表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/45

7:依頼完了

年が明けてしまった……


最初はマリンカ視点です。途中から翔也視点に戻ります。


追記:少し改稿しました。メインストーリーに影響はありません。

【マリンカ視点】


「いやー、やっぱりお風呂は良いねー」


 メアナの声が大浴場に響く。


 確かに、お風呂はとても良かった。


 お風呂なんて何年ぶりだろうか。


 洞窟暮らしの時は、川で何とかしていた。


 そのため、マリンカは久々のお風呂にとても興奮していた。


 周りを見渡す。


 今、大浴場にはマリンカ、ツムギ、メアナ、クラリッサさんの4人がいる。


 他の利用客は誰もいない。


 まさに貸し切り状態だった。


「そうですね~。とても気持ち良いです~」


 ツムギがとても心地良さそうに応える。


 シノツカツムギ。


 マリンカが洞窟で出会った女性である。


 ツムギはとても優しい。


 闇属性であるマリンカに怯えることもせず、むしろ慰めてくれた。


 その際に急に抱き着かれたが、不思議と心が落ち着いた。


 なんとなく、この人はとても凄い人なんじゃないかと思う。


 次に、ツムギの隣にいるメアナに目を向ける。


 メアナは、今日この町で出会った魔法使いの女性だ。


 光属性と闇属性を研究しているという不思議な人。


 そして、闇属性であるマリンカに魔法を教えてくれた。


 正直、闇属性に興味津々な人は初めて見た。


 最後にクラリッサさん。


 この人は、奴隷取引されそうになっていたエルフ族の女性だ。つい先程出会った。


 今は、湯船に浸かり心地良さそうにしている。


 恐らく、奴隷として捕まってから酷い環境に置かれていたと思われる。


 こうしてゆっくりと湯船に浸かる事は久しぶりだろう。


 彼女にはまだ、自分が闇属性であると打ち明けていない。


 パーティメンバーになったのだ。


 属性を教えるのは避けては通れない道。


 他の3人の時も同じだったが、やはり、闇属性である事を打ち明けるのは緊張する。


 闇属性は何故か差別されている。


 悪魔だとか、魔界からの使者だとか色々な事が言われているが、明確な理由は分からない。


 勿論、マリンカは悪魔でも、魔界からの使者でも何でもない。


 ……どう説明するか……


 困りは果ていると、ツムギがこちらに寄ってきた。


「どうしたの?マリンカちゃん。何か困った事でもあるの?」


「……えっと……属性の事、クラリッサさんにまだ言ってないから……」


 クラリッサさんに聞かれたくないので、一応小声で話す。


「そっか……う~ん……」


 しばらく考える素振りを見せた後、「じゃあ」とツムギが続ける。


「まずは、クラリッサさんが闇属性について、どう思っているのかを聞きだそうか」


「……それ聞いたら、闇属性って事がバレるんじゃ……」


「大丈夫!私に任せて!」


 そう言うと、ツムギは皆に向かって、「自己紹介をしましょう!」と提案した。


「まだ名前しか教えてないですからね。改めて。私は遠い田舎から来ました。こちらの事は、よく分からないですが、よろしくお願いします~」


 何故このタイミングで自己紹介なのか。


 自己紹介が闇属性への印象を聞き出すのに、どう関係があるのか、マリンカには分からなかった。


「じゃ、次あたしね。あたしは今日このパーティに入ったんだ。その前は、こっから近くにある研究所で光属性と闇属性の研究をしてたんだー」


「光属性と闇属性ですか……?」


「そうだよ。あ、2つの属性について知ってる事ってある?どんな事でも良いんだけど」


 急に光属性と闇属性の話題になった。


 メアナが2つの属性を研究していた事は事実だが、ここまで思い通りに進むものなのだろうか?


 それとも、ツムギが何かしたのか……?


