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夢の中で  作者: 和上 奏
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黒猫 エピローグ

「っていう夢を昔見たな...」


今日は成人式だった。

昔引っ越したともやが、成人式に出席する為に久しぶりに帰って来た。


たまにメールはしていたが、ともやから帰るなんて話は一切聞いていなかったので、俺は驚いて腰を抜かしてしまった。

ともやに言ったら、「そりゃ誰にも言ってなかったから。」と返された。

今は昔同じ小学校だった同級生と一緒に飲んでいる最中だ。


あの時、ともやが引っ越してしまった影響で、俺の小学校の生徒数は30人以下になってしまった。

近くに別の小学校があったこと、大企業が近くに工場を作る計画があったことから、俺たちの小学校は閉鎖され、合併されることになった。

最初は反発もあったらしいが、お金で丸め込まれてしまった。

まあ田舎町だったので仕方がない、と今は思う。

しかし、その大企業のおかげで人が増え、そこそこ俺らの町が潤ったのも事実だった。


ともやが引っ越した後、町は大きく変わってしまったが、ともやが全然変わっていなくて嬉しいと言ったら、俺も、と返された。


「それで、その夢のおかげで俺に最後に会いに来たってこと?」


話題はともやが引っ越したあの日だ。


あの日、ともやは学校から帰ったらすぐに海外へ行く予定だったという。

しかし、航空チケットが取れていないことが判明し、次の日の早朝になった。


最後の時間を使って俺に手紙を書いたそうだが、俺に直接渡して話が出来なかったことを悔やんでいた時に、あの出来事だ。


ともやは、何か運命的ものを感じた、と冗談めいて言った。


「おかげで、っていうか、背中を押されたって感じかな。」


起きた直後はあまり思い出せなかった夢の内容も、時間が経つごとにじわじわと思い出していき、今は細かいことは微妙だが、大まかなことは言える。


「へえ。黒猫ね...」


「昔いたトラキチに似てたよ。」


「面白い夢だな、って言いたいけど、俺も同じような夢を見たことがあるからな...」


「そうなの?どんな夢?」


「今は言わない。」


「なんでだよー教えろよー」


俺はともやの肩を掴んで揺さぶる。

ともやは笑った。


ともやは少しだけ残ったビールを飲み干して、目の前にある枝豆を一粒ずつ皿に出しながら、なんでもないように言った。


「そういえば、俺さ、向こうの大学を卒業したら日本に戻るつもりなんだ。」


「え、本当?」


「ああ。だから、次また会う時に教えてやるよ。」


俺はともやが取り出した枝豆をつまみ食いながら、笑った。


「そっか。前みたいに遊べるんだな。」


ともやは気にせず枝豆を取り出し続ける。


「ああ。遊べなかったぶんたくさん遊ぼうぜ。」


ともやは言い終わると、俺の皿にあった唐揚げを食べた。


「あ!俺の唐揚げ!」


「トモが残してるのが悪いんだろ。」


「くっそー。」


枝豆と唐揚げの攻防を繰り広げた後、学生時代の話など 、少し他愛もない話をした。


だいぶ酔いが回ってきた頃、ともやが言った。


「そういえば昔本で、夢に住む生き物について読んだんだ。」


「夢に住む生き物?

夢でも喰うのか?」


俺は笑いながら答える。

そんな俺とは裏腹に、ともやは少しだけ真剣だった。


「まあ、そういうのもいるらしいけど、夢に住むだけの生き物もいるらしい。」


「へー。お伽話みたいだな。」


「多くの人は夢の内容を忘れてしまうから、そういった体験記は少ないんだ。

トモさ、書いてみたら?」


突然のことには俺は飲んでいた酒を噴き出した。


「え、俺?なんで?絶対馬鹿にされて終わっちゃうだろ。」


「そうかな?全員ってわけじゃないけど、興味を持つ人は少なからずいると思うよ。」


「誰だよ。」


俺が笑っていると、ともやが少し真剣な顔でこちらを見た。


「俺。少なくとも俺は興味を持った。」


ともやの真剣な声のトーンに若干驚いた。


「俺実はさ、大学でそういう勉強してるんだ。

夢について。

俺を助けると思って協力してくれないか?」


ともやが真っ直ぐこちらを見て聞いてくる。


俺は断ろうかと思ったが、あの時聞いた猫の鳴き声が俺に頭に響いた。

前へ進め、っていうのか。


「あー。わかったよ。

ともやに協力する。」


俺は頭を掻きながら答えた。

ともやは目を輝かせて、俺の手をとった。


「ありがとう!トモ!」


ともやの今後の話を聞きながら、またあの時の黒猫に背中を押されてしまったな、と笑った。


夢を全部思い出して、俺は気づいたことがある。

あの夢の中の猫がトラキチではなかったということだ。


トラキチは優しい猫で、俺によく懐いていた。

夢の中の猫は俺に対して無愛想だった。

色々と考えることはあるが、2匹とも俺に対して良くしてくれたのは確かだ。


特に、夢の黒猫が押してくれなかったら、今の会話はきっとない。


俺はともやを見て笑った。


「どうした?トモ。」


「いや、あの猫のおかげだなって思って。」


「何が?」


「色々!」


俺は笑いながら、少し困り顔のともやの肩をどついた。

黒猫の話はこれで終わりです。

ありがとうございました。

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