4:盗賊のアジト
盗賊のアジトに向かう準備のため、焚火を消し、ゴミをまとめ、キャリーバッグとボストンバッグを手に持つ。
パンを食べた分、少しか軽くなったが、それでもまだ重い。
そう感じていると、ギルが声をかけてくれる。
『持とうか?旦那?』
「頼む。流石にキツイ……」
素直にギルに持ってもらうことにした。
ギルに持ってもらうため、キャリーバッグとボストンバッグを渡す。
ギルの手にキャリーバッグが触れた瞬間。
『ギャアアアアアアアアアアアア!?痛い痛い痛い痛いぃぃ!!!』
急にギルが悲鳴を上げ、慌ててキャリーバッグを放り投げた。
「どうした!?ギル!?」
『ハァ……ハァ……それを持った瞬間……急に痛みが……』
どういうことだ?
どんな魔術、物理攻撃も効かないギルに痛みを感じさせるだと?
まさか、盗賊達が何かしたのか?
困惑していると、紬が「あっ」と声を上げた。
「翔也さんの持ち物は、私が神界にいた時の神力を使ってこちらの世界に持ってきました。ですので、そのバッグには強力な神力が付いてます。邪神であるギルさんが触れると大ダメージを受けますよ」
『先に言え!!!』
「言い忘れてました……てへ♪」
……ギルも無敵じゃ無いんだな……
盗賊のリーダーに言われた通りに西へ向かう。すると、何もない、ただの崖があった。
リーダーの話だと、地属性魔法で隠してあると言っていたが……
「どこが入り口かわからん」
魔法で隠してあるとは聞いたが、その場所を聞き出していない。今聞こうとしても、聞く人間は全員いなくなってしまったしなぁ……
どうするかを悩んでいると、メアナが目を瞑り、集中し始めた。
「……魔力を感じる。多分こっち」
メアナについていくと、何もない壁があった。
その何もない壁にメアナは耳を傾ける。
「やっぱり。風の音が聞こえる。ここが入り口で間違いないよ」
すげー。
「それじゃあ、中に入る人と、外の見張りを決めよう。ショウヤはギルと一緒だから、中に入って盗賊を倒しちゃって。あ、ツムギもお願い。マリンカも敵を拘束できるから中ね。残ったあたしとクラリッサは、外を見張ろう。これで問題ない?」
全員が賛成する。
アジトの中に入る俺は、持っていたキャリーバッグとボストンバッグをメアナとクラリッサさんに預け、シャイニングソードを顕現させる。
『よし。俺がその壁を破壊しよう。音を聞きつけて、敵が向こうから寄ってくるかもしれないしな』
そう言って、ギルは思いっきり壁を殴った。
ドゴォン!
大きな音とともに、土の壁は崩壊した。
それと同時に、中から声が聞こえ、段々と近づいて来る。
『来たぞ。旦那』
「あぁ。行くぞ!」
【盗賊に捕らえられた冒険者視点】
……油断した……
盗賊なんて何回も倒しているから大丈夫だと思っていたのに。
警戒さえ怠らなければ対処できると思っていたのに。
道に罠を仕掛けるなんて卑怯でしょ……
私達は、風属性魔法使いの私ローズと、火属性魔法使いのティアミン。剣士のガイム。盾役のジミルで構成された冒険者パーティ。
突如出没した大量のブラッドウルフの討伐の為に森に来ていた。
この辺りは盗賊も出るらしいって言われていたから、常に周囲を警戒していたのに。
なのに、雷属性の魔法陣の罠に引っかかり捕まった。
ガイムとジミルは散々暴力を振るわれた後、何処かに連れていかれてしまった。
もしかしたらもう…………いや、諦めるのはまだ早い。監禁されているだけかもしれない。
私とティアミンは拘束され、盗賊達の汚らわしい視線を浴びていた。
なんとなく分かっている。女性が盗賊にされる事なんて決まっているから。
だが、拘束されてからだいぶ時間は経つが、私達に何かをする気配はない。
盗賊達の会話を聞くと、他の仲間が全員帰ってきたら宴をするとか言っていた。きっと、そこがタイムリミットなんだろう。
……嫌だ。こんな所で汚されて堪るか。
きっとチャンスが来るはずだ。それまで待つんだ。
……どれくらい時間が経っただろう。体力的にも、精神的にも限界だった。食事は与えられているが、食べられたものじゃない。いや、食べさせる気なんて無いんだ。
苦しんでる姿を見て楽しんでるんだ。
もう、無理だ。チャンスなんて無い。
ティアミンの方を見ると、ティアミンは目の光が無かった。
ティアミンも限界か……
もうダメなのかな……
ぼんやりとした意識の中、洞窟の入り口の方から1人の盗賊が息を切らしながら走ってきた。
見覚えがある。罠に痺れて動けない私達をここに運んできた奴だ。
その盗賊は、金貨を数えていた盗賊の方に駆け寄ると、私にも聞こえるくらいの声の大きさで会話し始めた。
「おう。おかえり。ありゃ?お前だけ帰ってきてどうした?なんかあったのか?」
「ハァ……ハァ……親分はいるか?大変だ……一大事だ……」
「おいおい。どうした?キラービーの大群にでも追いかけられたか?はっはっは」
「そんなんじゃない。仲間が殺された」
「……何?お前と一緒に行動してたとなると……ファンレトも居たよな?ファンレトもか?」
「……あぁ。相棒もだ。俺の、目の前で……相棒が……あ、ああああ」
「落ち着け!とりあえず、親分に報告だ」
どうやら、仲間が何者かに殺害されたようだった。
もしかしたら、その盗賊を倒した人が助けに来るのでは無いか。
その考えが一瞬浮かんだが、すぐに捨てた。
盗賊のアジトに乗り込むなんて、そんな事考える人はいない。それに、盗賊達からアジトを聞き出すなんて無理だ。
希望が見えたと思ったのに……
数時間後。大量の盗賊達がこの洞窟を出て行った。もしかして、仲間を殺された恨みを晴らしに行くのだろうか?
