2:カミングアウト
物語にズレが生じたので、このお話を少し修正しました。
『どーもー。ギルでーす。これからよろしく頼むなー!』
マリンカ達の元へ戻り、ギルが仲間になったと説明した。
だが、マリンカ、メアナ、クラリッサさんは少し怯えていた。
「ショウヤ、ツムギ。コレ本当に大丈夫なの?どう見てもヤバいでしょコイツ……」
そうですよね。一応憑りつくことを許可した俺ですらまだ怖い。目が一つしかないし。日本にいた時に見たら気絶しているか、仕事の疲れだと思って無視するな。
「……正直、まだ私達も安全かどうかは確信できません」
『え!?憑りつくの許可するって言ったじゃん!』
「許可はしましたけど、襲ってこないかどうかはわかりませんので」
『襲わねぇよ!旦那達が死んだら困るのは俺の方なんだぞ!?旦那ほど負の感情が蓄積している人間はいない。それに、姉ちゃんは俺の状況を理解してるんだろ!?』
「一応理解はしてますけど……邪神の言う事ですから」
『酷い!偏見だ!差別だ!俺は神と争ってる邪神とは違うんだって!』
なんか、ギルに対しては容赦ない態度だな、紬。
気のせいだろうか?ギルの一つ目から水が……
「あのさ。そこのギルっていう奴も言ってたけど、その『じゃしん』って誰?この影の事?それと、『かみ』って何?もしかして、神様の事?」
「……あ」
紬がしまった、という顔をして固まった。
そういえば、まだマリンカ達に俺達の事を全て話したわけじゃないんだよな。今は遠い田舎の村出身ってことにして、俺は異世界から、紬は神界から来ていて、本当は神様だという事を伏せている。
「いや、あの、邪神っていうのは、なんかギルさんの見た目が邪神っぽいな~て……神っていうのはですね……あ、紙のことです!紙!ペーパー!」
焦りすぎだろ。ペーパーって。
急に焦りだす紬を見て、ギルは首を傾げた。
『は?何言ってんだ。見た目じゃなくて、普通に邪神って言っただろ。あと、神は姉ちゃんの事じゃねぇか。元だけど』
必死に思いついた言い訳を、ギルに即座に粉砕された紬は、ギルの方を睨みつけた。
二人の会話を聞いていたマリンカ達の方は、完全に意味不明といった顔をする。
……もう隠しておくことも無いか……
「紬。もう本当のことを教えてもいいんじゃないか?マリンカ達なら大丈夫だと思うけど」
「え……ですが、私が言うのも何ですけど、非現実的じゃないですか……?」
確かにそうだ。
実際。俺は未だに、この異世界が夢の中なのではないかという不安は少しある。
だけど、夢だろうが現実だろうが、今の状況を受け入れることにした。まだ数日しかこの異世界で過ごしていないが、夢から覚める様子は無い。
だから、マリンカ達に正体を明かしても、信じてもられば良し。信じてもらえなければ、そういう設定に憧れていると思ってくれればそれでいい。
「ま、信じてくれれば良し。信じてもらえなければ、それまでだ」
「?さっきから何の話をしてるの?」
メアナから困惑の声がしたところで、紬が意を決して真実を告げる。
「そうですね……わかりました。これから一緒に旅をしていく仲間ですもんね。皆さんに全てをお話しします」
急にシリアスな雰囲気が漂い始めた。
マリンカ達は静かに、紬の方の話を聞き始めた。
「まず、私達の事ですが、私と翔也さんは遠い村出身ではありません。私は神界から。翔也さんは別の世界から来ました」
「……『しんかい』……?『別の世界』……?」
「はい。神界と言うのは、多種多様な神が住んでいるところです。別の世界と言うのは、こことは全く違う場所……魔法や魔術が無い代わりに、科学技術……翔也さんが持っているスマホみたいなのが一般的に普及しています」
「神様?かがくぎじゅつ?え?どゆこと?」
『え。旦那って異世界の人間だったんですか。気付かなかった』
