56 超神話
「それで、俺たちのことは分かったけれど、肝心なことをまだ話していないぞ兄さん」
「もちろん、それもこれから話す。そうだな、今度は結論から先に話して、理由を説明するとしよう」
「で、兄さんは何を企んでいるんだ?」
「目的は世界征服、手段は真竜の殺害」
「は?」
世界征服? そんな昔ながらの悪役組織みたいなことを高度なエイリアンである兄さんが考えているのか?
「ここで作っているのは核融合を利用した爆弾とそれを運ぶロケットだ。あのような原始的な兵器に頼るのは不本意だがな」
「水爆!?」
「消滅爆弾や次元断殺爆弾のような兵器は製造するためのエネルギーを確保できないのだ」
「それで世界を?」
「試算では真竜でも殺傷できるはずだ」
自信ありげにブランドンは言う。
「そして真竜と共に各王国の都市を吹き飛ばし、俺の力を各国の王と魔導師達に見せつけることで、歯向かう意思をも失わせる。あとは信仰心でも利用して、この力をボクラグ神のモノとでも喧伝するかな。王権神授制の方が集権には都合がいいだろう」
「コスモポリタンとか言ってたわりには俗っぽい独裁者なんだな」
「いやいや、これはこの世界のためでもあるのだバズ」
「昔の俺のいた世界だと、民主制は独裁制より優れている感じだったぞ」
「この世界はそういうわけにはいかないな」
「どういう意味だ?」
「それには真竜の目的について話さなければならず、さらにこの世界の超神話について語らなければいけない」
「超神話?」
「さて、バズ、古代人とはなんだ?」
「亜竜がまず一つ。あと真竜を作った種族がいたと俺は考えている」
荒涼山脈の遺跡は亜竜が済むには小さすぎた。
それに亜竜は魔法に長けていたはずだが、あの遺跡は魔法に対する防御が存在していない。
パレアの魔法で簡単に扉が開いたのがその証拠だ。
つまり小人のような種族が別にいたはずだ。彼らが真竜を作った。俺の予想はこうだ。
「なかなか良い考察だ。現存する遺跡はその2つの種族によるもの。このアンダー・オブ・サルナスも、未知の種族、知性を持った蜘蛛によって作られた」
「蜘蛛!?」
「虫だよ、亜竜文明の発生から遡ること約10万年前に栄えた種族だ」
「なぜそれを知っている」
「ハワード・ヒースが収集している資料から得た情報だな。時間を超越するあいつは、この世界の置かれている状況についてほぼ正確に把握している。お前のように外を飛び回らなくとも、必要な情報は父さんが集めていたというわけさ」
相変わらず皮肉を交えてブランドンは話を続ける。
「真竜を作ったのは虫人類だ。しかし、なぜ真竜を作ったのかに言及するためには、さらに昔に存在した第三の種族……というと語弊があるな、彼らがこの世界で最初に知性を備えた生物なのだから、第一種族と言うべきだろう」
「何? さらに古代種族がいたのか?」
「ああ。海洋の軟体動物から進化した種族だ。彼らは十分に技術を発展させ、別の星系へと移住していったよ。およそ13万年前だな」
「それなら第一種族と第二種族である虫人類は接触しなかったんじゃないのか?」
「ああ接触しなかった」
「じゃあ真竜と第一種族は関係ないのでは?」
「いや、第一種族は直接的ではないにしろ、第二種族に致命的なダメージを与えていた」
「どういうことだ?」
「第一種族は、まぁ知性体としては若干平和主義なところはあれど、おおよそ平凡な種族だ。適度に戦争し、発展していった」
つまり俺たち人間と同じような暮らしだったということか。
それと真竜がどう関係する?
「バズ、ここは何だ?」
「鉱山」
「当たりだ。ここは第二種族虫人間が作った鉱山だ。では鉱山で採掘するのは何だ」
「鉱石や石炭……天然ウランもか」
「その通り。俺が作っている水爆も、この鉱山に残されていた僅かな鉱脈から見つけ出した天然の核燃料から作っているものだ」
「……話が見えないな」
「そうした地下資源はどうやって生成された?」
「確か……ウランは惑星誕生時に生成されるだったかな」
「つまり第一種族によって使われたウランは回復しないということだ」
「!」
「ウランだけじゃない、石油、石炭といった化石燃料も長い年月をかけて生き物の死体が分解され生成される。第一種族がこの世界の資源の大半を使い尽くして、別の星に移住し、第二種族が文明を持つまでたったの3万年だった。これは資源を再生成するのに全く足りなかった」
「じゃあ第二種族は」
「気がついた時には手遅れ。予想よりはるかにこの世界には資源が無いと分かり、資源の奪い合いによって破滅的な戦争を引き起こし絶滅した」
「なんだと……」
「最後に彼らは、次の種族が自分たちが見てきた地獄を見ないで済むように、十分な資源が生成されるまでの間、知的生命体が一定レベル以上の文明を発展させないように、また限られた土地から外に出ないよう1億年の間、世界をコントロールするための惑星級管理装置を作り上げた。それが真竜の正体なんだよ」
絶句するしかなかった。