盗賊達がアジトから出ていく様子を眺めていると、見張り役の盗賊が話しかけてくる。
「これから仲間を殺された報復に行くんだよ。それが終わったら、たっぷり楽しませてもらうからなぁ……ヒヒヒヒヒヒ!」
あの盗賊達が帰ってきたら何もかも終わりだ。
もう、助かる道は無いんだ……
体感では長時間経過したが、報復に行った盗賊達はまだ帰ってこない。
もしかしたら、報復相手が盗賊を全て倒してしまったのではないか。
もしかしたら、ここから出られるのではないか。
もしかしたら、助けが来るのではないか。
そんなことを考えていると、見張り役の盗賊がもう一人の見張り役に疑問を口にする。
「……なぁ。親分達遅くないか?もしかして、やられちまったんじゃ」
「馬鹿言うな!親分が簡単にやられると思うか!?」
「いや、だけどよ……いくら待っても帰ってこねぇぜ……?」
「……多分、帰り道でブラッドウルフの群れにでも遇ってるんだよ。今はそいつらと戦闘してるのかも……」
盗賊達の会話を聞いていると、突如洞窟内に轟音が響き渡る。
ドゴォン!
まるで洞窟の一部が爆発したかのような音。
その音に反応したのか、ティアミンがゆっくりと体を起こす。
盗賊達はティアミンの事など気にも留めず、謎の轟音に慌てふためいていた。
「おい!?何だよ今の音!?」
「知るかよ!……まぁ、多分だが、魔物が侵入でもしてきたんだろ。さっさと倒しに行くぞ。帰ってきた時に親分に怒られちまう」
「そ、そうだな……」
1人は剣。1人は斧を持って洞窟の出入り口に向かって歩みを進める。
盗賊達が視界から完全に消えた数秒後。盗賊達の悲鳴が洞窟内に響き渡る。
「……ヒッ!?ば、化け物だぁ!殺される!……ギャ!?」
「逃げろ!逃げろぉぉ……グハッ!?」
その悲鳴を聞きつけたのか、洞窟の奥から4人の盗賊が現れる。
「何だ?何が起こってる?」
1人の盗賊の疑問に応えるかのように、このフロアに出てきたのは真っ黒い何か。
完全に姿を現すと、巨大な影の化け物だった。
巨大な腕に、巨大な頭。頭部と思われる場所には巨大な目玉が1つだけある。
こんな魔物見たことない。いや、よく見ると下に人がいる。
優しそうな顔立ちに、少し泥で汚れた黒髪の男性。手には純白に光輝く魔法の剣が握られていた。
その男性に続くように出てきたのは、桃色の髪をした美人な剣士と、とても可愛らしい容姿をした黒髪の少女。
……もしかして、助けが来たのだろうか……?
『旦那!この4人を片付ければここは安全になりますぜ!殺っちゃっていいですか!?』
「いいよ。思う存分暴れてくれ。俺は目と耳塞いでるから」
……あの化け物。喋るんだ。
しかも、下の男性を『旦那』と呼んでいた。まさか、あの人はあの化け物を使役しているのか?
という事は、化け物ではなく召喚獣なのだろうか?
