ハーレム勇者のハーレム要員になってたまるか!
ハーレム勇者のハーレム要員になりたくない子を書きたかっただけなのに、いつものごとく、どうしてこうなった……?
私には前世の記憶がある。
よく頭を打って前世の記憶を取り戻したとか死にそうになって思い出したとか色んなパターンがあるけど、私の場合は五歳の時に空を見ていて突然思い出した。
空にドラゴンが飛んでるなんてファンタジーだよね、って。
そこから別に記憶の奔流に飲まれて高熱出してぶっ倒れるなんて事もなく、日本という国で暮らしていた事は記憶の片隅に追いやって、毎日のほほ~んと暮らしていた。
いや、のほほんは言い過ぎかな。うちは村に一軒しかない宿屋で、近くには聖剣の刺さった洞窟がある観光スポット……じゃない、魔王を亡ぼす事ができる聖剣を祀る聖なる洞窟があって、我こそは勇者だって意気込むカモ……じゃない、お客さんたちが泊まりにきてて、そこそこ宿屋も繁盛していたんで、そのお手伝いで忙しかったのだ。
この世界には魔法があって、私にもそれなりの魔力はあるみたいだったけど、いわゆるチートがあるわけじゃないし、容姿だって赤毛に緑の瞳で、普通よりはちょっと上くらい。村では一番かわいいって言われるけど、王都に出たらその他大勢に埋もれる程度。
前世の記憶があったからか、私はそれで満足していたし、勘違いして高望みをするわけでもなかった。
私は一人娘だったから、いずれはお婿さんを迎えてこの宿屋を継ぐんだろうな~と思っていた。村では私の家が一番お金持ちだったし、男の子たちがあか抜けない子ばっかりなのに目をつぶれば、村で二番目くらいにはモテモテで婿候補は選び放題だったしね。
そんな平凡で堅実な幸せ未来計画が崩れたのは、私が15歳になった時。大体、女の子は16歳で結婚することが多いから、私もそろそろお婿さんを選ばなくちゃいけないなんて思っていたら、それどころじゃない事件が起きた。
なんと幼馴染のアレンが聖剣を抜いてしまったのである。
アレンはうちの宿屋で働いているセレイラさんの息子で、金髪碧眼の凄いイケメンだ。おそらくアレンを見た男はみんな、イケメン滅びろと呪いをかけたくなるだろうと思われる程の美貌の持ち主だ。セレイラさんもこんな大きな息子がいるとは思えないほど綺麗な人だけど、顔立ちはそんなに似ていないから、見た事のないアレンの父親がきっとものすごい美形だったんだろう。
ただ、村では一番弱いのが唯一の欠点だった。いわゆる前世で言う、へたれなイケメンだったのである。
セレイラさんは、私が生まれる二年前に、大きくなったお腹をかかえてうちのお母さんを頼ってこの村にやって来た人で、その立ち居振る舞いから貴族のお嬢様だったんだろうと言われている。多分、箱入り娘のお嬢様が悪い男に騙されて、子供ができたから家を追い出されたんじゃないかというのが、村のおばさま方の推測だ。
セレイラさんが何も言わないので本当のところは誰にも分からないけれど。
そんなセレイラさんは、最初は何もできないお姫様だったが、今では村での生活にも慣れて、宿屋のお手伝いもしてくれていて本当に助かっている。
アレンもセレイラさんと一緒に宿屋を手伝ってくれていたから、まあ、16歳の誕生日にはアレンと結婚して婿に来てもらうのが一番かな、と思っていた。私にとってアレンは生まれた時から一緒にいる幼馴染で子分で、特別な感情はなかったけど、宿屋の仕事を一から教えなくてもいいから楽だったしね。
そんな人生設計が見事に砕け散ったのは、私より三カ月早いアレンの誕生日の日だ。
聖剣を祀る洞窟を守る使命を持つこの村の若者は、男でも女でも必ず16歳の誕生日に聖剣が抜けるかどうかを試す風習がある。もちろん今まで一度も抜けた事がないんだけど、アレンが聖剣に手をかけた瞬間、眩い光が洞窟内を埋め尽くして、その光が収まった後には、誰も抜いた事のない剣を手にして呆然としているアレンがいた、という訳である。
それからは色々な事が訳も分からないうちに決まっていった。
アレンは魔王を倒す勇者として王宮に招かれ、そこで魔王討伐隊が編成される事になったのだ。
メンバーは勇者であるアレンを筆頭に、聖女の称号を持つ第六王女、公爵家の次女の騎士、エルフの女弓使い、ダークエルフの女アサシン、ロリ巨乳のどじっこ魔女。そしてなぜか私である。
いや、なんで私?
