the first time I identify her (Koushi -3)
一位、柚木梓 九〇〇点
そこで俺は驚愕した。
ありえないと思った。
全科目満点なんてアニメとかマンガの中の話だと思っていたのに、ありえてしまったのだ。
動けなかった。
本当なのか?
掲示の端の方には確かに、
「中間試験、十科目、国語・数学・歴史・地理・公民・英語・理科A・理科B・家庭科・保健体育に加え、別途レポートを含む、九〇〇満点。十月九日より十二日まで実施。 生徒部より」
と記載してあった。
俺はその小さい記載を紙はおろか掲示板に穴が開くほど何度も読み返した。
そして一位の奴の名前を口の中だけで何度も唱えた。
ゆいきあずさゆいきあずさ。
女には違いないな。
「ゆいき」でなくて「ゆずき」と読むのかもしれないな。
ゆずきあずさ。
数人の女子生徒が俺のことを怪訝に見ながら通り過ぎた。
ゆずき、ゆずき、ゆ、ず、き。
いったいどんな奴なんだろう。
後で誰かに聞いてみる必要があるから、よく覚えておこう。
読者のみなさんはここまで読んで、ずいぶん嫌気がさしただろうが、当時の俺はいわゆる「学歴厨」だったのだ。
中学生にして学歴厨とはずいぶんませてる(?)とは思うが、自分は絶対に国立医学部か、さもなくば東大、あるいはハーバードあたりに進学するものとして絶対に疑わなかった。
でもこのときは、低学歴や中くらいの学歴の人間を見下しているわけではなかった。
(先取りしていっておくと、高校、大学へと進むうちに俺の「学歴による偏見」は強くなる。
それが「学歴コンプレックス」となって俺を苦しめるということについては、のちに記す。)
俺はいままでのどの学校でも俺より勉強ができるやつに会ったことがなかった。
そして成績は俺の絶対的自信の土台となっていた。
アイデンティティのよりどころだった。
つまり、俺が勉強熱心なのは、真面目だからではなく、プライドを維持したいがためだったのだ。
だから、立ち尽くす俺には「こいつに勝つかあるいは満点で同率一位でなければ」という強迫観念しかなかった。
以上が俺が梓に、愛でなく、嫉妬と恐怖の感情を、初めて抱いた日の思い出だ。