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深まりの予兆(Azusa -4)

いま、この春から借りたワンルームマンションで、こっそりとワインを飲んでいる。


未成年だけど、飲酒の制限年齢の低い海外で、私はたびたびお酒を嗜んでいたから、少しのアルコールがなければどうも寝つきが悪いのだ。


昼間に電車に揺られながら、和田君のことを思い出していたら、妙に懐かしくなった。


おまけに少し、今更なのだが、非日常的な期待に踊る胸の鼓動を覚えた。ボトルを傾けて、もう一度ワインをついだ。


今夜は多めに飲み、酔いたい気分だ。


幼いままの和田君の姿が脳裏に浮かび始めた。






体育祭の当日まで十回程度、ダンスの練習があって、その間にできる限りのあらゆる「接触」を、私たちは試みた。


手や手のひらを使うことは少なく、ましてや愛撫するようなことはなかった。


たいていの場合は体の一部分が、例えば腕やお尻や太ももや背中が、そっと触れ合う程度だった。


体育の授業の中で秘密裏に行うのにはそれが精いっぱいだったから。


しかし秋晴れの空の下の、ただっぴろい校庭で、芝生の匂いを嗅ぎながらの禁じられた「その行為」


は、それが私のピンク色の原風景となっている点を除いても、大学生の私が今まで経験した多くの


「交わり」のどれよりも、非現実的で白昼夢みたいな官能を含んでいた。


先生と他の生徒も私たちの関係に少し感づいたようだった。


和田君は男子からからかわれ、私が教室に戻った瞬間に和田君とその周りが静かになり、そのあとクスクス笑いが聞こえるということがたびたびあった。


彼はまんざらでもないようで、むしろからかわれて皆の注目の的になることが嬉しいようだった。


私の方は、女子から和田君の話題を振られることはなかった。


それは私が、世にいうところの女子の「カースト」の中で頂点にいたからだと思う。


だけど私は横暴だとか目立ちたがり屋とかではなく、極めて民主主義的な満場一致で選ばれた女王だった。


容姿や成績やコミュニケーション能力や家柄、すべてにおいて私は優れていたから、私以外を女王として立てるほうがクラスの余計な混乱を招くのだった。


もちろん自慢ではない。取り立てて自慢するようなことでもないから。


そして先生たちは、恐らく私たちが相思相愛の、つまり両想いの関係にあると考えていたのだろう


だけどそれは子供の純粋な好意であり、まさか私たちが熟れすぎた果実のような欲望を持っていたとは、考えもしなかっただろう。




そして当日。


課題曲である子供向けアニメの能天気なテーマ曲が、音割れスピーカーで会場全体に鳴り響いていた。


大勢の保護者と生徒が観客席に並び、沢山のビデオカメラとカメラが回っていた。


そんな中で私と和田君は、目くばせをし、互いに微笑みかけ、いつものように公然の猥褻行為を共同で働いた。


ダンスを踊り終わった私たちの呼吸は乱れ、まったく同じタイミングで横隔膜を上下させていた。







私は彼の、紅潮した頬を見た。そしてキスをしたいと思った。私も同じ頬をしていたと思う。


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