私関係ないよね?
そう抗議したのに、アレンの馬鹿が私が同行しないと魔王討伐になんて行かないとダダをこねて、結局それに押し切られてしまった形だ。
でも魔王討伐への道は、ものすごおおおおおおおおおおおく居心地が悪かった。
なぜか。
それはへたれとはいえ、アレンが超絶イケメンだったからである。
王都でアレンと初めて対面した第六王女様はもちろん一目ぼれをして、既に魔王討伐の暁にはアレンに降嫁するという確約まで王様からもらっているという用意周到さである。
もちろん他のメンバーも軒並みアレンにハートを撃ち抜かれたらしい。
あなたには剣より美しい花が似合うと言われて、コロっと落ちた男勝りの公爵令嬢とか。
アレンのへたれなところが母性本能をくすぐられるとかで惚れこんだ、アレンより相当年上のエルフのお姉さまとか。
魔族に近いダークエルフとして差別されていたのに、他の人と同じように接してくれてほだされたアサシンとか。
へたれすぎて女の人を正視できないだけなのに、胸をジロジロ見ない男の人なんて初めてだと感激しちゃった魔女さんとか。
そうしてできあがったアレンのハーレムの中で、私だけが奴に惚れていなかった。
いや、むしろ、アレンの方が私にくっついてきた。子分として。
本来アレンをめぐるライバルである彼女たちは、私という共通の敵を得て一致団結した。
正直、いい迷惑である。
毎日毎日、なんであんたがこの旅についてくるんだ、お邪魔虫と言われ続ける旅の、どこが楽しいのか教えて欲しい。切実に。
しかも途中で魔族が襲ってくるのだ。
私は魔王討伐隊のおまけだから後ろで隠れてる事が多いんだけど、最近ハーレムさんたちが「勇者様の幼馴染さん、うっかり魔族さんに殺されちゃった。てへぺろ」を狙っているのか、こっちに向かってくる魔族が増えてきたのである。
いやもう勘弁してよ。16歳になったばっかりの若い身空で、しかもこんな村から離れたところで魔族なんかに殺されたくないわよ。その16歳の誕生日だって、旅の途中でろくに祝ってもらえてないっていうのにさ。
「あああああああああああああああ!もう、あったまきた!」
向かってくる魔族にウェスタンラリアートをかます。魔族がぐえっとか言ったような気もするけど、気にしない。
そしてそのままふりかぶってー。飛んでけバカヤロー!
「オールスタン!風のドーム発動!」
私以外の全員をスタンで動けなくさせてから、襲ってきた魔族を掴んで風のドームの中に放り投げる。あ、さっきの魔族もドーム作ってから投げればよかった。
そしてバカ勇者と迷惑ハーレムも……くっ。こいつらも飛ばしたいけど、やっぱダメかな。魔王の封印って聖剣じゃないとダメだしなぁ。今のところ、アレンしか聖剣使えるやつっていないし、我慢するしかないか。
「酸素充填、水素充填。ヘルファイアーGO!」
風のドームの中で、業火の炎が魔族たちを焼き尽くす。なんかドームの中で悲鳴が上がってるような気もするけど、聞こえない聞こえない。
「アレン、もう限界だからね!私、村に帰る!」
「チェ、チェルシー待ってくれよ。一緒にきてくれるって言ってくれたじゃないか」
情けない声を出すアレンに指をつきつける。
「言ったけど、もう限界!なんで私がこんな嫌な思いしなくちゃいけないの!大体あんたが皆にいい顔するのがいけないんでしょ。何よこの女タラシ!」
「チェルシー、もしかして妬いてくれ―――」
「る、訳ないでしょ!このヘタレ!大体、私より弱い男になんて惚れるわけないじゃない!」