いや、あんな召喚獣は見たことも聞いたことも無い。
化け物に旦那と呼ばれた男性は目と耳を塞ぎ、化け物は巨大な腕で盗賊を吹き飛ばしたり、潰していったりした。
あっという間の出来事だった。
あまりの早さにティアミンも目を丸くしていた。私もだが。
そんな私達に気が付いたのか、男性たちは私達に駆け寄ってくる。
『……やっぱりな。誰か捕まってると思った。そんじゃ、早く拘束を解かないとだな。頼んだぞ。元神の姉ちゃん』
「元神ってあんまり言わないで下さいよ……濃厚な神力が詰まったバッグぶつけますよ?」
『おー、怖い怖い』
よくわからない会話をしながら、美人剣士は私とティアミンの拘束を解いてくれた。
「大丈夫ですか?お二人とも何かされたりしませんでしたか?」
「……あ……え……っと、大丈夫です……助けて……くれて……ありがとう……ございます……」
久しぶりに声を発したからなのか、上手く言葉を言えない。
ティアミンの方は声が出せない様なので、首を縦に振っていた。
「お怪我が無くて良かったです!あと、他にも盗賊達に捕まった方はいらっしゃいませんか?」
「……仲間が……2人……何処かに連れ去られて……」
何とかガイムとジミルの事を話す。これで2人も助かるだろうか。
「わかりました。では、少し休んでいてくださいね。それでは、翔也さん。ギルさん。盗賊の事は任せてもいいですかね?私は、翔也さんのバッグから何か飲み物を取ってきます」
「わかった」
『任せとけ!』
洞窟の奥に走っていく『ショウヤ』と呼ばれた男性と『ギル』と呼ばれた巨大な影。
そして、私とティアミンを介抱してくれる少女。
飲み物を取りに行くと言って、洞窟の外に向かう美人剣士。
その光景を見ていると、安堵からなのか、急に眠たくなってきた。
私はそのまま寝てしまった。
【翔也視点】
盗賊のアジトである洞窟に入ると、盗賊達のリーダーが言っていた6人の盗賊が襲ってきた。
だが、全てギルが倒してしまった。
その戦闘が終わった後に、洞窟に拘束されて横たわる2人の女性を発見。
その女性達の拘束を解き、今は女性達の仲間だという残りの2人を探している。
他に捕まった人達がいないかどうかを確認しつつ、洞窟の奥へと進んでいく。
しばらく進んでいくと、鉄格子が嵌められた場所に到着した。
中を確認すると、2人の男性が横たわっていた。
あれが女性達が言っていた仲間だろうか?
「すみません!大丈夫ですか!?」
まず生存確認。
俺の声に反応したのか、2人の体が少し動いた。
『生きてるみたいだな。じゃ、牢屋開けるぞ』
ギルは鉄格子を力任せに捻じ曲げ、人一人入れる位の幅を開けた。
ギルは一旦俺の中に隠れ、俺が鉄格子を通り抜けたタイミングで再び姿を現す。そうしないと入れないからね。
牢屋の中に入り、2人に近寄る。
大丈夫だ。息はしている。
だが、状態は良い物ではない。
爪は全て剥がされ、いたるところに血や痣が付いていた。拷問でもされていたのだろうか。
これはマズい。早く何とかしなければ……
でもどうやって?
ここはギルに聞いてみよう。
「ギル。この2人を回復させるにはどうしたら良い?」
『光属性には回復魔法があるが、残念だが旦那の魔力では使えない。となると、俺の邪神の力を使うか、元神の姉ちゃんの神力を使うしかないんだが……俺の力は旦那の魔力を使用する。元神の姉ちゃんの方は、十分な神の力があるかどうかわからない』
人の命がかかっているんだ。躊躇っている場合ではない。
「俺の魔力を使ってこの2人を回復させてくれないか?頼む」
『……まぁいいか。寝れば魔力は回復するし。それじゃあ旦那。魔力を頂戴致しますぜ』
俺の中から何かが吸われていくような感じがした後、ギルが倒れている2人の男性に手を翳す。
すると、2人は緑色に光り輝き、ゆっくりと体を起こした。
いつの間にか、爪も元通りになり、痣も無くなっていた。
飛び散った血はまだあったが。
「……あ、あれ?と、盗賊達は……?」
「どうなってやがる……」
混乱しているらしく、この状況を理解していないようだった。
とりあえず俺が盗賊でないことを説明しよう。
あと、仲間が無事であることもな。
「すみません。旅の者ですが、あなた達を助けに来ました。仲間の女性達も無事ですよ」
「……あ、アンタが俺達を助けに来て……って、ば、ば、ば、化け物!?」
『誰が化け物だ!俺がお前らを回復してやったのに!』
ヤベ……ギルの事を忘れていた。驚かせてしまったな……
目覚めたら巨大な影がいたら怖いよね。
『俺は旦那に憑いている召喚獣的な存在だ。安心しろ』
召喚獣と説明するのか。
というか、召喚獣って何だ。
「す、すまない……化け物などと言って……それと、助けてくれてありがとう」
『分かれば良い。それよりも、さっさとお仲間と合流するぞ。話はそれからだ。……旦那。頼みます」
「わかった。それじゃあ、お二人のお仲間さんの元へ案内します。付いてきてください」
目覚めたばかりで申し訳ないが、ちょっとだけ移動してもらおう。
男性達は互いに肩を組み、何とか俺の方へ付いて来る。
これで盗賊のアジト殲滅作業と救出作業は終わったかな。他に監禁場所も無いみたいだし。
……疲れた……寝たい……
一日で色々起こりすぎなんだよ……