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7 銃の系統 ~スクール・オブ・ザ・ガン~

 これで後一人。リーダー格の男のみ。魔導師と思われる杖を持った男と俺は相対した。


「魔法の機械弓……か? 最近の盗賊魔導師は変わったものを使うな」


 男はそう言って首を傾げながら鼻で笑った。

 盗賊魔導師とは、魔法戦士の俗称だ。魔法を極めようとせず、狡い使い方で生計を立てている者たちのことを言う。

 往々にしてそういった魔導師が冒険者や盗賊など、在野の仕事で生計を立てているのもこの俗称が広まっている原因だろう。でも人攫いの魔導師くずれに言われたくはない。

 相手のとの距離は60メートルほど。魔導師が“勝つ”間合いだ。


 有利ではなく勝つというのには理由がある。60メートルの差をつめるまでに魔導師は瞬間移動テレポートの魔法でゲートを開き、視線の届く範囲ならどの地点にでも移動できるからだ。

 これでどんなに走っても1分以上かかる地点まで移動すれば魔導師は負けない。


 なら弓矢で攻撃したらどうか?


 男の周囲、空気中にキラキラと輝く宝石のような結晶体がばらまかれた。


「ミサイルガード、これで矢弾は俺には届かない」


 空術によって召喚されたエネルギー体は物理的飛び道具を自動で迎撃する。どんなすぐれた射手でも、この呪文一つで防がれる。


 これが50メートル以上離れたら戦士に勝ち目がない理由の一つ。

 駆け出しの魔導師ですら濃厚な霧を召喚して自分の位置を隠す程度はできる。射撃戦で戦士が魔導師に勝つことは難しい。


 男は攻撃魔法の準備に入っている。俺は前に向かって走りながら魔法を使った。


「魔束射心縛」


 古流の呪文を唱えながら俺は左手の銃を構える。そして銃のシリンダーを一つ手前に戻す。つまり撃鉄の前には空の弾倉がある。当然引き金を引くと、カチンと金属音がして弾は発射されなかった。


「な、に……?」


 だがバタンと男はうつ伏せに倒れた。ガチンと歯が地面にあたった音がする、男は受け身を取ることもなく顔面から地面に激突していた。


「新流の魔法で言うところパラライズ・マインドだよ」


 パラライズ・マインドは心を麻痺させ、指先一つ動かすことすらできなくする心術の魔法だ。

 心術最大の欠点は、プロテクション・マインドというたった1つの防御術ですべて防がれてしまうことだ。だから魔導師同士の戦いでは、心術は役に立たないとされている。

 魔導師を相手にする鉄則であるさまざまな防御術を男は自分にかけていた。だから仲間がやられても、準備が整うまで後ろにいたのだ。


 その過信を撃つのが俺の戦術だ。

 魔法銃が銃に魔法の性質を与える技術なら、今使ったものは魔法に銃の性質を与える技術と言うべきだろう。

 銃の持つ鎧をも貫く貫通力を魔法に与え、防御魔法を貫通することができる。

 銃の性質を持つため、魔法は銃を起点としてしか発動できず、射線から外れることで物理的に避けることができるなど弱点は多少あるが、大抵の相手は心術に対して防御術で防げると思っている。

 だから、まずこの魔法を避けようとは思わないはずだ。そういう相手には、この技術は必殺の効果があった。

 この技術は銃を使った魔法なのだから銃魔法と言うべきか。俺はこの技術を「銃の系統スクール・オブ・ザ・ガン」と名付けた。

 火薬の力、古流魔法、魔法銃、銃の系統。この四つが俺の髪の毛一本動かせない欠陥魔導師である俺の戦い方だ。


 俺は銃をホルスターに仕舞った。人攫いなんて神族のディナや魔神のシルバードに比べたら大したことのない相手だ。油断はしてなかったが、予想通り楽に終わった。


 村に戻ると、娘たちの親が泣きながらお礼を言っていた。


「ありがとうございます! なんとお礼を言ったらいいか!」

「偶然居合わせただけだから」

「まさか凄腕の魔導師さまだったとは、これまでとんだご無礼を……」

「いやいや爺ちゃんに習ったことがたまたま役に立っただけだよ」

「どうかお名前を」


 助けた村娘の一人が目をキラキラさせてそう聞いてきた。名前はまずい。領主の息子なんてバレたら余計にややこしくなる。


「え、あ、名乗るほどのものじゃないさ」


 慌てて俺はその場から逃げ出す。


「あ、待ってください!」


 物陰に飛び込むとすぐに幻術を唱え透明になってこそこそ逃げ出した。最後にすごく恥ずかしいことを言った気がする。


「なんてことだ、一瞬で消え失せてしまった」

 村人たちは呆然としていたが、まあそのうち忘れるだろう。


 それよりも爺ちゃんに早く食べ物を届けないと不機嫌になってしまう。いたずらで北極圏へのゲートを開いて周囲の森に多大な迷惑をかけるとかやるかもしれない。

 俺は急いで帰路についた。


「ところでバズ」

「なに爺ちゃん」

「最近、ここらで名前も名乗らず人助けをしている少年がいるそうだ」

「へえ、奇特な人もいるんだね」

ちまたじゃ顔のない英雄なんて呼ばれているらしいぞ」

「……そう」


 やべえ恥ずかしい。

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