4:魔物討伐
追記:少し改稿しました。メインストーリーに影響はありません。
宿屋のベッドに4人で座り、今は休憩中だ。
とりあえずスマホで時間を確認。
13時。
元の世界では昼食の時間か。
俺はずっと会社で作業をしていたから昼食なんて時間は無かったが。
この世界には昼食を食べる習慣はあるのだろうか。
「俺達の村には昼食を食べる習慣があったんだが、こっちの方だとそういう習慣ってある?」
「うーん、あんまりないかなー」
無いのか。
別に、元の世界でも昼食を食べていた事は少ないから大丈夫だと思うけどね。
「そうか。なら、こっちの習慣に合わせよう。別に空腹って訳でも無いし」
「……さっきから聞いてると、ショウヤとツムギの村って、こっちの方と文化も習慣も違うんだね。見た事無い道具もあるし。そっちの村の事、色々教えてほしんだけど」
「……私も知りたい……」
一番聞かれたくない質問をされた。
文化や習慣以前に世界が違うんですが。
困った。なんて返事を返せば良いんだ。
俺は助けを求めるように紬の方を見る。
「私達の村の事はあまり口外しないようにって、村の方々から言われてるんですよね。それを条件に私達は村を出てきたので」
「そーなんだ。残念だけど、無理して聞かない方が良いみたいだね」
さすが元神様。頼りになる。
「だけど、持っている道具の説明とかはして欲しいかなー。さっきの薄い板とかね。流石に気になるよ。安全なのかどうかも知りたいし」
「……私も気になってた……」
俺も知らない道具を見れば何に使うのか気になるし、安全なのかどうかも心配になる。
マリンカとメアナにはこの世界について知らない事を色々教えてもらっているのに、こちらは使っている道具の用途すら教えないのは流石に不公平だと自分でも思う。
一応、紬に許可を得る。
他の世界の道具を教えるのは良いのかどうかは、元神様に聞くのが早い。
聞いたところ、「問題無い」と言われたので説明をする事にした。
「よし。説明しよう」
スマホを取り出して説明を始める。
「これはスマートフォン。通称スマホと呼ばれる道具で、遠くの人と連絡を取り合う道具だ。けど、俺の場合はその機能が色々な事情で使えない。でも、この道具は他にも機能がある。日付と時間の確認や、写真や動画もとれる。他にも色々あるが、俺はそこまで詳しくない」
「……へー。そんなに小さいのに色々出来るんだね。というか、シャシンとドウガって何?」
「あ、ごめん。写真っていうのは……実際にやってみた方が早いな。それじゃあ、皆出来るだけ俺に近づいて。そしたら、このスマホを見て」
ベッドに座りながら四人がくっつき、何とかカメラの中に収まるようにし、カメラを内カメラにする。
「凄い!あたし達がスマホの中にいる!」
「出来るだけ動かないでくれ。それと、光と音が出るけど驚かないで。それじゃ撮るよ」
撮影をして、カメラアプリを終了する。
あらかじめ驚くなと言っておいたが、マリンカとメアナは凄く驚いていた。
写真アプリを開き、撮ったばかりの写真を見せる。
「はい。こんな風に対象を記録として保存できる」
「すげー!どんな魔法がかけられてんのコレ!?」
「……す、凄い……」
4人の集合写真見てマリンカとメアナはテンションが上がっていた。
その後は、動画の説明もした。
2人はスマホを気に入ったようだ。
それからスマホはしばらくの間、マリンカとメアナの玩具になってしまった。
今更だが、この世界でスマホは充電できるのか?
スマホを堪能し終えたマリンカとメアナからスマホを返してもらい、バッテリー残量を確認する。
マズい。あと15パーセントしかない。
「紬。この世界ってスマホの充電は出来るのか?」
「えーと、多分出来ないんじゃないですかね?」
「そうか……なんとなく想像は出来てたけど」
「現役の神に頼めば出来ると思いますよ」
マジ?そんな事出来るのか。
スマホの充電を神様に頼むっていうのはどうかと思うが。
「出来るのか?」
「こちらの事情を理解してくれて、神界から追い出された私に手を貸してくれる、とても優しい神がいればの話ですけどね」
「それってほぼ無理なんじゃ」
「まぁ……無理ですね」
無理なのかよ。
期待した自分が恥ずかしい。
「でも、この世界でスマホを充電出来る手段があるかもしれませんよ?」
「そう思っておくことにしよう……」
しばらくスマホは使えないな。
無くても時間の確認が出来なくなるだけだから、そこまで困りはしない。
あとあれか。
スマホが充電出来ないとなると、パソコンも無理か。
充電について考えていると、メアナが口を開いた。
「まだ結構時間もあるし、依頼でもやりにいかない?お金はどれだけあっても困らないし」
「良いですね!私も行きたいです!」
確かに、お金はどれだけあっても困らない。
金貨があるとはいえ、いつ無くなるか分からないからな。
「分かった、行こう。マリンカも大丈夫?」
「……だ、大丈夫……」
「よし、適当に準備して行くか……」
準備と言っても特に無いけどね。
「そういえば、皆は自分の武器とか持ってるの?」
ギルドに向かう途中でメアナに質問された。
「皆持ってないよね?」
「はい。持ってませんね」
「……持ってない……」
「一応持っておいた方が良いよ。ショウヤは魔力量が少ないから、シャイニングソードを何回使えるか分からないし、ツムギも今の所魔法が使えないからね。マリンカは中級魔法まで使えるから多少大丈夫だと思うけど、一応持っておいた方が良いかも」
「持ってないと困るのか?」
「盗賊とかに遇ったらどうすんの。それに、魔法を沢山使えば、いつかは魔力が尽きる。回復するまでの間に武器は絶対必要だよ」
武器か……
やっぱり剣とか?
