55 偉大なる種族
「どういう意味だ兄さん」
「そのままの意味だ、察するに君はバロウズ・ヒースではない、どこか別の世界の人間であるはずなんだが」
知っていたのか。しかしなぜ?
「沈黙は肯定とみなそう。バズ、今のお前の表情は、人間の感情に疎い俺でも理解できるな。不安と不審、そうだろう?」
「兄さんは何を知っているんだ?」
「実は俺もそうなんだよバズ、だから例えバズが本当にバロウズ・ヒースであったとしても、俺達は兄弟じゃない」
「えっ?」
まさか、兄さんも地球からの転生?
「この疑問に答える前に、もう1つ聞きたい。バズ、この世界に来る前のお前は精神交換の能力を有していたか?」
「精神交換……まさか、元々俺は魔法なんて使えない」
魔法はこの世界特有のものだ。
「ではなぜ君がここにいる。精神交換をできない君がこの世界に存在できる理由とはなんだ」
転生……というのは、理解できないことに対して知っていた単語を当てはめただけか。
なぜというところについては解明できなかった。
「君に理由がないなら、反対側、本物のバロウズ・ヒース、そしてブランドン・ヒースに理由があると考えるべきではないか?」
「本物の?」
「彼らは精神交換の能力を先天的に所有していた。また高度な知性も生まれつき有していたようだな。だからこの滅び行く世界から別の世界へ脱出した」
「…………」
「特別なのは俺たちじゃない、この身体に元々宿っていた精神の方なのさ」
「兄さん、あんた一体何者だ?」
ただの人間じゃない。このブランドン・ヒースの身体の中に入っているものは、もっと高度な存在だ。
「なんと言えばいいのやら、ユゴス人ということなるのだがそれでは伝わらないだろうな」
「ユゴス? 国なのか?」
「世界だよ、世界とは星々のことだ。それぞれの星で営まれるすべてが世界だ」
「地球ではないのか」
「チキュウ、現地語か。聞いたことがあるな。なるほど、君はあの星の住人か」
「つまり兄さんは、エイリアンか」
「それはふさわしい単語じゃないな、この場合は、我々どちらも異邦者だ」
頭痛がする。ニタニタ笑いながら話す兄さんの話は途方も無い話だった。
だけど俺にはそれを否定することができない。
「さて、次はなぜヒース家が特別なのかということだな」
「そうだ、俺の知る限り『視認している相手』でないと魔法は使えない」
「その通り、つまりブランドンとバロウズは魔導師ではなかったということだ。いや、魔法も使えたのかもしれないが、魔法を使ったという記録はない」
「……それはおかしい、この世界の住人にも精神交換の能力なんてものはない」
「だから特別なのさ。その原因はあのハワード・ヒース。我らが父上にある」
「父さんが?」
「まったく、あれほどヤクザな種族はいないな」
兄さんは吐き捨てるように言った。
「父さんもこの世界の人間じゃないのか」
「ああ、彼こそが元凶だ」
「なんだって?」
「ハワード・ヒースの中身は、ガガカカカ……人間の口では発音できないな、まあそんな気持ちの悪い名前を持つ、エイリアンの種族でな。こいつが精神交換能力を持って、本物のハワード・ヒースの身体を奪ったのさ」
「ガガ……?」
「忌々しいことに、やつらは宇宙のベールに包まれていた時間と空間の秘密を解き明かした。俺の元々の身体は宇宙空間を光速以上の速度で飛び回ることができたが、やつらは時間を飛び越え、銀河の果てから果てまで瞬く間に移動できる……精神のみだけどな」
想像もできないスケールだ。
「ゆえにやつらは、他の種族から恐れを持ってこう呼ばれる。『偉大なる種族』と」
「偉大なる種族」
「やつらのライフワークは知識の収集だ。あらゆる時間、場所に向けて精神を飛ばし、誰かの身体を乗っ取って、その世界の知識を収集する。本物のハワード・ヒースは偉大なる種族の都市で、知っていることを洗いざらい書かされているだろうな」
「そんな世界があるのか」
「そして稀なケースではあるが、偉大なる種族の精神が入った者が子を成したとき、その精神交換の才能が受け継がれることがある」
「……そうか」
これが俺がここにいる理由というわけか。
「俺たちはこの世界を押し付けられたんだ、まったく迷惑な話だな、バズ」
ブランドンは声を出して笑った。




