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プロローグ

 吸い込まれるような暗闇の中、下水道に流れる水の音は止まることなく続いていた。

 その水の音に紛れるかのように足音が鳴り響いていた。絶え間ない足音の間隔から、全力で走り続けていることが察せる。男は今、迫りくる追撃者の魔の手から逃げ続けている。

 男を追う者の社会的な名称は、感脳波犯罪対策一課の捜査官。社会に対して脅威をもたらす存在を、あらゆる手段を用いて一人残らず駆逐していく悪魔のような者達だ。

 男の仲間は、そのほとんどがある一人の捜査官によってなすすべもなく殺され、もはや生き残りはわずかしかいなかった。そして、数少ない生き残りであるこの男も、右腕を斬られて失いまっさらな五体満足とはいかなかった。

 残った片方の手で傷口を抑えつけようとも、止血の役割も、痛みを抑える役割のどちらも果たすことはできず、ただただ掌を真っ赤に染め上げていくだけ。大量の出血は男の逃走速度に著しい悪影響を与えていた。

 

 「くそっ、血が! 血が止まらねぇ!」

 

 男は半狂乱で叫ぶ。このままでは血が尽きて死ぬ。その恐怖から叫ばすにはいられなかった。

 そんな、見るも哀れな者に引導を渡すかのように、無機質な鋼色の銃口から放たれた一筋の青白い閃光が、背後から彼の腹部を一切の迷いなく貫いていった。

 腹部に大きな風穴を空けられた男は、糸の切れた人形のようにその場に倒れこんでいく。大量の血によって、人一人を覆い尽くす程の赤くいびつな円が形成されていく。

 血はすぐ側を流れている水の流れに落ちていき、淀んだ水に僅かな赤色の軌跡を残しては、すぐさまその奔流に掻き消される。肉体は死に限りなく近づき、指一本として動きはしない。

 その惨状を、冷然たる表情で見下ろす一人の人間がいた。左手に握られた機械的なデザインの拳銃は、その銃口に解き放った光の残滓を僅かに輝かせている。

 その様子は、人の魂を地獄へと誘う死神のように見える。右手に握られた赤黒い血に染まる剣はその印象をより強烈にしていく。


 「まだ、死にたくねぇよお……」

 

 男は掠れる声で、もはや叶いもしない願いを口に出す。腕を斬られ、臓器の大半を消し飛ばされた人間が生き残ることなどはない。それでも、最後まで生きようとする人間としての本能は、男を永遠の眠りにつかせることを許さない。

 

 「死にたくない、か。罪人(ゴミ)の分際で何を……」


 執行者は鮮血に染まった矛先を振りかざす。怒りに呼応するように、矛先は赤い輝きを放ち始め、空気を歪ませる程の熱量を放出し始める。

 

 「命乞いなら…地獄で閻魔にでも存分に聞かせていろ」

 

 冷酷な語気と共に、執行者はためらいなくその得物を男の心臓に振り下ろし、肉塊に僅かに宿っていた魂の根を完全に絶つ。

 このような事をしなくても、男はじきに息絶えていただろう。

 それでも、死神は己の手で、魂を息の根を止めるまで満足はしない。いや、数えきれない程の悪人の血でこの絶える事の無い憎しみを覆い尽くすまでは。

 

 



 



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