いや、今までキーボードをカタカタ打ってただけの奴に剣が扱えるはずがない。
「せっかく私が出した報酬があるんだから、ちょっと武器屋に寄って行こう。良い店知ってるからさ」
「分かった」
ちょっと寄り道をして武器屋に入る。
中には剣や槍などのフィクションでしか見た事が無い武器が沢山並べられていた。
「いらっしゃい!……あれ!?メアナじゃねえか!久しぶりだなぁ!」
「よ!久しぶり!」
本当に誰にでも知られているな、メアナは。
「お前が俺の店に来るなんて珍しいな。それと、その3人は?」
「あたしの仲間だよ。これからギルドに行こうと思ってたんだけど、3人とも武器を持ってなかったから、ここに来たってワケ」
俺とマリンカと紬は武器屋の店主に軽く挨拶をした。
「おう、よろしくな。それじゃ、気に入った武器があったら俺の所に持ってきてくれ」
早速武器を選ぶ。
「持ってみても良いですか?」
「構わないぞー」
店主からの許可を得て、試しに近くにあった剣を手に持つ。
重い!
両手で持ってみるが無理だ。重すぎて持てない。
俺が貧弱すぎるのか?
扱えない事は何となく分かっていたが、持ち上げる事すら出来ないとは……
剣は諦めて、隣にあった槍を持つ。
重い!
なんで槍も重いんだよ!
「こっちの剣と槍の重さは普通なんですか?」
「最初は重いかもしれないが、慣れてくると結構使いやすいぞ」
「……そういうものですか?」
「そういうものだ」
慣れか。
多分一生慣れないな。この重さには。
槍も諦め、次に槍の隣にある短剣を持つ。
お、丁度良い。
シャイニングソードよりは弱いかもしれないが、扱いやすさは同じくらいだ。
これで良いかな。
かさばらないし。
「俺は決まったけど、2人は決まった?」
「……う~ん。私はコレですかね~」
そう言って、俺が持ち上げられなかった剣を紬が片手で軽々と持ち上げた。
……マジかよ……
「お、重くないのか……?」
「丁度良いくらいですね。特に問題はありません」
やっぱり俺が貧弱なだけだった。
恥ずかしい……
「……マ、マリンカは決まったか?」
「……短剣にする……」
マリンカも短剣か。
まぁ、マリンカの場合は中級魔法が使えるから武器はそんなに使わないかもしれないが。
……あれ?もしかしてパーティの中で一番弱いのって俺?
いや、逆に考えるんだ。
最近まで社畜だった奴に戦闘能力があるわけがない。
それでもクエストに挑もうとしているのだ。
勇気を持つ者こそが真の強者なんだ!
