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3:盗賊の再来

【生き残った盗賊視点】


「何なんだアイツらは!?」


 森の中を駆け抜ける男が1人。その表情は必死だった。


「クソクソクソクソ!」


 女3人にガキが1人、弱そうな男1人の初心者パーティかと思ったのによォ!仲間が、仲間が皆殺されちまった……!


 今までに作戦を失敗したことは無かったのに、どうして?どうして?


 いや、考えるのは後だ。失った仲間たちの事は悔やんでも悔やみきれないが、今は急いで親分に報告をしに行かなければ。


 しばらく走り続けたあと、見慣れている岩肌が見えてくる。


 そこに駆け寄ると、いつもの場所で、見た感じは何もない壁を4回、3回、5回の順で叩く。


 叩き終わると、岩の壁が崩れ、洞窟が現れる。ここがアジトだ。


 中に入ると、洞窟で待機していた仲間が、縄で拘束された女達を見てにやけていた。きっと何処かで誘拐してきたのだろう。


 そいつを無視して、金貨を数えていた仲間のゾリムに駆け寄る。


「おう。おかえり。ありゃ?お前だけ帰ってきてどうした?なんかあったのか?」


「ハァ……ハァ……親分はいるか?大変だ……一大事だ……」


「おいおい。どうした?キラービーの大群にでも追いかけられたか?はっはっは」


 悪いが、そんな冗談など頭に入ってこない。


「そんなんじゃない。仲間が殺された」


「……何?お前と一緒に行動してたとなると……ファンレトも居たよな?ファンレトもか?」


 ファンレト。俺の相棒であり、俺らが冒険者や商人たちを襲う時に組んでいるパーティで一番強い奴だ。何でも、元騎士だったらしい。


 だが、ファンレトは桃色の髪の剣士に一瞬で殺されてしまった。


「……あぁ。相棒もだ。俺の、目の前で……相棒が……あ、ああああ」


「落ち着け!とりあえず、親分に報告だ」


 相棒の死の場面を思い出し、取り乱しそうになるが、ゾリムの説得で何とか落ち着きを取り戻す。

 足の疲労で転びそうになるのを、ゾリムに肩を貸してもらいながら親分の元に行く。


 親分のいる場所は、アジトの一番奥だ。洞窟を進んでいくと、俺達の親分が待っていた。


「親分!大変です!」


「どうした?何事だ?」


「ファンレト達が殺されました!女3人にガキが1人、男1人の冒険者パーティです!」


「……なんだと?ファンレトが?冗談はよせ。ファンレトが殺された?冒険者にか?」


 ファンレトが冒険者ごときに殺されることは無いと思っているのか、笑いながら聞く親分。


「まぁ、お前が俺に嘘を吐くとも考えにくい。本当にファンレトは冒険者に殺されたんだな?」


「は、はい!」


 良かった。信じてくれた。


「わかった。とりあえず、そいつらの武器は剣を使っていたか?それとも魔法か?」


「剣士は女1人しかいませんでした!他に、地属性の女に、闇属性のガキです。後の女と男は見ているだけで、動こうともしませんでした!」


「主戦力は3人か。それに、闇属性か……どうして冒険者と一緒にいるのかがわからないが……まぁいい。剣士の方は奇襲できれば奇襲をする。失敗した場合は全員で囲むぞ。魔法の方は、《魔封じの領域》を使う。それじゃあ、ここにいる奴等全員呼べ!今から、作戦を決めるぞ!」


「「了解しました!」」


 親分の元を離れ、他の仲間を呼びに行く。


 あの女剣士……捕まえたら壊れるまで犯しまくって、相棒の怨念とともに殺してやる!