何、顔を赤くしてんのよ、気持ち悪い。
あー。子分だから面倒見ようと思ってここまで付き合ったけど、ほんともう限界。なんで味方のはずのパーティーメンバーから、偶然装って殺されそうになんなきゃいけないのよ。
「あんたにはビッチか男女か年増か根暗かおっぱい星人がお似合いよ。いや、全部まとめて面倒みちゃえばいいんじゃない?なんといっても勇者様だし。あ、違うか。アレンの場合は養ってもらう、だったわね。その顔さえあれば、立派なヒモとしてやっていけるわよ」
「だ……誰がビッチですの!?」
「おとこ……おんな、だと……」
「キーッ。年増じゃないわよ!エルフは寿命が長いのよ!」
「ネクラ……ネクラって……」
「おっぱいだけじゃ、ないですぅ。しくしく」
はっ。鼻で笑っちゃうわね。自分の事もちゃんと分かってないなんてね。
「ねえ、第六王女。あんたが毎晩アレンの部屋に夜這いかけてんの知ってるのよ。ビッチじゃないなら何て言うのよ。っていうか王女がそんな尻軽でいいの?まあどうせ第六王女なんて捨て駒にしかなれないから、既成事実でも作って勇者をこの国に引き留めろとか言われたんだろうけど。聖女って言っても、神代の魔法も使えないなんちゃって聖女でしょ。うちの村の教会のシスターのほうが確実に能力は上だわ。神の鉄槌、使えるもの」
なんで私が第六王女の夜這いを知ってるかっていうと、毎回毎回ヘタレ勇者が泣きついてくるんで匿ってあげてたからだ。勇者なんだから結界くらいちゃんと張ればいいのに、いっつも破られるらしい。ヘタレすぎて呆れる。私の結界は一度も破られたことないんだから、張り方が甘いんだよね。
ていうか、毎晩騒いで私のベッドにもぐりこんでくるとか、睡眠妨害しまくりで許せない。隈ができて取れなくなったらどうするのよ。
神の鉄槌っていうのは、神代の魔法の最上級魔法で、空から大きなハンマーが出てきて叩かれるという非常に痛い魔法である。うちの村ではいたずらをした子は必ず一度はこの魔法のお世話になっている。防御魔法をちゃんと張れないと、多分、一瞬でペチャンコになる。
「それにそこの女騎士も、公爵令嬢なんだからお嬢様っぽくしてればいいじゃない。なんでわざわざ騎士になる必要があるのよ。大体、男と女じゃ体の作りが違うんだから同じように戦えるわけないじゃない。それなのに男と同じように思えってバカじゃないの?どーせだったら女でしかできない戦い方でもすればいいのに、力任せで、しかもその剣技も魔族に全然適わないじゃない。口だけなのよ、あんたは。村のゼシカばあちゃんのほうが100倍強いわ」
ゼシカばあちゃんうちのは村で一番強い。もう100歳になるんだけど、いまだにあの村最強の称号を持っている。だって村を襲ってきた魔族の一人くらい、あっという間に倒しちゃうんだよ?この間はドラゴンまで素手で倒してた。しつけだとか言って。もしかしてゼシカばあちゃんって、人間やめてんじゃないんだろうかと思う時がたまに……いや、いつも疑問に思ってる。
「それとそこのエルフ。あんたアレンと年の差がいくつだと思ってるの?それにアレンより長生きするんでしょ?アレンがヨボヨボのじーさんになって寝たきりになってもちゃんと面倒見るんでしょうね!?やっぱり若い子がいいわとかいってアレンを捨てるなら許さないわよ。拾ったものは最後までちゃんと面倒を見るのが当たり前でしょう」