必死に自分にそう言い聞かせながら、店主の元に行き支払いを済ます。
さて、ここからが本題だ。
武器屋を後にして、ギルドに向かう。
その途中で、ふと気づいた。
「そういえば、メアナの武器は何処にあるんだ?」
メアナが持っているのは小さな巾着袋だけだ。
武器らしき物は確認出来ない。
「あたしは魔法使いだから武器は必要ないけど」
「魔力切れがあるって言ってなかったっけ?」
「それは普通の人の話ね。あたしは魔力がいっぱいあるから魔力切れなんて滅多に起こらないんだよね。上級魔法を連発したら流石に魔力切れになるけど」
そうだったのか。
やっぱり一番俺が弱いんだな……
いや、逆に考えるんだ。
最近まで社畜だった奴に戦闘能力が……ってもういいか、このくだり。
くだらない事を考えていると、いつの間にかギルドに着いていた。
武器も手に入れた事だし、せっかくだから魔物討伐とかやってみたいな。
もしもの時に武器が扱えないとか目も当てられない。
「実際に魔物と戦ってみたいんだが、この中で一番弱い魔物の討伐依頼ってある?」
「……前にも言った、ポイズンリザード10匹討伐かな……」
それかよ。
初討伐でアレは難易度高いと思うんだが。
「え?もしかしてショウヤって魔物と戦うの初めてなの?」
「……えーと、俺達の村の近くには魔物が全然居なくて戦う機会が無かったんだよ。な?紬?」
「え?あ、はい。そうです」
メアナの疑問を適当に誤魔化す。
すると、マリンカから追い打ちがかけられる。
「……記憶喪失って言ってた割には……故郷の事をよく覚えているんだね……」
「え?ショウヤって記憶喪失だったの?」
……マリンカよ。なんで忘れかかってた設定を思い出させるんだ。
あー、面倒になってきた。
「あ、あれだ。だんだん記憶が戻ってきてるんだよ」
これしか誤魔化す方法が思いつかない。
こう言っておけば、後で分からない事を聞いても記憶が戻っていない設定にしておけば大丈夫だろう。
「…………」
「へー。ショウヤって色々と大変だねー」
マリンカは微妙に納得していないが、良しとする。
俺は、その場から逃げるようにして依頼の紙を受付に持っていった。
これ以上色々と聞かれたくない。
◆
依頼の紙に書いてあった森に辿り着く。
ポイズンリザードって森にいるんだな。
覚えておこう。
4人で森の中を進み、周りの景色が完全に木しか見えなくなった所で標的が現れた。
しかも3体。
「3体いるけど大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。あいつら噛みつく以外に攻撃してこないし。よく見てれば噛みつかれないよ。危なくなったらあたしが助けるから」
「……とりあえずやってみるか。『シャイニングソード』!」
俺の右手から純白の光の剣が出てくる。
剣の構え方なんて知らないので、アニメとかテレビの真似をする。
すると、ポイズンリザードが1匹襲い掛かってきた。
跳び上がった標的を剣で上から下に斬る。
適当に斬ったつもりだったが、ポイズンリザードが真っ二つになってしまった。
「……シャイニングソード切れ味ありすぎじゃね?」
俺の目の前で絶命したポイズンリザードを見る。
うわぁ……結構グロいな……
少し気分が悪くなる。
だが、トカゲの死体だと思えば何とか耐えられる。
斬られた巨大な目から溢れ出る謎の液体の事は触れないようにしよう……
「初心者にしてはまぁまぁだね。じゃ、次はマリンカやってみる?怖かったらシャドウバインド使っても良いからさ」
「……う、うん……ダークソード……」
今度は、マリンカの右手から漆黒の剣が出てきた瞬間、1匹のポイズンリザードが襲い掛かってくる。
「……シャドウバインド……」
マリンカが詠唱すると、ポイズンリザードは空中で黒い影のようなものに拘束された。
空中で身動きが取れないまま、ポイズンリザードはマリンカに斬られた。
「うん、良い感じだね!じゃ、最後はツムギね」
「了解です~」
そういうと、まだ襲い掛かる準備も出来ていないポイズンリザードに紬が剣を持って突っ込んでいき、そのまま一刀両断にした。
速すぎだろ!?
「おー。ツムギは結構強いみたいだね」
「えへへ~、ありがとうございます~」
呆気にとられる。
紬がこんなに強かったなんて。
マリンカも目を丸くしている。
流石元神様だ。
いや、紬自体が強いのか?
「さて、皆大丈夫そうだし、さっさと依頼を終わらせちゃいますか!」
「おー!」
何はともあれ、皆ポイズンリザードとは戦えるようだ。
メアナの戦闘力は未だ判明してないが、相当な自信があるから大丈夫だろう。
メアナがそのまま次の獲物を求めて移動する。
あれ?もう移動するの?
「何か倒した証拠とか必要ないのか?」
「ポイズンリザードがお金になる事ってほとんど無いからね。それに、ギルドに行ったら嘘吐いてないか調べられるから良いんだよ。その時に分かるから」
そうなのか。
確かに、そういうのが無いと依頼を達成していないのに報酬だけを貰うって事も可能か。
魔物の一部が必要となっても、誰かから貰うか、既に死んでいる奴から採って来れば済む話だからな。
そう考えながら、また森の中を歩く。
すると突然、有り得ない位の大きさの蜂が6匹出てきた。
「え!?なんだ!?」
「キラービーだね。ここら辺には沢山いるよ。」
「ちょっと多すぎないか!?」
「森だからね。魔物の巣窟だし」
ポイズンリザードっていう毒トカゲも危ないのに、通常の何倍もありそうな大きさの蜂がいっぱい居るって危険すぎだろこの森!
……日本から来た俺が生きて帰れるのか……?
「キラービーには勿体無いけど丁度良い。ちょっと数も多いしね。ここらであたしの実力を披露するとしよう。よーく目に焼き付けておいてくれよ!」
言って、メアナが詠唱をし始める。
「『我が呼びかけに応えよ。来たれ!大地の覇者、ギガントゴーレム』!」
そう言い終わると、メアナの目の前に巨大な茶色い魔法陣が現れる。
そして、その魔法陣から何かが出てきた。
巨大な岩の人形。
まさしくゴーレムであった。