5:怪しい取引
追記:少し改稿しました。メインストーリーに影響はありません。
メアナが詠唱を終えると、魔法陣から巨大な岩で構成されたゴーレムが召喚される。
デカ過ぎだろ!?
6、7メートル位の高さあるぞ!?
「さぁ、まとめてやっちゃいなー!!」
ゴーレムはメアナの指示で、襲い掛かってくるキラービー達に巨大な腕を振るう。
キラービー達は6匹全員ゴーレムの腕に吹き飛ばされてしまった。
「あっはっは!どーよ!?あたしの力は!?」
メアナがドヤ顔をこちらに向けきた。
「……凄いとしか言いようがないな……」
「……す、凄い……」
「流石メアナさんです~!」
「もっと褒めてくれても構わないよー?」
本当に凄いとしか言えない。
これがメアナの力か。
俺達のパーティの中で一番強いんじゃないか?
「今のはどんな魔法なんだ?見れば大体分かるけど……」
「これは超級魔法だよ。流石に1日1回か2回位しか使えないけどね。でも、その分強力で、スゲー強いゴーレムを呼び出せるんだよねー」
「超級魔法?」
「属性魔法の最上級の魔法のコト。ほとんどは召喚魔法だね。十分な魔力量があれば使えるよ」
十分な魔力量か。
俺には無理な話だな。
「あー、でも、魔力量は魔物を倒す程に増えていくから。冒険者とかやってれば使えるようになるよ」
「冒険者ねぇ……」
冒険者はいつ死ぬかわからない。
常に危険と隣り合わせだ。
会社も常に危険(部長)と隣り合わせだったが。
「冒険者……どうなんだろうか……」
「ま、ゆっくり考えていけば良いよ。軽い気持ちで冒険者なんてやったらすぐ死ぬだけだし」
「キシャァァァァ!!」
メアナと話している最中に、ポイズンリザードが5体の群れで襲ってきた。
しかし、それもギガントゴーレムに全て殴り飛ばされた。
「自ら跳び込んでくるなんて。探す手間が省けて良かったー。これであと2匹。もうギガントゴーレムちゃんも出番は無いかな」
そう言うと、メアナが魔法陣を起動させる。
その後、ギガントゴーレムはその中に消えていった。
「じゃ、早速探しにいこー!」
「おー!」
「……おー……」
そうして次の獲物を探しに行く。
それにしてもメアナの魔法は凄かったな。
「ギガントゴーレムってずっと召喚させていられないのか?」
「それは無理。召喚するのに魔力をいっぱい持っていかれる上に、ずっとこっちに居させるなんて事したら、魔力が無くなっちゃうよ」
ギガントゴーレムの活動時間にも魔力が必要なのか。
何か……面倒くさい魔法だな……
しばらく歩いていると、ポイズンリザードが2体現れる。
こいつらを倒せばクエスト完了だ。
「じゃ、サクッと終わらせますか!」
メアナの掛け声でポイズンリザードたちを4人で取り囲み、跳びかかる。
紬の見事な剣裁きにより、俺達は圧勝だった。
「ふぅ。これで依頼完了だね。後はギルドに帰るだけだ」
「良い戦闘経験になった」
「討伐依頼は今後も引き受けて大丈夫そうですね!」
異世界に来たのだから、当然戦闘をすることになるとは薄々感じていた。
早いうちに戦闘経験が出来て良かった。
皆でギルドに帰ろうとすると、金色の鳩が目の前を横切って行った。
「ッ!?アレってゴールデンピジョンだよね!?」
「……!……は、初めて見た……」
「「……?」」
マリンカとメアナが金色の鳩を見て驚いていた。
俺と紬の異世界組は全く状況が掴めていない。
「ゴールデンピジョン?」
「メッチャ高く売れる鳥だよ!!何でこんな所に……って、早く捕まえないと!マリンカ!アイツにシャドウバインド!」
「……分かった……!シャドウバインド……!」
影の縄がゴールデンピジョンの周囲に現れ、ゴールデンピジョンに襲い掛かる。
しかし、見えない壁にぶつかったように弾かれてしまった。
「……ッ!そういえば、魔法が効かないって言われてたんだった……皆!早く追いかけるよ!」
「……うん……!」
「お、おい!」
マリンカとメアナがさっさと追いかけに行ってしまった。
2人を追いかけねば。
紬と共に2人を追いかける。
「あの鳥ってどれくらい高いんですか?」
「白金貨がいっぱいだよ!一生遊んで暮らしていけるくらいの!!」
……一生遊んで暮らしていける……だと……?