【翔也視点】


 今は、野営の準備を終わらせ、夕食にバッグにあったコッペパンを食べ終えた後だった。コッペパンにまた驚いていたようだが、夕食の時は、皆から(主にメアナから)質問攻めだった。


 日本の事は俺が。神界の事については紬とギルが対処した。


 まぁ、俺の方は写真を見せるだけでほとんど終わってしまったが、紬とギルの元神ペアの方は口だけの説明だったため、結構苦労していたようだった。


 その時に、丁度良い機会だと思ったので、この世界について色々と聞いてみた。


 まず、一番気になっていた勇者と魔王についてだ。


 勇者は、ある日突然現れて、多くの人々を救い、圧倒的な力と、見たことも無い武器や道具で敵を殲滅する者の事。


 前にも紬とギルが言っていたが、それは神界で流行した勇者召喚によるものらしい。


 そして、魔王。


 魔王もある日突然、強大なダンジョンとともに現れるそうだ。前までは悪さをする魔王達ばかりだが、今では、ダンジョンから魔物が出ずに、悪さもほとんどしない。


 だが、《魔王=悪》という認識は無くならないのと、ダンジョンにはお宝がある。そして、魔物の素材集めや、冒険者の剣や魔法の練習場にもなっている。そのために、ダンジョンに挑む冒険者が後を絶たないそうだ。


