にな』
へぇ……神様もトランプやるのか……
「……何これ……?」
マリンカが不思議そうに俺の手にあるトランプの箱を見てくる。
「これはトランプっていうんだ。この中に入ってる53枚のカードを使って遊ぶ道具だよ」
説明しながら、箱の中からカードを出す。
すると、マリンカが驚愕の表情をする。
「え!?こ、これって、貴族様の遊び道具……!?」
へぇー……こっちの世界ではトランプって貴族の遊びなんだな。
今持ってるこのトランプは百均で買ったけど。
「マリンカ。これは俺のいた世界から持ってきた物だ。俺の国では一般に売られていたよ」
「そ、そうだった……ショウヤは違う世界から来たんだった……」
やっぱり、異世界から来たことを打ち明けて正解だったな。説明が簡単に済む。
「それじゃあ、マリンカでも出来そうなゲームで遊ぶか」
『初心者にもわかりやすいって言ったら、ババ抜きか神経衰弱じゃね?』
「そうだな……って、今思ったが、こっちの世界の数字とトランプの数字って一緒か?一緒じゃなかったら、トランプ自体がマリンカは不利だよな」
「……だ、大丈夫。昨日、ツムギに少しだけ教えてもらったから……」
ナイスタイミングすぎる。しかし、何処で覚えたんだ?
……あれか。昨日、雑誌を皆で見てた時か。
「マリンカは覚えが早いな。なら、最初は神経衰弱やるか。心理戦とかしなくていいし」
『そうだな。それがいい』
神経衰弱に決まったので、マリンカにルールを説明する。
「神経衰弱のルールは簡単だ。裏向きになっているカードを2枚捲って、カードのここに書いてある数字が同じカードを見つけるゲームだ。ま、やりながら説明するか」
カードを混ぜてから、マリンカとギルにも手伝ってもらい、適当に並べる。
並べる際に、ギルの大きな手でどうやって小さいカードを持つのかと気になっていたら、カードを浮遊させていた。
ギルによれば、大きいものは無理だが、トランプ程度の軽くて小さいものは触れずとも動かせるらしい。普通に凄いんだが。
並べ終わったところで、早速、神経衰弱を始める。
順番は、俺、マリンカ、ギルの順番だ。
「まずは俺からだな」
最初なので運で同じ数字が揃う事を祈る。
隣同士のカードを捲ると、出た数字は4と3。残念ながら揃わなかった。
ま、最初だしな。
「数字が揃わなかったら、もう一回裏返しにする。そして、ここに4と3があるって覚えておいて、別の場所で4か3が出たら、ここを捲る。そういう風にやっていくんだ。それじゃあ、マリンカの番だ」
「……わかった……」
マリンカは4があった隣のカードを捲る。
出たのは、11だった。
「……何これ……?」
「11だ。そこにはJと書かれているけど、11って意味だ。別に他のカードと変わらない。またJを引けば、それで2枚を貰うことが出来る。最終的に、貰ったカードが一番多い人が勝ちだ」
「……な、なるほど……」
そして、マリンカは11の隣のカードを捲る。
そのカードは、なんと11だった。
「凄いな。一発で当てるなんて」
『こりゃ驚いたな。スゲーな嬢ちゃん』
「……や、やった……!」
マリンカは嬉しそうに笑う。
うん。メッチャ可愛い。
「当てた場合は、もう一回捲る事が出来るぞ」
「……わかった……」
マリンカはもう2枚捲る。
出たのは9と6だった。
少し残念そうにカードを戻すが、最初に揃ったことが嬉しかったのだろう。笑顔が崩れることは無かった。
『よし。次は俺の番だな』
ギルは俺の腕位ある影の人差し指をカードの上に持ってきて、スワイプするようにカードを捲る。
出たのは2と7だった。
『ま、嬢ちゃんみたいに上手くはいかねーか。さ、旦那の番だ」
また俺の番が来た。
一枚目を捲る。出たのは5。今の所5は一回も出ていない。
「……勘でいくか」
5の隣のカードを捲る。
なんと3だった。
『うわぁ。旦那惜しかったな。先に隣捲っとけばポイント入ったのに』
「……仕方ないさ。じゃあ、次はマリンカの番だ。3の場所を覚えているか?」
「……う、うん……」
そう言いながら、カードを捲る。
出た数字は、3ではなく4だった。
「あ、あれ……?」
予想外の数字に困惑の表情をするマリンカ。
