89 ザ・ハーク師父
ようやく見えた光明。
俺たちは吹雪の中を走り、目的地を目指していた。
「北西エリアの3番目の高い塔、その四階中央の扉だ」
「ハワードさんが協力してくれるとは思わなかったわ」
「俺もだパレア」
目的の塔はすぐに見つかった。
魔法対策もしてある扉で封じられているが、
「アンロック」
爺ちゃんの解錠の魔法の前には無力だ。
扉を開き、中へと進む。
「不信得者め!」
物陰に息を潜めていた二人の教団員が飛びかかってきた。
ほとんど一発にしか聞こえないの銃声が二回。
額に二発の風穴が空き、二人の教団員は倒れていた。
「ザ・バーヌー師父!?」
倒れていた一人を見てナヴィが叫んだ。
「知っているのか?」
「はい、私の育ての親であるザ・ハーク師父と同じ集落にいた師父です」
倒れている教団員は師父を表すらしいチョーカーをしていた。
「ザ・バーヌ師父がいるということは」
「そうだ、私もいる」
奥から声がした。
かつかつと足音が近づいてきた。
吹雪によって太陽の光が閉ざされ暗くなっている廊下を、長身のシルエットが揺れていた。
「ザ・ハーク師父……!」
「ナヴァ・ザ・ハーク。我が名を継ぎしお前が教団に弓を引くとは」
「ナヴィ……お前の師か」
現れたのは髪の毛が白くなり、深いシワが顔に刻まれ、老境に差し掛かった男だった。だが、その体躯は今だ屈強な力の大半を残しており、足は丸太のように太く、腕は岩のように盛り上がり分厚かった。
育ての親だろうが、今は戦うしか無い。
俺は銃を構えようとするが……。
「師父、戦竜教団はアーリマンの意思から外れ暴走しています。アーリマンへの忠誠があるのなら、爪を引くべきです」
「問答無用」
「師父!」
「ナヴィ! 時間がない、悪いが下がっていてくれ!」
嵐竜の覚醒がいつ始まるのか分からない以上、もう一刻の猶予もない。ナヴィには悪いがここは押し通るしか……。
「いえ、ここは私が立ち向かうべき戦いです。ご主人様達は先に進んでください」
「ナヴィ!?」
「ザ・ハーク師父は私の育ての親です、彼の戦い方は私が一番良くわかっています。バロウズ様が戦えば自分の命すら捨て石にして時間稼ぎに徹するでしょう。仲間が集まりさえすれば大師父の所へ到着するのが難しくなりますから」
「……分かった、ここは任せる」
俺はナヴィに近づき、肩を叩いてそう言った。
「……ありがとうございます」
ナヴィは自然な柔らかい笑みを浮かべた。本当にいい笑顔を浮かべるようになった。
「ナヴィ! 私達で一緒に母さま達に会いに行く約束があるの忘れないでよ」
不安そうな表情を振り払い、パレアもそう言って笑った。
突き出されたパレアの手をナヴィがパチンと小気味良い音を立ててタッチした。
「ええ、忘れていませんよ。一緒に会いに行きましょう」
俺たちが走りだしたのを防ごうとザ・ハーク師父が立ちふさがる。
「スパーク・バレット!」
電撃を帯びた銃弾を師父に浴びせるが、右手から飛び出た爪が揺れたかと思うと、弾丸が弾かれた。
「弾丸を斬り弾くなんて本当にできるんだな」
「みんな、目を塞いで!」
リアがフラスコを一つ地面に叩きつけた。
激しい閃光が生じ、師父が一瞬たじろいだ。
ガキンと鈍い音が響く。
「ナヴァ! どけ!!」
「行ってください!」
ナヴァとザ・ハーク師父の爪が交差し、ガリガリと音を立てて鍔迫り合いを行っている。
どちらとも一瞬でも気を抜けば即座に必殺の一撃を加えられる。必殺の気迫を込めた、見ている方が緊張で焼けつくような戦いだ。
だが応援している暇は無い、俺たちはナヴィを信じ、後ろを振り返ることなく廊下を進んでいった。