 他に聞いたことは、人間以外の種族に関してだ。


 まずはクラリッサさんの種族でもあるエルフ。エルフは人間達と離れている遠い場所で生活していて、長寿、耳が尖っている。


 長寿で、美しい人が多いが故に、人間達に捕まったり、奴隷として売られたりする。


 次にドワーフ。ドワーフは人間やエルフより身長が低く、武器や防具の製造を得意としている。


 ドワーフは人間と良い関係では無く、お互いに毛嫌いしているらしい。


 そして獣人族。普通の人間に耳や尻尾が生えた見た目に、身体能力が高い。


 最近は人間と良い関係を持っているそうだが、一部からは差別されている。


 最後に魔人族。圧倒的な力と、強大な魔力を有する種族。ゴブリンやオークといったものがいる。


 ちなみに、ゴブリンやオークは醜悪な見た目ではなく、耳が尖っていることを除けば、普通の人間と同じ。エルフと似ているが、魔人族には牙と角が生えている。


 魔人族はこの国、アルフォアド王国(今知った)の隣の魔人の国、ビースバン王国に住んでいるが、たまに魔人族、主にゴブリンやオークがこの国に現れるらしい。


 悲しいことに、エルフと同じ扱いで、捕まえられては奴隷として売り払われるそうだ。


 後は、魔物の事。


 魔物は他の動物と同じ感じだが、とても凶暴で、ダンジョン等に住んでいることが多い。


 その魔物の中でも強力な存在が、ドラゴンだ。


 いるとは予想していたが、本当にいるとは。


 ドラゴンはこの世界では最強の存在で、村や町が襲われると、もう襲われた所は終わるを迎えるだけらしい。こわ。


 マリンカ、メアナ、クラリッサさんから聞いた情報をまとめるとこんな感じ。薄々思ってはいたが、完全にザ・異世界って世界観だった。


 話を聞かせてくれた三人は、今は紬と一緒に、姉さんが俺の家に置いていった雑誌を見ていた。


 表紙を見たところ、料理の本か?姉さんらしい本だな。


 俺はというと、足のマッサージをしていた。ツボなんかわからないので、適当に足を指で押しているだけだが。


 ギルの方は、俺の体内に隠れる練習とか言って、今は姿が見えない。まぁ、街中であの姿を晒すのは困る。


 焚火を中心にして、ゆっくりしていると、森の茂みの方から音が聞こえてくる。


「なんだ?」


「魔物ですかね?ちょっと見てきます」


 皆に料理の説明をしていた紬は、持っていた雑誌をマリンカに預け、剣を持ち茂みに近寄る。


 紬が茂みに近寄った瞬間。3人の男が紬に武器を向けて飛び出してきた。


「!紬!危ない!」


 急いで警告をしたが、俺の警告よりも先に紬は出てきた男たちを持っていた剣で斬っていた。やっぱり紬強いね。


「……この格好……先程の盗賊達と似ていますね……もしかして」


「ほう?なかなかの剣術だな。女剣士よ」


 声が聞こえた方を向くと、斧を持った大男と、それに合わせるように周りの茂みから武器を持った男達が現れた。


「よくも俺の可愛い部下を殺ってくれたな。代償は大きいぞ」


「部下?あぁ、あの盗賊達のリーダーですか」


 周りの状況に気づいたのか、雑誌に夢中になっていたマリンカ、メアナ、クラリッサさんも警戒態勢に入る。マリンカとクラリッサさんは若干怯えていた。ついでに俺も。


「なになに?もしかして、部下の敵討ちにでも来たってわけ?言っとくけど、あたし達に手を出したのはそっちだからね」


「そんなの知るか。とっとと捕まえて、自分たちの行いを後悔させるまで犯してやる。それが終わったら、苦しませて殺してやるよ」


 犯す?え、マジか。普通にこういう会話とかすんかよコイツら。


 だけど、何人いても、皆にはかなわないと思うけどなぁ……


「はぁ……馬鹿だねコイツら。数も多いし、ギガントゴーレムちゃんでサクッと終わらせますか。我が呼びかけに応えよ。来たれ。大地の覇者、ギガントゴーレム!…………あれ?」


 メアナが詠唱をするが、何も変化がない。どういうことだ?

 俺達が困惑していると、盗賊達が一斉に笑い出した。


「フハハハハハ!バーカ!魔法は使えねーよ!これのおかげでな!」


 そう言って、盗賊達のリーダーだと思われる大男が四角い銀色の宝石を取り出す。


「!?それは《魔封じの領域》!?どうしてそんなものを!?」


 魔封じの領域?文字通り、魔法を封じる道具か?なんて面倒くさい物を持ってくるんだコイツ。


「ッ!やられた!」


「ハッハッハッ!どうした?サクッと終わらせるんじゃなかったのか?それとも、そこの女剣士1人で俺らを全員殺すか?ハハハハハ!」


 状況が有利と判断したのか、盗賊達は一斉に笑い出す。そして、下品な笑い声とともに、不快な会話を始める。


「なぁ。俺、あのデカい胸の魔法使いな!」


「あ!ずるいぞ!俺が先だ!」


「おい待て!あれ、エルフじゃねぇか!?」


「本当だ!ラッキー!使いまくった後、奴隷商人に売り飛ばそうぜ!」


「俺はあのガキが好みだな……」


「お前マジか……そういう趣味だったのかよ……」


「あの剣士……犯してやる……!」


 盗賊達の会話に、恐怖になっていく皆。だが、紬は冷静だった。


「はぁ……汚らわしい。ちょっとギルさん!いつまで隠れているんですか!」


『あぁ?なんだよ。今旦那の体に慣れてるところなんだよ』


「一大事です。私だけではどうにもなりません。翔也さんの身も危ないです」


『旦那の身が?それは困る』


 そう言って、俺の背中から人型の影、ギルが出てくる。


「ごめんギル。忙しい時に」


『いいんだよ。旦那の為だ。それよりも、どういう状況だ?』


 突如現れた巨大な影に、盗賊達は驚愕していた。


「なんだアレ!?」


「召喚獣か!?」


「バカ言え!魔封じの領域で魔術は使えないはずだ!」


「どうなっているんだ!?」


 混乱する盗賊達。それを制したのは盗賊達のリーダーだった。


「落ち着けお前ら!おそらく、魔道具の力だ。幻影の宝玉でも使ったんだろ。あの女剣士にだけ気を付けろ!他の女は、すぐに捕まえろ!あの男は殺せ!」


 おー!と言う掛け声とともに、盗賊達が襲ってきた。


『なるほど。盗賊か……安心してくれ旦那。仲間は誰一人死なせない』


「あぁ。頼りにしてるぞ」


 心強い言葉とともに、ギルの巨大な影の拳が1人の盗賊に降りかかる。


 グチャッ!