 ツムギの方に目を向ける。


 ただ笑顔を向けてくるだけだった。


「光属性の事は分かりませんが……昔、闇属性魔法を使う旅人の方になら会った記憶があります……」


「本当!?」


「はい……私達の村の畑が上手くいかず、食糧難に陥っていた時の事です……その旅人の方は、一晩泊めてほしいと私達に頼んできました。人間族の方だったので、最初は村の皆は追い返そうとしました……ですが、旅人の方が村の畑が上手くいっていない様子を見て、1つの魔法を使ったんです……その魔法を使った途端に、失敗した農作物は全て、綺麗で新鮮な状態に変化したんです……」


「それが、闇属性魔法だったと?」


「そうだったと思います……間違っていたらすみません……」


「……農作物を成長、いや、復活させる魔法か?聞いた事無いな……」


 メアナは考え込むような顔をする。


 マリンカも初めて聞いた。


 元々、魔法に関しての知識は少ないが、そんな魔法があったなら農家の人は絶対に使っている。


 闇属性だから皆使わないのだろうか?


 それとも、広く知られていないだけなのか。


「詠唱って覚えてる?」


「……たしか、『ダークグロース』……だったような気がします……」


「ダークグロースか……丁度良い、そこの観葉植物に早速使ってみ……」


 最後まで言う前に、メアナが踏み留まる。


「……大丈夫かな?」


「…………」


 メアナがこちらを向きながら、闇属性魔法を使ってくれるかと聞いてくる。


 マリンカは、その質問に対して、すぐに答えを出せなかった。


 ここで闇属性魔法を使えば闇属性だとクラリッサさんにバレる。


 だが、このチャンスを逃せば、もう属性を打ち明ける機会は訪れないだろう。


 マリンカは深呼吸をして、勇気を出して答える。


「……わ、分かった……」


 隅に飾られている観葉植物の方に手の平を向けると、詠唱を始める。


「……『ダークグロース』……」


 詠唱をした瞬間。


 マリンカの手の平の先に黒い魔法陣が出現し、その魔法陣から黒煙が放出され、観葉植物に向かって直進する。


 黒煙は、観葉植物に吸い込まれるようにして消えていく。


 暫くすると、観葉植物のサイズが少し大きくなった。


「……で、出来た……?」


 とりあえず、上手くいったようだ。


 さて、クラリッサさんはどう反応するのか。


「……す、凄いです!闇属性魔法を使えるなんて……!」


 クラリッサさんは目を輝かせながら興奮していた。


 闇属性への嫌悪を抱かないクラリッサさんに対し、マリンカは理解が追いつかなくなる。


「……えっと……闇属性って……平気……?」


「……?はい、平気ですけど……?」


 どうやら、マリンカの杞憂だったようだ。


 それが分かり、マリンカは一息吐く。


 それと同時に、ツムギが笑顔を向けてきた。


「上手くいって良かったね!」


「……うん……ありがとう……!」


 これで一安心だ。


 全てはツムギのお蔭だ。


「じゃ、次マリンカの番ね」


「……?」


 何の事……?