うちの村でも、たまに誰かがドラゴンだとかケルベロスを拾ってくるんだけど、ちゃんとみんな最後まで面倒みてるわよ。さすがにドラゴンは飼い主より長生きするから、飼い主が死んだらどこでも好きな所に行きなさいって言ってるけど、なぜか皆村の裏山に住み着くのよね。たまに縄張り争いで違う個体がくるんだけど、村に迷惑かけない限りはそのまま勝手にやらせてる。もし村に被害が出そうならゼシカばあちゃんが教育的指導をするから、何も問題ないしね。
「あとダークエルフも、アサシンなんて職業やってるから暗くなるのよ。アサシンなんて言葉は綺麗だけど暗殺者でしょ?そりゃ恨みつらみをいっぱい被って呪われるわね。それが嫌だったら違う仕事につけばいいじゃない。何もアサシンなんてやらなくても普通の冒険者やればいいじゃない。ダークエルフだから差別されてる?はっ。差別されてるって言ったって、仕事にもつけるしこうやってパーティーにも入れるじゃない。生き返りよりはマシでしょ」
うちの村の生き返り……つまりゾンビのトーマスさんなんて、体が腐ってるもんだから、普通の仕事には絶対につけない。仕方ないから、うちの村の清掃員をしてもらってる。しかも皆が寝静まった夜にね。まるで前世のネズミーなランドの従業員のようでしょ。可哀想に、せっかく道を綺麗にしてもトーマスさんが歩いた後に腐った肉がボトボト落ちちゃうもんだから、ちっとも綺麗になったように見えないのが問題なのよね。
まあ朝になれば鳥がその肉食べるんだけど、今度は鳥のフンが落ちちゃうから、結局あんまり綺麗にならない悪循環。
それでもトーマスさんはいい人だから、皆掃除を頼んでるんだけどねぇ。
「そこの魔女も、そんな子供みたいな顔で胸が大きいなんて最高じゃない。なんでそれを全面に出さないでそんなだぼっとした服着てるのよ。そんなださくて前髪も長くしてたら、誰からも声かけられるわけないじゃないの。それで、服脱いだら凄いんですって、ギャップ狙ってるの?笑っちゃうわね。女はね、体じゃなくて頭で男を手玉に取るのよ。それができて一流の女だわ」
実際、うちの村で一番モテる三軒隣のヒルダねーさんは、絶世の美女というタイプではない。だけど相手の男の好みを掴むのが超絶うまいのだ。だから男たちはいつの間にかヒルダねーさんにメロメロになる。
でもそんなヒルダねーさんの好きな人はゾンビのトーマスさんだ。道端に落ちていた目玉を拾って家に届けてあげた時に一目ぼれをしたらしい。意味が分からない。どんな男でもよりどりみどりなのに、ヒルダねーさんの好みって人外だったのか。
確か第六王女の兄が五人と弟二人も、それぞれ聖剣抜きにチャレンジした時にヒルダねーさんに惚れこんでプロポーズして撃沈してたっけ。今思えば断って良かったよね。もし受けてたら、ビッチが義妹だもん。
あ、王女の兄弟が多いのは今の国王が側室をいっぱい抱えてるから。確か十人以上はいたはず。もう王様が側室を迎えたとか聞いても、へーまたか~で流されるから、正確な人数を覚えてる人が少ないんだよね。
そう考えるとビッチのアレは遺伝か。じゃあ仕方ないのかな。
「とにかく、私はもう村に帰るからね。あんたたちで十分魔王は倒せるだろうからいいでしょ。じゃあね」
私はアレンたちの返事も聞かず、空間を裂いてその向こうの空間をつなげた。
うん。村は今日も平和みたい。
「あ、待って。チェルシー!」
へたれアレンの呼び止める声もさくっと無視して、私は空間移動で村に戻った。でもいつもみたいに、村の中を歩く冒険者さんたちの姿が少ない。
あ、そうか。もう聖剣が抜かれちゃったから、それ目当てにこの村に来る人がいなくなっちゃったんだー!
え、じゃあ宿屋もこれから閑古鳥?