『惜しかったな。嬢ちゃん。3はその右だ』
「……うぅ……」
悔しそうにするマリンカ。
ヤバい。滅茶苦茶可愛い。
『はっはっは!まぁ、神経衰弱じゃよくある事だ。それに、まだチャンスはあるぞ。後1枚捲れるからな』
「……えいっ……」
可愛らしい掛け声とともに、マリンカが適当なカードを捲ると、出た数字は4だった。
『「えッ!?」』
思わず、ギルと共に驚いてしまう。
まさか、ここで4を当てるとはな……
「……や、やった……!」
マリンカは凄く嬉しそうにカードを回収する。
「す、凄いな……」
『運が良いな……』
カードを回収し終えたマリンカは、もう一回カードを捲る。
今度は間違えずに、3と3を捲る。
そして、もう一回カードをニ枚捲る。
出た数は12と8。
『よし、次は俺か』
その後も、順調にゲームは進んでいき、最終的に一番カードをゲットしたのはマリンカだった。
「……か、勝った……!」
「おめでとうマリンカ」
『やるなぁ!嬢ちゃん!』
マリンカはとても嬉しそうに喜ぶ。
やって良かったな、トランプ。
「お、なーんか楽しそうな事してんじゃーん?」
「お、おはようございます!」
勝負が終わったところで、メアナとクラリッサさんも起きたようだ。
「3人で何してたの?」
「トランプだよ。その一つの神経衰弱って遊びをしてたんだ」
「ふーん……え!?これって貴族とかが使う遊び道具……!?」
「またその展開ですか」
それはもうマリンカが言ったぞ。
『旦那の世界の遊び道具だ。旦那の国だと、安物らしいぞ』
「そ、そうだった。ショウヤは異世界から来たんだった……」
興味津々にトランプを見るメアナとクラリッサさん。
「あ、あのさ、あたし達も遊んでいい?」
「良いけど、その前に魔法で作った壁を撤去してくれ。このままじゃ外に出れないから」
「あぁ、そうだったね。ちょっと待ってて!」
メアナは洞窟の出入り口を塞ぐ土の壁の前に駆け寄ると、そこに手を翳す。
すると、土の壁は瞬く間に砂となって地面に崩れ落ち、やがて光の粒子となって消えた。
「よし。これでいつでも外に出られるよ。それじゃあ早速、シンケイスイジャクとやらの遊び方を教えてもらおう!」
「お、おう……」
先に食料をマリンカと共に確保しようと思っていたんだが、メアナの遊ぶ気満々の表情に考えが変わった。
「……食料は後ででもいいか。それじゃあ、神経衰弱のやり方を説明しよう」
メアナとクラリッサさんに神経衰弱のルールを説明した後、4人+1体で神経衰弱を楽しむ。
結果、そのゲーム勝者は同率で2人。マリンカとクラリッサさんだった。
ちなみに最下位はメアナだった。
「……また勝った……!」
「や、やりました……!」
勝者の2人は手を取り合って喜ぶ。
「……ダメだ……あたし全然覚えられないんだけど。でも楽しいね、コレ」
メアナの方は悔しがっていた。
各々が神経衰弱の感想を言っていると、今度は紬が起きて来た。
「おはようございます。皆さん」
互いに挨拶を交わし、紬もトランプに興味を持つ。
「神経衰弱ですか。良いですね!私も入っていいですか?」
「良いよ。それじゃあ、またカードを並べるか」
再度カードを並べなおし、パーティメンバー全員での神経衰弱が始まった。
順調にゲームは進み、最終的に勝ったのはメアナだった。
「はっはっは!覚えれば楽勝だね!楽しい!!!」
「凄いな。さっきは最下位だったのに」
「ショウヤァ…………この天才魔法使いのメアナ様を侮らないでくれたまえ!」
うわ。急に調子に乗り始めたぞコイツ。
メアナが嬉しそうに笑っていると、その声で目覚めたのか、それとも普通に目覚めたのか分からないが、ガイムさんとジミルさんが体を起こし始めた。
『マズい!異世界を知らない人間にトランプを見られたら面倒事になる!急いで片付けろ!』
「わ、わかった!」
急いで皆からカードを回収し、トランプの入っていた箱にカードを入れる。
そして、その箱は空いていたボストンバッグに放り込んだ。
丁度そのタイミングで、ガイムさんとジミルさんはこちらに寄ってきた。
「おはようございます。皆さん。集まられて、何か話し合われていたんですか?」
「ま、まぁそんな所です……」
危ない。バレずに済んだようだ。