いきなりされたカミングアウトに、三人とも更に混乱していた。
ギルの方は、普通に驚いていた。
「えーっと、私の方のから先に説明させていただきますと……私、元々神様だったんですよ」
「「「…………え?」」」
なんとなく予想していたけど、そうなりますよね。
俺が日本にいた時に、「私は神様です」なんて言う人がいたら完全に頭が残念な人だと思っていたと思う。
「それで、私が別の世界で命を落とした翔也さんを、翔也さんの私物と一緒に、この世界に転移させたんですよ」
「…………」
『はぇー。元神の姉ちゃんがやったのか。あ!だから神界を追い出されたわけだ!』
「ギルさんの言う通りです。翔也さんを自分勝手に転移させたのが、他の神様にバレてしまったんです。そして、その罰としてこの世界に追い出されました。そして、今に至ります」
紬の話を静かに聞いていたマリンカ達だったが、メアナから質問が出た。
「えっと……聞きたい事はいっぱいあるけど、とりあえずツムギは本当に神様……いや、元神様なの?」
「はい。そうですよ。あ、神力が少し残っているので、お見せしましょうか?」
「え……?おわっ!?何!?体が勝手に……!?」
メアナが驚いた様子で紬の前まで歩いて行き、紬の頭を撫でた。
「神の力を使いました。魔法では再現できませんよね?」
「……人を操る魔法……あるにはあるけど、詠唱無しで魔法を使うのは不可能なはず……。まさか、本当に、神様なの?」
「まぁ、元、ですけどね」
そして、紬はマリンカとクラリッサさんにも同じことをした。
二人ともすごく驚いていた。
「にわかには信じがたいけど……とりあえず、崇めた方が良い?」
「いや、崇めなくても……今は元神様なので、皆さんと一緒ですよ。それじゃあ、次は翔也さんについてですね。これは、翔也さんから説明した方が良いですかね?」
次は俺か。
わかった、と返事をして、俺の正体(?)を話す。
「俺はこことは別の世界から来た……というか、飛ばされた。さっき紬が説明してくれたけど、俺がいた世界には魔法なんてものは空想上の存在だ。その代わりに、科学技術。火とか光を機械で生み出したりする」
「機械で……?魔道具とは違うの?」
「魔道具が何なのかはわからないけど、魔術は一切使っていない。なんか写真があればわかりやすいんだけど……」
言葉で説明するのって難しい。写真を見せた方が早いと判断した。
確か、姉さんがうちに来て料理を作っているときに、新しいエプロンだから写真撮って……とか言われて撮った写真があった気がする。
写真アプリを開き、目的のものを探す。
あ、あった。コンロでフライパンを使っているときに撮った写真だ。
「はい。これを見てほしいんだけど、このフライパンが乗っているのがコンロっていうものだ。仕組みは俺もわからないが、魔法は使っていない」
「……ホントだ。魔法陣が無いのに火がついてる。魔法で火をつけ……って出来ないのか。ていうか、誰この人?すっごい美人じゃん!」
「俺の姉だよ。ちなみに家族は元の世界にいる。この世界にはいない」
この世界に来る前にも、会社で泊まることが多くて姉さんに会う機会が少なかった。そのため、久しぶりに姉さんを見ると少し寂しくなる。
しばらく姉さんが料理する写真を皆はずっと見ていた。そして、メアナから感嘆の声がもれる。
「……なんというか、すごいとしか言いようが無いね。信じきれない部分もあるけど、見たことない鞄。見たことない料理。見たことない容器。見たことない板。見たことない服。こっちとは全然違うとは思っていたけど、まさか世界が違うとは……」
「……びっくりした……」
「……驚きです……あ、そういえば、魔王を倒す勇者様が別の世界から来たのではないかという噂は聞いたことがあります」
「え?」
え?魔王?勇者?
この世界にはそんな奴らがいるの?
