62 悪夢破りの二丁拳銃
じりじりと怪物が近づいてくる。
俺は魔法銃で応戦してみるが、ほとんどダメージが通らない。
極めて優秀な耐性を持っているらしい。、
さらに、
「精神を持たないか」
心術で探ってみたが、この怪物は精神機能を持っていない。
反射で動くロボットのようなものだ。
「物理も魔法銃も心術も効かない、となると幻術か」
俺は自分の不可視+幻影の魔法で本体は不可視、幻影は撹乱のために動きまわらせる作戦を取る。
だが怪物は幻影になんの反応もしない。
「なに!?」
まっすぐ俺に伸ばしてきた触手を危ういところでかわし、俺はまた間合いを取った。
「幻術破りができるのか」
だがこいつは知性を持たない。
知性を持たない生物に魔法は使えない。
俺は玉虫色の怪物の周りを回るように移動する。
ぎょろりと怪物の身体に浮かぶ目玉が俺を見た。
「……なるほど」
気がついた。怪物の目玉のうち、俺を見ているのは一部だ。
よく見ると、他の目玉と違い瞳の色が違い、他の目玉のように爆ぜて消えたりしない。
「あれに兄さんが言っていたような、俺の知らない概念の知覚能力があるのか」
知らない概念は幻を作ることができない。
そこを突いた幻術破りなのだろう。
「だったら……」
俺は触手から逃げまわりながら、銃撃を重ねる。
狙うは特別な目玉。
「バズ!」
「大丈夫だ! 離れていろ!」
パレアもナヴィも加勢したがっているが、相手が悪い。
下手に手を出して、狙われると危険だ。
弾が切れると、素早くシリンダーを取り替える。
俺が用意してあるシリンダーは6つ、俺の銃、レミントンM1858は簡単にシリンダーを取り外せる銃で、その速度はスピードローダー無しなら普通のリボルバーより速く装填できるくらいだ。
シリンダーに弾を込めることは戦闘中には不可能だろうが……弾切れになれば、ミリアのナイフでも投げるしかない。
だが目玉の数はすでに数えている。
その数、25個。シリンダー4つと1発分。
外さなければ十分に足りる。
目玉が少なくなるに連れ、あきらかに怪物の動きが鈍くなる。
俺の狙いは正しい!
「これで最後!」
俺は右手の拳銃の引き金を引いた。
放たれた銃弾が吸い込まれるようにして怪物の目玉を貫き、ついに怪物は幻影を見失う。
新しく湧きだす目玉には、特別な機能はないようだ。
よし、これで終わりだ!
「自在置幻壁!」
古流の呪文を唱えると、怪物はびくりと動きを止める。
怪物の身体がまるで圧縮されているかのように小さくなっていく。
怪物は苦しそうにもがくが、ギュウギュウと身体を縮め、やがて小さな丸い玉になってしまった。
「そんな馬鹿な?」
初めて兄さんの顔に焦りが生じた。
「野蛮人の武器やちんけな魔法で、模造品とはいえショゴスが倒せるはずが……」
「知性を持たない生物は幻術を破れない、反射で生きているんだ、目の前に壁が押し迫っているのなら壁に対して取るべき行動を取る」
「……まさか、幻術なんかで?」
「怪物は今自分の全身を分厚くどんな力でも破れない壁で押しつぶされている幻に囚われている、どんな強靭な肉体を持っていても、幻術破りの知覚機能を奪えば知性を持たない生物はそれで終わりだよ」
「…………」
「さて兄さん、本体のところに案内してもらおうか」
「断る」
俺は銃口を向けた。
「銃弾は俺の本体には届かないし、ここに心のない俺に心術も届かない。俺は勝てなかったが負けもしない」
「そうかな」
俺はもう一丁の銃も兄さんに向ける。
「何をするつもりだ」
「兄さんはこの世界の魔法を見下しているみたいだけど、魔法も大したもんだよ」
両手の魔法回路に魔力を流す。
タラスクを倒した魔法の合成。
「魔放射幻心支配」
例えここに本体がいなくても、カメラの向こう側にいたのだとしても、魔法の紋様という視覚情報を受け取った相手の脳に直接異常を引き起こす合成魔法。
「あ……」
気がついた時にはもう遅い。
次の瞬間には兄さんの表情から力が抜けていた。




