スク水刑事、下駄箱に不要物を入れる人に注意してみたwww
それは、2月下旬のことだった。
小泉千紗は、杉野君宛てのラブレターを持って、杉野君の下駄箱の前に立っていた。
千紗は杉野君が好きである。きっかけは席が隣で、話したら楽しかったからである。
それ以来二人はとても仲良しになった。そして、いつの間にか好きになっていた。
いつか告白しようと思い、友達に早く告白しろと言われ、今週告白しようと決めたが、千紗はいざという時に積極的になれない。友達作るとか、話すとかは積極的になれるが、告白を直接するっていう行為が、彼女を悩ませた。
そこで思いついたのが、手紙を書いて彼に渡し、返事を手紙で返してもらう、というものだった。
このやり方だったら、直接言わなくても想いは伝わると思った。
だが、そうなると直接手紙を渡さなくてはいけない。
だから彼女は、この手紙を下駄箱に入れるという少女漫画的な方法を思いついた。
この方法が、彼女にとって最善だと思ったのだ。
彼女はこのやり方でいくと決めたら、さっそく昨日の夜、2時間もかけて手紙を書き、完成した手紙は、新しいクリアファイルに入れて、今日の放課後まで大切にカバンの中に保管していた。
そして放課後になり、一時間は図書館で本を読み、下駄箱に人の気配がなくなるまで時間を潰した。
一時間経つと、千紗は図書館を出て靴箱に行き、周りに人がいなくなったことが分かると、杉野君の下駄箱へ一直進した。
下駄箱に近づくたびに、千紗の心拍数は上がっていった。
それと同時に、徐々に顔も熱くなる。
やっと杉野君の下駄箱の前に立つと、千紗はカバンからクリアファイルを取り出し、ラブレターを取り出した。
千紗は目を閉じて、深呼吸すると、目をゆっくり開け、杉野君の下駄箱を開けた。
下駄箱を開けると、中に外靴が入っていた。まだ杉野君は帰っていないようだった。
千紗の通っている学校の下駄箱は、縦に開くタイプなため、千紗は左手で下駄箱のふたを持ち、右手にラブレターを持って入れようとした。
千紗の手は震えていた。すぐに入れればいいのに、緊張してなかなか入れられなかった。
すると、右のほうから笛の鋭い音が聞こえ、鼓膜が破けそうなほどの大きい声で「だめー!」という声が聞こえた。
千紗はビクつき、顔を右に向けた。
そこにいたのは、水色の短髪に、スク水を着ており、首にホイッスルをかけて、赤いランドセルを背負って誘導棒を持っている男の子だった。
千紗は愕然とし、事態が読み込めなかった。あと、そんな恰好で寒くないのかなとも思った。
そんなびっくりしている千紗を気にする様子もなく、スク水少年は千紗にどんどん近づいた。
「あんたね!下駄箱は靴を入れるためにあるの!下駄箱に靴以外のモノを入れるんじゃないわよ!」
とスク水少年は誘導棒を振りながら、なぜかオネエみたいなしゃべり方をしていた。
「そ、その前に、あなた、誰なんですか!?」
千紗は動揺しながらも、やっとの思いで言い始めた。
「私?私はスク水刑事!私はこの学校の治安を守るために生まれてきた大天使!最近、下駄箱に余計なものを入れる輩が増えてきているから、取り締まっているのよ!」
スク水刑事は、ひどく大きな声をだして言った。
千紗は、驚きのあまり呆然とした。
千紗は、このスク水刑事と名乗る男の言っている意味が分からなかったし、この男はいったい何がしたいのだろうと思った。
スク水刑事はさっきより声の音量を下げて話しを続けた。
「先週バレンタインあったでしょ?それを狙って、下駄箱にチョコやらお菓子やら入れるキチガイがたくさんいるの!困っちゃうわよね~、回収するの大変だったんだから!」
「その回収したお菓子はどうしたんですか?」
「私が美味しく頂いたわ!」
千紗は言葉も出なかった。
スク水刑事は、誘導棒で千紗が持っているラブレターを指した。
「これ何?」
「こ、これは、その…」
千紗は恥ずかしくて、ラブレターを隠そうとしたが、
「見せなさい!」
とスク水刑事に無理やり取り上げられた。
「手紙?」
スク水刑事はラブレターを表裏見て、封筒の裏に名前が書いてあるのを見つけた。
「杉野?」
「あー!言わないでください…」
「なんでポストに入れないのよ」
「いや、住所分かんないんで…」
「だから下駄箱に入れようとしたの?」
スク水刑事は断りなく封筒を開け、手紙を取り出した。
それを見た千紗は恥ずかしくなりながらも、自分勝手なスク水刑事にイライラしていた。
そんな千紗の感情に気づくことなく、スク水刑事は、手紙を読んで、これがラブレターだと理解した。
千紗の怒りは頂点に達していた。
「あの、もういい加減に…」
「あんたね!もう一回言うけど!下駄箱は靴を入れるものであって、ましてやラブレターを入れるところじゃないの!」
千紗は思わず息をのんだ。
「こんなの、手紙に書かなくったいいのよ!直接言いなさい!直接!想いは直接言うほうが届きやすいんだから!」
スク水刑事は、一気にそういうと、ランドセルからシュレッダーを取り出して、手紙を細断した。
千紗は、せっかく2時間もかけて書いた手紙をシュレッダーにかけられて、少し悲しくなった。
「いい?もうこんなことするんじゃないわよ」
スク水刑事はそう言うと、どこかに行ってしまった。
千紗は呆気にとられた。また、手紙がなくなった今、どうすればいいのか悩んでいた。
千紗はカバンを肩にかけたままに気づき、肩がひどく凝っていた。
千紗は少しため息をつき、肩を抑えながら、千紗は自分の下駄箱に向かった。
自分の下駄箱に近づくと、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。
さらにまた近づくと、スク水刑事が、千紗の下駄箱の前で、誰かと話していた。
よく見ると、スク水刑事が話していた人物は、なんと杉野君だった。
千紗は驚いて、思わず「杉野君!」と叫んでいた。
千紗の声に反応した二人は、振り向いて千紗がいることに気づきはっとした。
スク水刑事は、千紗と杉野君を交互に見て、この二人の関係をなんとなく把握した。
「何で杉野君ここに?」
千紗は二人に近づきながらそう言った。
「その、実は…」
杉野君は顔を赤くし、目を斜め下に向け、頭を掻いた。
スク水刑事は、そんな杉野君を見て、すこし苛立った。
またさらに、千紗も無言で、下を向いていたので、スク水刑事は居ても立っても居られず、ふたりに誘導棒を挿した。
「もう、ほら、ふたりともお互いに言いたいことがあるんでしょ!?はやく言いなさい!」
スク水刑事にそう言われ、お互い目を合わせる。
千紗は、さっきスク水刑事に言われたことを思い出し、やきもきしながらも、口を開いた。
「わたし、杉野君が好き!よかったら、こんな私と付き合ってください!」
千紗がそう言い終えると、杉野君も口を開き、
「俺も、小泉が好きだ。こんな俺でよければ、お願いします」
千紗は、杉野君からその言葉を聞き、嬉しくなって、涙をこぼした。
二人はお互い見つめ合い、笑った。
お互い見つめ合い、動かない二人を見て、スク水刑事はそっと場から離れた。
スク水刑事は、二人が見えないところに来ると、少し鼻で笑い、中指を立てて、「リア充死ね」とつぶやいた。