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竜に飼われる永遠は  作者: 花見 もみじ
第一部 二
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屋台

 甘く、そして香ばしいにおいが、ツィオーネの町に漂っていた。


「大市通り」から一本外れた通りは、行商人や商船の荷揚げ人足、飯をつくる暇もない職人たちを当てにした屋台が立ち並ぶ。


 屋台を出すのはパン職人や肉屋、菓子職人、ビール商人など、飲食産業に関わる多様な職人、商人たちだ。中には行商人が小銭を稼ぐために開いている店もある。

 屋台を出す場所によっても客の入りが違うことから、彼らにも「縄張り」があるのだという。 

 シャムリルたちは彼らを刺激しないよう、少し離れた端の方に屋台を出すことにした。


 使い慣れた調理器具を荷馬車から下ろし、天幕で屋根を張る。

 馬は近くの宿屋に金を払って、馬小屋に置かせてもらった。

 準備が整ったころに、頼んでおいた肉屋から、部位別に切り分けられた肉が届いた。

 屋台商人たちが声を張って売り込みを始める中、シャムリルは静かに調理を始める。


 七輪に火を入れて鉄網を置き、そこに大きめに切った豚肉を竹串に刺して並べていく。

 肉に火が通ったら、特製のタレを刷毛で塗り、もう一度両面に焦げ目が付くくらいに焼く。

 特製のタレは穀醤(こくしょう)だ。

 東部では伝統的な調味料で、大豆と麦、麹、そして塩を原料に発酵、熟成させたものである。

 家庭によって味は全く異なり、そしてシャムリルも両親から教わった造り方からは分量や中身などを大幅に変更している。

 特に塩と水は、あの山で採れた岩塩と湧き水を使用していた。

 それだけでかなり違うのだが、シャムリルは完成したそれに、隠し味として少量の生姜と山椒を加えているのだ。

 ほのかな甘みと複雑な旨味、そこにぴりりと僅かな辛みが合わさって、その上香り高い。

 そんなタレをたっぷりと塗った豚肉は、じうじうと音を立てて焼け、食欲を誘う匂いを放つ。


 道行く人々が一人、また一人と足を止め、誰かが「一本、いや二本買おう」と口にしたのを皮切りに、いつしか屋台の前には行列ができるまでになってしまった。


 ロザリアは小麦粉とライ麦粉を混ぜ合わせ、水を入れた生地を捏ねていく。

 それを平たく伸ばし、油を引いた鉄板で焼けば、皿代わりにもなる無発酵パンのでき上がりだ。

 このパンで肉を挟めば、手を汚さずに食することもできる。フォークやナイフなどを使って食事をする暇もない職人や人足たちが主な客層だと思われたので、こういった形にした。


 そしてモツのスープ――あまり売れないかもしれないと考えて少なめに用意したのだが、こちらは座って物を売る行商人や、他の屋台の人々に大人気だった。

 春先とはいえ、朝はまだ冷え込む。ハーブと山菜を入れた熱々のスープは、体を温めたい彼らに良く売れた。

 

 結果として、「豚一頭はさすがに多すぎたかもしれない」と思っていたシャムリルの懸念は、大きく外れることになった。


 大繁盛だったのである。


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