「あ!あたしも聞いたことある!一番新しいのだと、魔王ギーガルを倒した勇者だっけ?見たことも無い剣を使っていたとか何とか」
「ちょっと待ってくれ。この世界には魔王とか勇者といったものが存在するのか?」
「するよ。へー、そっちの世界にはいないんだ。なら簡単に説明しよう。魔王が、勝手にダンジョンを作って近くの町や村に魔物を使って悪さをする奴で、勇者がそれをぶっ倒す奴の事。多分、この近くにダンジョンは無いと思うから安心していいよ」
魔王に勇者か。よくある異世界から来た勇者が魔王をぶっ潰すみたいな話ね。本当にあるんだ。
俺も異世界からやってきたが、とても勇者にはなれそうにないな。俺弱いし。
『別の世界から人間を持ってきて勇者にする、か。そういえば、俺が神界にいた時に流行ってたような気がするな。俺は興味無かったけど』
「そういえば、私の友達も、勇者作っちゃったーとか言ってたような気がします」
勇者ってそんなに簡単に作れるのかよ。しかも流行になるってどんだけだよ。魔王側からしたら、たまったもんじゃないだろ。
ギルと紬の話を聞いて、皆は引きつった顔をしていた。
まぁ、偉大な勇者が神の手でポンポン作られてるって知ったらそうなるだろうな。
『それでさ、たまに魔王を作る奴とか居たよな!勇者なんてもう古いとか何とか言ってさ!』
「いましたいました!私の友達にもいましたよ!勇者を全て倒させて、自分が最強の魔王使いだってことを見せてやるー!とか言ってた子がいました!」
さっきまでの言い合いが嘘のように、ギルと紬は勇者魔王話に夢中になっていた。
やっぱり元神同士、話が合うのかね。
そして、二人の会話を聞いていたメアナからまた、質問が出る。
「待って、ギルも神界に居たってことは、ギルも元々神様だったの?」
『あぁ、そうだ。俺も一回神界を追い出されてな。そんで残った神力を派手に使ったら、こんな姿になっちまったって訳よ』
ギルの説明も終わり、これで俺達の正体を明かし終えた。
非現実的すぎる話だが、紬の力。現代技術の様子。ギルの見た目によって他の三人は信じたようだ。
「なんか、すごいパーティになっちゃったね。あたしはまだ一日しかこのパーティにいないけど、負ける気がしないっていうか……とりあえず、すごいとしか言いようが無いね……ん?」
ガサガサと森の方から音がした。盗賊の生き残りかと思ったが、出てきたのは目が赤い狼の群れだった。
そして、俺達の方を警戒しながら盗賊の死体を貪り始めた。マリンカのシャドウバインドで拘束したままの盗賊は悲鳴を上げていた。
うわ……グロ……あれ?なんか気持ち悪くなってきた……
「げっ。ブラッドウルフだ。まずい。一、二、三……うわ、何十匹もいるよ。戦ってもいいけど、近くに盗賊の仲間がいるかもしれないしなぁ」
『任せろ。魔法使いの姉ちゃん。俺が一掃しよう。旦那、あの狼達に近寄れるか?」
「お、おう」
気持ち悪いのを我慢しつつ、ブラッドウルフと呼ばれる狼に近づく。俺が近寄ったことにより、ブラッドウルフの視線が一斉に俺に向く。
「本当に大丈夫か?」
『安心してくれ旦那。ま、もしもの時の為に、なんか武器を構えといてくれ』
「わ、わかった。シャイニングソード!」
俺が詠唱すると、光り輝く純白の剣が現れる。
それと同時に、ブラッドウルフは跳びかかってきた。
『ほぉ。旦那は光属性なのか。珍しいな』
そんな呑気な感想を述べながら、向かってきたブラッドウルフを巨大な腕で殴り飛ばした。
殴り飛ばされたブラッドウルフはそのまま飛んでいき、木にぶつかって動かなくなる。
その後も、ブラッドウルフは跳びかかってきたが、全てギルに殴り飛ばされてしまった。
そして、最後の一匹を殴り飛ばした。
『なんだこいつら。全然大したことないな』
完全に一方的な戦い。シャイニングソードを構えていたものの、使う機会は全くなかった。
『旦那、ケガは無いか?』
「あぁ、大丈夫だ。……それよりもギル。お前強すぎないか?」
『そうか?邪神からしたら、魔物なんてこの程度だと思うぞ』
この程度レベルなのかよ。
うん。やっぱりギル強いわ。
「翔也さーん!お怪我はありませんかー?」
「あぁ。ギルが守ってくれたから」
戦い終わった俺達の元に皆が駆け寄ってくる。
「すごいねー。あんなに一瞬でブラッドウルフ達を倒すなんて」
「……凄かった……」
「す、凄かったです」
『……いや、邪神からしたらこんなものだと思うのだが……』
照れて喜べないのか。本当にこんなものだと思っているのか。全然嬉しそうじゃないな……
『それよりも旦那達。こんな森の中でその恰好。何処かを目指して歩いていたんじゃないのか?もう日が暮れるぞ』
ギルに指摘され、上を見てみると空が赤く染まっていた。
体感ではそんなに時間が経ったように感じなかったが、いつの間にか夕暮れになっていた。
「しまった!もうこんな時間か!今日中に隣町に着くのは無理だ。何処か拓けた場所に野営しよう」
メアナの指示により、野営することになった。
俺達は、野営できる拓けた場所を探し始めることにした。