 ……あぁ、自己紹介をしていたんだっけ。


「……えっと、私は元々隣町の近くで住んでたけど……今は、パーティでお世話になってます……これからよろしくお願いします……」


「はい……!皆さん、これからよろしくお願いします……!」


 こうして、無事に闇属性という事実を打ち明ける事が出来た。


 ……無事に終わって良かった。






【ショウヤ視点】


「あー気持ちよかったー」


 風呂から上がり、今は一人、休憩室で寛いでいた。


 休憩室と言っても、簡単な椅子と机が数個あるだけの部屋だ。


 まだ女性陣は風呂から上がっていないようなので、ここで待つことにしたのだ。


 暫くすると、女性陣が戻ってきた。


「お待たせして申し訳ありません。翔也さん」


「大丈夫。俺も今上がった所だから」


 適当に返事をすると、宿に向かう。


 その間に、紬からクラリッサさんが闇属性に対して問題無いという事を聞いた。


 マリンカの闇属性問題は俺の居ない所で解決したらしい。


 宿に着き、店主と軽く挨拶を交わしてから泊まっている部屋に入る。


 さて、あとは寝るだけだ。


「じゃ、そろそろ寝るか……」


「そうですね」


 皆がベッドに入る。


 クラリッサさんは遠慮していたが、メアナと紬が無理やりベッドに引きずり込んでいた。


 その様子は、食虫植物が獲物を捕まえた時のようだった……


 一方俺は、ベッドの側にあるソファーで寝る。


 既に4人もベッドに乗っているので、俺が寝れる分のスペースは無い。


 スペースがあったなら……まぁ、ベッドで寝たいという気持ちはあるが……


「それじゃあ、おやすみ」


「は~い。おやすみなさ~い」


「……おやすみ……」


「おやすみー!」


「おやすみなさい……」


 疲れていたからか、俺はすぐに眠りについてしまった。







「……ん……」


 目を覚ます。


 スマホの時間を見……れないんだった。


 バッテリー残量が少ししか無いのを忘れていた。


 体を起こし、窓から外の様子を見る。


 まだ外は薄暗い。


 窓からベッドの方を見ると、皆はまだ寝ていた。


 また早起きをしてしまったのか。


 皆を起こさないようにして、身支度を整える。


 出来るだけ音を立てないようにしたつもりだったが、マリンカが眠そうにしながら起きてきた。


「おはよう。ごめん、起こしたか?」


「……おはよう……いや、普通に目が覚めた……」


 ベッドから抜け出し、マリンカも身支度を整える。


「まだ皆起きないみたいだな」


「……うん……」


 他の3人は起きる様子が全く無い。


 俺とマリンカは早く起きすぎたようだ。


「あ。そういえば、依頼が終わった事をギルドに報告してなかったな……時間もあるし、ギルドに報告でも行く?」


「……分かった……」


 やる事も無いので、ギルドに向かう事にした。


 ギルドに依頼完了の報告に行っている旨を伝える為に、バッグから取り出したメモ用紙とボールペンで書置きをしておく事にする。


 俺は異世界の文字が書けない為、マリンカに代筆してもらった。


 メモ用紙とボールペンにもマリンカは興味を示していた。


 とりあえず、地元の物とだけ言っておいた。


 早朝なので危ない奴は出ないと思うが、一応護身用の短剣を装備して、1階に降りる。


 宿屋の店主にギルドに依頼完了の報告に行くと伝えて、ギルドに向かう。


 やがてギルドに着き、建物内に入る。


 酒場の方は疎らに人が存在した。


 こんな朝早くから飲むとは……


「すみません。ポイズンリザードの討伐依頼完了の報告に来ました」


「かしこまりました。それでは、こちらの水晶に手を翳して下さい」


 そう言って、受付の女性は水色の水晶の隣に置いてある緑色の水晶を示す。


 俺は言われた通りに緑色の水晶に手を翳す。


 ……何も起きない……?


「ありがとうございます。反応が無いので嘘は吐いていないようですね。それでは、こちらが報酬の銅貨20枚になります」


 へー、水晶に手を翳して嘘を吐いていないかどうかを確かめるのか。


 これなら、特に討伐した証拠も要らないな。


 果たすべき事も終わったので宿に帰ろうとすると、酒場の方から話し声が聞こえてきた。


「……おい。あの弱そうな男にくっついてる子供。隣町で出たっていう悪魔と特徴一緒じゃねーか?」


「そうか?あんな子供、そこら辺に山程居るだろ」


「いや、でもあの弱そうな男も悪魔の仲間と特徴が似てるぞ……あいつら、悪魔なんじゃないか?」


「言われてみれば……」


「おい、後で騎士団に報告してこよーぜ」


「もし当たってたら俺ら、しばらく働かなくて良くなるな!」


「だな!」


 ……マズい、こっちの町までマリンカの情報が流れてきている。


 早くこの町を出た方が良さそうか……?


「……ッ!」


 マリンカが不安そうに俺を見てくる。


「大丈夫だ。もうあんな思いさせないから」


 そう伝えて、俺とマリンカは足早にギルドを去った。


 ……こんなにも早く町を出るとは思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