働かずに生きていきたいと何度思ったことか。
まさか、異世界に来て叶うとは。
「……なんとしてでも捕まえるぞ!」
「おー!」
正直に言うと、依頼なんて面倒くさい。
魔物討伐なんてやりたくない。
だが、目の前に自由が現れた。
なんとしてでも捕まえなければ。
メアナを先頭に、4人でゴールデンピジョンを追いかける。
幸い、低空飛行をしてくれている。
魔法が効かなくても素手で捕まえられるかもしれない。
「それにしても早いなアイツ!追いつけるのか!?」
「何処かに留まるかもしれない!それまで追いかけよう!」
しばらく鳩と追いかけっこをしていると、急にメアナが追いかけるのをやめてしまった。
後ろから追いかけていたマリンカがメアナの背中にぶつかり、その次に紬、その次に俺という順番でぶつかっていった。
「いきなりどうしたんだ?」
「……しっ!!静かにして!それと、動かないで……」
なんだ?何が起こっている?
メアナは木の陰から何かを睨んでいた。
「……クソ!なんで騎士団の奴等がここにいるんだよ……!」
「……!……」
メアナが物凄く嫌な顔をし、マリンカが怯えた表情で何か見ていた。
2人が見ていた方向を見ると、白い甲冑に身を包んだ兵士が2人立っていた。
「……誰だ?」
「リニタール騎士団だよ。メンバー全員が光属性で、光の騎士団なんて呼び名もある」
「全員が光属性?」
凄いな。
相当強いんだろうな、その人達。
でも、なんで隠れる必要があるんだ?
「そう。それで、光属性って事を利用して色んな悪さをしてるって噂だよ。実際、沢山の被害者もいるって話だし」
「なんだそれ……」
光属性だからって調子に乗っているって事か。
俺は調子に乗らないように気を付けよう。
「あーもう!なんで騎士団の奴等がいる方に飛んでいくんだよ……!」
ゴールデンピジョンは兵士達の横をすり抜けていく。
幸い、兵士達はゴールデンピジョンに気づいていないようだ。
「……多分、この先で何かやっているんだと思う……あの人達は見張りかな……」
マリンカが兵士達を見ながら言う。
「突破しよう!目の前の大金を簡単に諦めるもんか!」
「一生遊んで暮らせるなんて最高ですね!」
「……は、白金貨……」
全員、諦めるつもりは無いみたいだ。
俺も無いけど。
「どうするんだ?」
「闇魔法を使う。マリンカ、『ブラインドシェイド』ってアイツ等に詠唱してみて」
「……わ、分かった……『ブラインドシェイド』……」
マリンカが詠唱すると、兵士達の目の付近が真っ黒に染まる。
イメージは、ニュースとか雑誌とかで見る、目に引かれる黒い線みたいな感じだ。
「な、なんだ!?」
「何も見えない!」
兵士達の視界を奪ったらしい。
本当に何も見えないのか、辺りをウロウロしながら剣を振り回し始めた。
「今のうちに行くよ!」
何も見えない状態の兵士達を無視して、ゴールデンピジョンが飛んで行った方向に向かう。
「魔法をかけたら、誰かが中に侵入したってバレるんじゃないのか?」
「大丈夫。闇属性の魔法はあんまり知られてないし、すぐに魔法の効果は切れるから大抵は魔物の仕業とか疲れとかだと勝手に勘違いしてくれる」
「よくそんな事分かるな」
「伊達に光属性と闇属性の研究をしてないよ。その位知ってて当然!」
そういえばそうだったな。
メアナは光属性と闇属性の2つの属性の研究をしていたんだった。
しばらく走ると、見晴らしの良さそうな丘が見えてきた。
そこには、薄暗い空の下で佇む1人の兵士が居た。
その横にはデカい馬車もある。
「……ダメだ!完全に見失ったよコレ!」
「……仕方無い……」
「残念でしたね~……」
一生遊んで暮らす夢は消えてしまった。
騎士団が守っている場所にまで来て収穫無しなんて。
「どうするんだ?兵士に見張りを突破したのがバレたらマズいだろ」
「またブラインドシェイドを使えば問題ないよ。でもなー。ここまで来て何も収穫が無いのはちょっとなー」
そういえば、とメアナが続ける。
「さっきのスマホって今も持ってる?」
「あぁ、持ってるけど」
「ここで騎士団の奴等が悪事を働く瞬間をスマホでドウガに収めよう!」
「は!?」
なんでそうなる。
まだ悪い事をすると決まったわけでも無いのに。
もし悪事を働いたとして、それを録画すれば確実な証拠にはなるだろうけど、こっちの世界の住人が簡単に信じてくれるかどうか分からない。
「いーいーじゃーん。疑われても、ショウヤが光属性って言えば皆信じるでしょ。あと、騎士団の奴等って嫌われてるしね」
「そういう問題か?」
「そうでもしなきゃ、この場所に来た意味が無くなっちゃうよ」