「それよりも、ローズさんとティアミンさんは?」
「まだ起きないようで……あ、今、起きました……」
その言葉通り、丁度今、2人は起きたようだ。
目を擦る2人の元へガイムさんとジミルさんが駆け寄る。
「……ここは……?」
「盗賊のアジトだ。だが、安心しろ。あの方達が皆倒しちまったからよ」
「あの方達……?」
ローズさんとティアミンさんはこちらを向く。そして……
「ば、化け物!?」
「お、お化け~!?」
『化け物でもお化けでもねーよ!!!』
ギルのツッコミが決まった。
「「す、すみませんでした!」」
ギルの向けて土下座をするローズさんとティアミンさん。
丁度俺の上にギルの頭部があるから、俺から見ると2人が俺に対して土下座をしているようで、なんか罪悪感が湧いてくる。
ちなみに、2人にはギルの事を召喚獣と説明してある。
『わかったから、もう頭を上げろって……もう化け物呼ばわりには慣れたからよ』
「あ、ありがとうございます」
ローズさんとティアミンさんは頭を上げる。
『まぁ、ともかくだ。これで全員揃ったな』
「そうだな。後は、準備をして、街に行くだけだ」
早速、荷物の整理に取り掛かる。
と言っても、既に荷物はバッグの中に片づけてある。
後は、キャリーバッグやボストンバッグを持つだけだ。
リュックサックは紬に背負ってもらった。
気が付くと、ガイムさん達が興味深そうに俺と紬が持つバッグを見つめていた。
「……見たことない入れ物ですね。何処でそちらを?」
案の定バッグの事を聞かれた。
「故郷の物です。故郷の事は、あまり詮索はしないでくれると助かります」
「わ、わかりました」
また色々と聞かれる事を避けるため、予め釘を刺しておく。
そして、お互いのパーティの準備が整った所で、盗賊のアジトから出る。
「そ、外だ……」
ガイムさん達のパーティは久しぶりの外に少し感動していた。
そんな彼らと森の中を進みつつ、マリンカのサバイバル経験の元、食べられそうな果実を探す。
多くは取れなかったが、結果的に、1人1個は食べられた。
ちなみに、その食べた果実は、見た目が青くなった林檎だった。美味かった。
朝食を終え、無事に道へと辿り着く。
「やっとここまで来たね。後は道なりに進みだけだ!」
重い荷物があり、物凄く疲れたが、メアナの激励で少し疲れが取れる。
するとそこで、クラリッサさんが心配そうに声をかけてくれる。
「ショ、ショウヤさん、良ければ、お持ちましょうか……?」
「大丈夫だ。心配ないよ」
荷物持ちまで他の人にやってもらったら、マジで何もしてないことになるからな。俺。
道なりに進み、しばらく歩くと、森の方から何かが近づいて来る音が聞こえてくる。
「ガアァ!!!」
その正体は昨日も遭遇したブラッドウルフだった。
今回は1匹だけだ。
『またかよ面倒くさいな』
ギルはダルそうにそう言うと、片手でブラッドウルフを殴り飛ばした。
「う、嘘……ブラッドウルフをたった一発で……?」
「こ、これが召喚獣の力……」
「召喚獣って凄いんだな……」
ジミルさん達はギルの戦闘力に驚愕していた。
「アハハハ……ギルさんが居れば、護衛なんて要りませんね」
ガイムさんは苦笑いをしながら、ブラッドウルフを討伐するために抜いたであろう剣をしまう。
『まぁな。だが、俺だって無敵じゃ無い。警戒は怠らないでくれよ』
「お任せください」
爽やかな笑顔で戻って行くガイムさんを見送った後、再び道を進んでいく。
5分もかからないうちに、森の出口と、大きな城壁を目視する。
「見えてきました。ミャルミアです」
あれがミャルミアか。城壁があるって事は、城郭都市か。
『街に付いたか。なら、俺は旦那の中に隠れていよう』
そうギルは言うと、俺の体の中に何かが入り込んでくるような感覚を感じる。
背中の方を向くと、俺の後ろにはギルの姿は無かった。
『何かあったらすぐにでも出る。安心しろ』
頭の中に響いて来る、ギルの心強い言葉に安心する。
ガイムさん達は、姿が見えないのにギルの声がする事に驚いていた。
「ありがとう。ギル…………よし。行くか」
ミャルミアにまでマリンカの話が伝わってない事を祈りつつ、俺は新たな街への一歩を踏み出した。