 あ……つ、潰れた……ダメだ。気分が悪く……


『旦那。結構グロいから、無理だったら目と耳をふさいだ方が良い』


「わ、わかった……」


 ギルに言われたとおりに、目を瞑り、耳をふさぐ。


 だが、視界は完全に防げても、聞こえてくる音と悲鳴は完全には消せない。


 5分位経った頃だろうか?辺りが急に静かになる。


 目を開け、耳に当てていた手を退ける。


 目に入った光景は、赤一色だった。赤色の正体は、きっと盗賊達の血だろう。潰れた死体。斬られた死体。色々な盗賊達の死体が転がっていた。


 即座に、視線を別の場所に移す。そこには、震えながらも、安堵した様子のマリンカとクラリッサさん。何故か抱き合っていた。


『おーい。旦那、終わったぞー……ってもう見ちゃってるし。大丈夫か?』


「あ、あぁ。大丈夫だ。それよりも、他の皆は無事か?」


『無事だ。圧勝だったよ。あ、まだあと一人。あの親玉が残ってるけどな』


 ギルが指で示した方向には、紬とメアナがリーダーの大男を取り押さえているところだった。

 メアナの手には、四角い銀色の宝石が握られていた。魔封じの領域とかいうやつか。


『すまんが、旦那。あの親玉と話がしたい。いいか?』


「わかった」


 ギルの提案を承諾し、盗賊のリーダーに近寄る。

 近づいた瞬間に、物凄い剣幕で睨まれた。が、ギルの姿を見て恐怖の表情に変わった。


『お前に聞きたいことがある。正直に話してもらおう。正直に話せば見逃してやる』


「誰が化け物なんかに……!」


『化け物だと?』


 盗賊のリーダーの反応が気に入らなかったのか、ギルは盗賊のリーダーの腕を、普通は曲がらない方へ捻じ曲げた。


「あああああああああああああああ!!!!!」


『黙れ。まず最初だ。この近くにまだ仲間はいるか?』


「ハァ……ハァ……い、いない……!」


『そうか。なら次の質問だ。お前らのアジトは何処だ?また、そこにお前らの仲間はいるか?』


「な、何をするつもりだ?」


『質問に答えろ』


 そして、ギルは盗賊のリーダーの腕をもう1本へし折った。


「ぎゃああああああああああああ!!!!」


『気持ち悪い声を出すな。もう一度言う。お前らのアジトは何処だ?そこに仲間はいるのか?』


「……ここから、東に行った所に崖がある。そこに地属性魔法で隠してあるんだ。仲間はいない……」


『嘘だな』


「嘘ですね」


 ギルと紬が一瞬で嘘と見抜いた。どうしてわかったんだ?もしかして、神力を使ったのだろうか?


『正直に話せと言ったはずだ。言葉がわからないほど無能なのか?』


 続いて、右足をへし折るギル。また盗賊のリーダーは悲鳴を上げていた。


「わ、悪かった……本当は西で、仲間は6人残ってる!魔法で隠してあるのは本当だ!」


『そうか。ならもういい。お前は用済みだ』


 そう言って、ギルが拳を上から下に降ろす構えを始める。


「ま、待て!正直に話しただろ!?なんで!?」


『お前。1回嘘吐いただろ。それにだ。俺はな。この世で一番盗賊が嫌いなんだよ』


「ま、待て!アジトにある金はやる!金だけじゃない!全部だ!全部やるから命だけは……!」


『死ね』


 その一言を発した瞬間に、ギルの拳が振り下ろされる。


 この後の状況を想像した俺は、即座に目を閉じて、耳をふさぐ。


 パァン!


 耳を塞いでいても何かが破裂する音が聞こえてきた。


 視界に入らないように、後ろを向いてから目を開け、耳に当てた手を外す。


『悪い……旦那。忠告を忘れた』


「いや、ギリギリ見えなかったから大丈夫だ」


 いつになったらグロ耐性が付くんだろう、俺。


 このままじゃ、この先やっていけない気がする。


 そんな事を考えていると、マリンカとクラリッサさんがこちらに駆け寄ってくる。


「……終わった……?」


『いや、まだ終わってないぜ。嬢ちゃん。今から、盗賊のアジトをぶっ潰しに行くぞ。あ、俺が決めちゃってますけど、旦那、いいですか?』


「あ、ああ。別にいいけど……他の皆は?」


「私はギルさんに賛成ですよ」


「あ。あたしもー」


「……私も……」


「……私も大丈夫です」


 まぁ、後で生き残りに目を付けられたら面倒くさいし、他の被害者が出るかもしれないしな。

 こちらから潰しに行くか。


『お。全員賛成みたいだな。それじゃ、今すぐ出発だ!』


 ギルの掛け声で、盗賊のアジトを潰す行動を開始した。

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