「……まぁ、良いか……」
別に俺は困らないし。
暫く間、4人で木の陰に隠れる。
兵士に動きがあるまで待機だ。
一応、スマホを起動しておく。
バッテリー残量が少ないから、何かするなら早めにやってほしい。
5分位経った頃、兵士に動きが見られる。
カメラアプリを起動して、兵士の動向を録画する。
「おーい。こっちだ」
兵士が、俺達が隠れている場所とは反対方向に向かって誰かに呼びかけ始めた。
しばらくすると、馬車と共にフードを深く被った男が現れる。
見るからに怪しい。
「遅かったな。何かあったのか?」
「少し仕事が長引きましてね……ですが、ご安心を。しっかりと連れてきていますよ……」
御者台からフードの男が下りると、馬車のワゴンの扉を開け中に入っていく。
再び男が現れると、手に鎖を握って出てきた。
その鎖の先には手枷があり、口を縄で塞がれた金髪の女性が現れた。
女性の目には光がなかった。
「……奴隷取引だったのか……騎士団は本当に嫌な連中だよ」
「……奴隷取引?」
「たまに居るんだよ。村を襲って女の人や子供を攫う。それで奴隷として売り払う。そんな事をする奴等がさ」
マジかよ。
そういうのって本当にあるのか。
「これは見てる場合じゃないね。早く助けに行かないと!」
「ですね!」
「でもどうやって?」
「殺すのが一番良いと思うけどね」
メアナが平然と答えた。
「殺す!?」
無理無理無理!!
人殺しなんて絶対に無理だって!!
「なんで驚いてんの。あんな奴等殺しても誰も文句は言わないよ」
「でもっ!」
「私は別に殺害しても良いと思いますけど」
「…………」
紬もかよ。
俺もだが、マリンカが2人の言動に引いていた。
「いい?ここで殺しておかなきゃ後で追手が来るに決まってるでしょ。それに、生き残りに目を付けられたら絶対に面倒くさくなる」
「……そうなのか?」
「そうなの。じゃ、こうしよう。あたしとツムギは兵士達を相手にする。マリンカは逃げ道の確保。ショウヤはあの女の人を保護する。これで問題ないでしょ?」
「……分かった」
「……うん……」
「了解です~!」
スマホの録画を止めて電源を切り、立ち上がる。
皆が戦闘態勢に入ると、俺と紬とメアナは丘の上を目指す。
まず最初に、紬が取引に夢中になっている兵士に奇襲をかける。
紬が兵士目掛けて剣を振るうと、兵士の首が簡単に吹き飛んだ。
「誰だ!?」
目の前で兵士を殺害されたフードの男は、咄嗟に懐から短剣を取り出す。
が、メアナの詠唱の方が早かった。
「ストーンレイン!」
メアナが詠唱した瞬間に、フードの男の頭上に大小様々な大きさの石が降り注ぐ。
「イタタタタタタ!?」
「ツムギ!」
「了解ッ!」
石の雨に怯んでいるフードの男はツムギに斬られてしまった。
一瞬にして人が2人死んだ。
この世界は自分がいた世界ではないと改めて実感した瞬間だった。
今のうちに女性を保護しなければ。
極力死体を見ないように急いで女性に駆け寄ると、女性は目の前で起きた出来事に目を丸くしていた。
とりあえず、女性の口に掛けられた縄を短剣で切る。
「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
「……えっ!?あ、あの、は、はい……!」
「驚かせてすみません。とりあえず付いて来てもらえませんか?まだ敵が潜んでいるかもしれませんので」
「わ、分かりました……」
よく見ると、女性は耳が尖っていた。
もしかして、エルフという種族か?
異世界ものの話ではよく出てくる種族だな。
「あ、あの、助けていただき、ありがとうございます……」
「いえ、俺は特に何もしてないので。お礼を言うなら2人に言ってください」
「は、はい。あ、あの……ありがとうございます……」
「いやいやー!もっと感謝してくれたまえー!」
「当たり前の事をしたまでですよ。あ、手に付いているの外しますね」
紬が女性に付いていた手かせを外す。
それにしても2人とも、ついさっきに人を殺めたような感じは微塵も感じられないような笑顔だった。
そんな2人に、俺は少し恐怖を感じた。
「じゃ、さっさと撤収だ!早くマリンカの所へ行こう!」
丘を下り、マリンカの所へ向かう。
「騎士団の奴等は?」
「……大丈夫……誰も来てない……」
「よし!このまま宿に向かって走るよ!」
別の兵士に気づかれる前に宿に向かう。
エルフの女性は自分で走れるそうなので自分で走ってもらった。
薄暗い空の下で、5人が森の中を駆け抜ける。
そこで気づく。
俺が1番足遅いじゃん……