そんなぁ。
あ、でも、聖剣のあった村とか、勇者の生まれた村とかで村起こしはできないかな。
……うん。無理だ。そういう観光の発想がこの世界にはない。
参ったなぁ。これからの人生設計をまた一から立て直さないとダメだ。
あ~あ。アレンが聖剣なんて抜かなければ良かったのになぁ。そしたらまだまだ宿屋も繁盛できたのに。
「チェルシー!」
うへぇ。気のせいかアレンの声の幻聴まで聞こえてきた。と思ったら手首を掴まれた。あ、本物だ。
「空間移動できるようになったの!?あんなに練習してもダメだったのに」
村の同い年で空間移動ができないのはアレンだけだったから、気になってたのよ。でもこれで一人前になれたね。
「チェルシー。僕は君がいないとダメなんだ。一緒に来てくれ」
「はあ?冗談じゃないわよ。ハーレム勇者のハーレム要員なんてお断りだわ」
「ハーレムなんて……君がいるのに、そんな事する訳ないじゃないか。だって僕は君が……」
「えー。でも実際そうなってるじゃない。私、誠実じゃない人って嫌いなの。それより大変よ、アレン。あんたが聖剣抜いちゃったから、この村の収入は激減よ。どうにかしなくちゃ」
「あ、だったら聖剣戻してこようか?」
「もう抜いたのバレてるから意味ないでしょ!」
アレンのキンキラの頭を思いっきり叩く。まったく、出来のいいのは外側だけね。この綺麗な頭に脳味噌はつまってないのかも。
「まあいいわ。とにかくあんたは戻ってさっさと魔王を倒してきなさい。話はそれからよ」
「だからチェルシーも一緒に―――」
「しつこい!」
「でも、僕一人で魔王を倒すなんて無理だよ。村で一番弱いのに」
「その為に仲間がいるんでしょうが、ハーレムっていう名前の仲間が」
「だけど皆で協力なんてあのメンバーじゃ無理だよ。それにいつ襲われるか……」
「結界張るの、がんばってね」
「だ……だったら魔王を無事に倒したら、報奨金もらえるように王様にお願いするから……」
なぬ。報奨ですと!?
むう……それは、ちょっと魅力的かな……
「いくらくらい、もらえるかな」
「たくさんもらえるようにお願いするよ!」
う~ん。いや、でもなぁ。あの女の戦いの中に巻き込まれるのも迷惑だしなぁ。
アレンの事が好きならともかく、何とも思ってないし。
「だ……だったらさ。二人で倒しに行けばいいんじゃないかな」
「二人で?」
「うん。だってチェルシーだけでも、あの人たちより強いよね?」
「まあ、ねぇ」
っていうか、私そんなチートじゃないよ?村でも、もっと強い人はいっぱいいるし。あの人たちが弱いだけじゃないかな。
ほら、RPGとかでも旅に出る時はみんなレベル1からだし。戦っていくうちに強くなるんじゃない?多分。
「だったら二人で魔王を倒して、褒美も二人でもらえばいいんだよ!」
「ん~。それなら、なんとか我慢できるかなぁ」
考えていると、父さんが道を通りかかった。あれ、なんでハルバードなんて担いでるの?
「父さん!?」
「おお、チェルシーとアレンか、もう魔王は倒したのかい?」
「まだよ。途中で抜け出してきたの。それより、父さんその恰好は何?」
「いや、聖剣が抜けたらお客さんが来なくなってなぁ。仕方ないから冒険者にでもなろうかと思ってギルドに登録したら、すぐにBランクになっちゃってなぁ。わっはっは」
え?ギルドランクってそんなにすぐ上がるものだっけ。
「いや、ギルドに登録に行く途中でワイバーンの群れに襲われてなぁ。腕試しに倒してたら、ちょうど近くに隣町のギルドの職員がいてBランクに推薦してくれたんだよ。ラッキーだったなぁ。わっはっは」
いや、そんなビール腹をそらして笑わなくていいってば。
でも、ワイーバンの群れを全滅させたくらいでBランクになるなんて、この世界の冒険者ってそんなに弱いのかしら。
「うちの宿屋にギルドの出張所を置くかもしれないから、まあ、うちの事は気にしないでチェルシーが好きな事をしていいぞ。それじゃわしはこれから母さんにワイバーンの肉を渡してくるからな。あ、魔王を倒しに行くなら、一カ月後の母さんの誕生日までには帰ってくるんだぞ」
そういえばもうすぐ母さんの誕生日だった。しまった。誕生日プレゼント買うの忘れてた!
「アレン。やっぱり二人で魔王を倒して報奨をがっぽりもらいましょう!そして母さんの誕生日プレゼントを買うのよ!」
「うん!分かったよ、チェルシー」
「さあ、そうと決まったらさっさと倒しに行くわよ。母さんの誕生日までには戻ってこなくちゃ」
「うん。一緒にがんばろうね!」
よし、そうと決まったら出発よ!
めざせ!ざっくざくの金貨!
魔王よ、待ってなさい!
村ごとチートだったという話です。
どうしてこうなった……