表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/96

8 魔法使いたちの愉しみ

 今日で十三歳になった。十五歳になったら家を出るつもりだ、今はそのために準備をしている。

 この国では十五歳で成人扱い、元貴族の庶民というのもそう珍しくない。継承権の無い男子は、自分を受け入れてくれる男子の居ない貴族の家を探すか、騎士として仕官し腕一本で成り上がることを目指すヤツも多いのだった。


「で、バズはどうするんじゃ?」


 爺ちゃんと俺は鹿鍋を囲みながら会話している。


「うーん、まずはお金を集めたら色々なところを旅して回りたいかな」

「旅か、旅はいいぞ、民族には民族ごとの魔法がある、西のアスカロン、南のグワングワン、東のオオグ=ハン、少し旅するだけでも魔法体系は全く違う」

「それどの国も地図の外じゃないか、爺ちゃんの基準で考えないでほしいな」


 一般的な旅人が使っている世界地図には、今爺ちゃんが言った国は記されていない。爺ちゃんいわく、すぐ隣らしいがこの国の人間のほとんどが存在すら知らない遠い国々だ。


「まずは近場を回ってみたいな、俺はこの国どころかこの領地から出たこともないし」

「そうだのう、まずはそこからか」

「その前にお金の稼ぎ方を身につけないと、どこに行っても旅費を稼げるように」

「バズならどこに行っても食いっぱぐれることはないと思うがのう……」

「でも、まだディナやジルバード相手に5本に1本しか取れないし、シミュレーションでフィリプさんに勝ち越すこともできないし」

「えっ? あいつらに勝つことあんの?」

「うん」

「勝つのか、そりゃすごい」

「まだまだだよ、あの三人を相手にすると世界の広さを感じるね」


 それどころかシミュレーションとはいえフィリプさんはこの国の人間だ。同じ国の人間にすら負け越しているのに世界も何もないだろう。


「どうすっかのう」


 なんだか爺ちゃんが困ったような表情をしていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今日もジョンさんとフィリプさんが来ていた。オイノも来ていたので、オイノがゲームを見学している。


「この日の行動はこうだ」


 俺は伏せていた部隊でフィリプさんの部隊を分断する。


「うーむ、前日に強行軍したのが裏目に出たな」

 フィリプさんは長考に入った。今回は俺が勝ちそうだ。

「どう? オイノは今回の戦況どう見る?」

「……」

「オイノ?」

「あ、いや、ふむ、今回はバズ坊の勝ちのようだな」

「ここから采配ミスがなければね」


 フィリプさんが悔しそうな顔をしてそう言った。

 幻のミニチュア部隊は時間が動き出して勝利の歓声を上げるのを今か今かと待ち構えている。


 今回の一つの戦場を舞台にしたゲームは俺が無事勝利した。


「これは驚いた、完敗だね」

「やっと最近勝てることが多くなってきたよ」

「このゲームはリアルだな、兵の動きも本物としか思えないぞ」

「うん、フィリプさんの知識とリンクしてるからね」

「ふむ?」

「心術でフィリプさんの知識を参照して、戦闘結果に取り入れてるんだ」

「そんな微細な操作もできるのか」

「肉体的に再現できるものに限るけど相手の技術を一時的にコピーしたりもできるよ」

「ゲームでもフィリプの戦術経験をコピーして勝ったのか?」

「まさか、それじゃあ面白く無いじゃない」


 ゲームにズルしても仕方がないしね。


「本当か?」

「ああ本当だよ、バロウズくんの戦い方は私の戦術をベースにしつつもまた違う、だから心を読んでいるということもない。彼はシミュレーションの上では私と同等の指揮官といえるだろう」


 なぜかオイノはグルルと牙をむき出しにして唸った。俺は付き合いが長いから、この仕草は感嘆していると分かるが、初めて見た人は威嚇していると勘違いして怯えるだろう。


「バズ坊め、まったく俺はお前の将来が楽しみでならんよ」


 ガハハと笑うオイノは、俺の頭をぐしぐしと力強く撫でた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 リッチのエカヌスの書いた魔導書は実践的だ。研究者気質の爺ちゃんと違って、魔法をどう利用するかという視点で書かれているため、実用魔法を研究するときには、爺ちゃんの本よりも役に立つことがある。


「エカヌス、ここの理論式なんだけど、魔力を増やして第3項を第2項より大きくしたら成り立たなくなると思うんだけど」

「んー? ああそれね、たしかに指摘の通りよ、その場合は一つ魔法文字を付け足す必要があるわね。でも、そんな魔力持っている奴なんているのかしら」

「俺はいけると思うよ。第3項優位の時にこの理論式を前のページにあった魔法に適応すれば、効果範囲が単体から範囲に変えられるよね」

「無茶苦茶するわね、でもあなたの言うとおり、広範囲に作用する魔法に変わるはずよ」

「ありがとう、これを適応すればかなり多くの単体魔法を範囲魔法に変えられるよね」

「それはそうだけど、そんな魔法使ったら魔力切れ起こすでしょ」

「そうだね、無駄に連発しないようにしないと」

「え?」

「え?」


 エカヌスは干からびた顔を傾げて俺を見ていた。


「バズ、あなたこの範囲適応魔法、もし使うとして何回使えるの?」

「ベースとなる魔法効果によるけど、心縛(麻痺)なら二十回くらい?」

「……そう」


 エカヌスの口元がニィィと歪んだ。

 俺がしゃべるとみんなよく笑う。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