6 魔法銃 ~ウィザーズ・ガン~
魔導師と戦士。戦ったらどっちが強いか?
一対一。障害物がなく、足場もしっかりしていると仮定したら、50メートル以内であれば戦士が有利。それ以上間合いがあったら魔導師の圧勝。と言われている。
同格の戦士と相対した時、魔導師は平均30秒から1分程度で相手を戦闘不能に追い込むことができるとされる。優れた戦士は魔法による致命傷を下げる技術を身につけるようになり、強力な魔法も半減するようになるのだ。
だが戦士が魔導師を戦闘不能にするのは一瞬だ。武器が直撃すれば魔導師は一撃で倒れる。ほとんどの魔法は正確な狙いが付けられないのに対して、戦士の一撃は容赦なく急所を貫くものだ。近接戦闘では魔導師に勝ち目はない。
50メートルは1回魔法を使われる間に間合いを詰めて戦える距離だ。その間合いなら魔法は武術に劣る。
俺は、近隣の村で爺ちゃんが森で取った薬草と村の食料を交換してもらっている。
爺ちゃんから借りてきたマジックアイテム:ポータルバッグは容量が35キロを超えるまで異次元空間に仕舞えるというものだ。空術の使い手が自分でポータブルホールを開いて荷物を運ぶなら10倍くらいは確保できるのだが、誰でも使えるマジックアイテムだとこんなものだ。
袋一杯に小麦粉と豆を詰め込んだとき、なにやら騒ぎが起きていた。
「村外れに人攫いが出た! 5人の娘が攫われた!」
血相を変えた村人がそう叫んでいた。
「男たちはどうした!」
「今は畑だ! ここにいるやつらだけで追うぞ!」
「馬鹿! ここにいる10人そこそこでどうやって戦うんだ、人攫いには魔導師くずれもいるって話だぞ」
「じゃあ諦めろってのか……」
人攫いか……見過ごすのは気分悪いな。
「ちょっとその馬借りるよ」
俺は近くに繋いである農耕用のずんぐりとした馬にまたがった。
「おい坊主!?」
馬になんてまともに乗ったこともないし、さらこの馬には鞍がない。だけど、俺には魔法がある。
「選異心掌握」
古流の魔法は言葉の魔法だ。本来はルーン文字とか魔法の文字を使うが、実は意味のあることばであれば何でもいい。ただ文字数が少なく、そして意味が通じなくてはいけない。同じ文字に「喜び」と「悲しみ」のような大きく異なる二つの意味があると、古流魔法は不安定になるのだ。
その点、日本語の漢字は、種類も豊富で矛盾する意味が含まれていることは少ない。そして大量の漢字を有している。魔法のパターンは無数にある。
選異心掌握 。選は対象を選ぶ、異は精神、肉体構造の違う相手にも効果がある、心は精神に作用、そして掌握は対象を自分の支配下に置く効果。
つまり、選んだ人間とは異なる精神を持つ対象の心を支配する、という魔法だ。
精神を掌握したことで、馬は俺の思う通りに動く。本来なら身体を守るために脳から掛けられたリミッターを外し、農耕馬とは思えない速度で馬は走った。強化魔法が使えない俺の代替魔法だ。
人攫いの馬車に追いつくの時間はかからない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
パアアアンと銃声が響き一人の男が倒れた。銃口からのぼる白煙がゆらゆらと揺れている。
俺は馬車を不可視状態で奇襲し、すでに五人の人攫いを倒していた。
だがそこでリーダーと思われる魔導師が、インヴィジティパージの呪文を唱え、不可視の幻術を破った。幻術の弱点は技量に関係なく、幻術を打破する呪文が存在することだろう。
俺の目の前には三人の人攫いがいた。棍棒や斧を構えて、すぐにでも俺に向けて駆け出してきそうだ。距離は30メートル。戦士が有利な間合いだ。
人攫いが攫った人は別の国で奴隷として売られるはずだ。奥の幌付き荷馬車には縄で縛られた村娘たちの姿が見えた。
「おいガキ、てめえのような身なりの良いのは専門外だ、どっかいけ」
「やだね」
最初から遠距離戦を挑むという手もあったが、魔法で逃げられたら空術や占術が使えない俺では対応に手間がかかる。
飛びかかってきた三人に向けて左のホルスターから拳銃を引き抜いた。
魔力が左手に集まり、二丁目の拳銃に魔力回路が形成される。
「うわっ!?」
発射された一発の弾丸は1人に命中すると同時に激しい閃光をまき散らした。
目が眩んだ人攫いたちの動きが一瞬止まる。
そこに俺は右手から一発、左手から四発を発射。最初の一発も合わせると、それぞれ二発ずつを撃ちこんだことになる。
屈強な戦士であっても動きを止められ急所に弾丸を二発撃ち込まれたらもう動けなくなる。
これが限られた魔法しか使えない俺の戦術。
元々は魔法剣のための技術だ。あまり魔法が得意でない魔導師が使う技術で、一時的に武器や防具に魔法回路を刻み、魔法の武具のような効果を与える。
炎や雷を帯びた剣、硬度を増した鎧、魔法から身を守る盾などが一般的か。
爺ちゃんのポータブルホールのように、永続的な魔法の道具と違いすぐに刻めるのが利点だ。ただし持続時間は数分程度。
また効果は相手に命中した時に発動する。大抵の魔法は鎧では防げないが、魔法剣は鎧で防ぐことができる。これも魔法剣の弱点の一つだろう。魔法そのものに比べると威力も効果も低く、魔力に関係なく一定の効果しかない。
だが本人の魔力回路が未発達でも道具には自由に回路を刻めるというのが一番の利点だ。これなら俺でも他の系統の効果を銃に込めることができる。
俺が使えない系統の魔法は、この魔法銃の技術でフォローするというのが、系統制限に対する対策の一つだ。