54 ブランドン・ヒースとバーグラーのミリア
人間の身体を複製する。
そんなことは俺の知っている魔法の知識を持ってしても不可能だ。
だが現に俺は見たじゃないか、あのサンダーランドの地下で。
作りかけのリア。あの光景が脳裏に浮かぶ。
それができるのなら、身体だけを複製する技術も不可能ではない。
そして意識は別の場所からリンクさせ、遠隔操作のロボットのように操る、
少なくとも兄さんの意識は本物だ。
他の人々は別の誰かが操っているのかもしれない。
となるとトパーズや本物の領主ターコイズはここに捕らえられていて、心術で記憶を吸いだされている可能性がある。
強度の高い幻術で俺たちの姿は物理的な手段ではどうやっても知覚できない状態にある。
それでもミリアの身のこなしはただものではない。
目の前にいるはずなのに、本当にそこにいるのか確信が持てなくなるほど、高度な忍びの技だった。
周囲では奴隷が働いている。
武装した魔導師と思われるやつらもいた。
彼らが監督兼侵入者対策なのだろう。
「何をしてるんだ?」
「武器を作っているようだね」
ミリアが言った。
「武器?」
「詳しくはわからないわ、警戒が厳重で先に進めないんだ。ただ強力な武器を作っているって話をしているのを聞いているの」
武器、隠れて作っているということは見られてはいけない武器ということか。
兄さんのいる部屋は程なくして見つかった。
迷わせるためのダンジョンではなく、機能性重視の配置だ。
どこに中枢があるのかは、少し調べていけばすべての部屋を総当りするまでもなく分かる。
ダンジョンの一番奥。
二人の警備兵によって守られた部屋に兄さんはいた。
警備兵は幻術で目も耳も奪っている。
どんな騒ぎが起ころうとも、警備兵は動けない。
俺の幻術は最高峰だ。
だが兄さんは俺たちが部屋に入るとテーブルから顔を上げた。
その顔には四角く分厚い暗視ゴーグルのようなものがついていた。
「やあバロウズ、よく来たね」
「兄さん」
ブランドン兄さんの後頭部には太いケーブルが接続されている。
しかし意に介した様子もなく、口元を歪ませて俺たちを歓迎した。
「光学的にも音波的にも熱的にも感知不能か、機械は反応しているのにそれを俺が認識できないというわけか。すさまじい幻術だな」
「でも俺たちが見えてるんでしょ?」
「並行確率論と空曲論はまだバロウズには未知の概念のようだな。そちらで検出できている」
さっぱり分からない。
その時ミリアが動いた。
火花が迸るかのような電光石火の抜き打ちでナイフを取り出し、兄さんに投げつけた。
急所を狙う、明確な殺意を持った一撃だ。
が、俺の抜いた右手の拳銃から放たれた銃弾が、空中でナイフを撃ち落とす。
兄さんも左手に握りこんだ丸い物体をミリアにかざした。
それも俺の左手の拳銃が弾き飛ばし、突起のあるその物体は地面に転がった。
俺は硝煙を吐き出す銃口を二人に向けたまま間に立った。
「バズ! こいつは生かしておくべきじゃない!」
「バロウズ、兄を殺そうとした相手だぞ、なぜ邪魔をする」
「それはこれから決める、兄さん、ミリア、一体何が起きているのが説明してくれ」
空気が凍りついたように沈黙する。
「ふぅ、分かったよ。全く、これだから人間という種族は理解できない」
ブランドンは肩をすくめた。
「俺から説明しよう、だがその前に確認しておきたいことがあるんだバズ」
兄さんははじめて俺のことをバズと呼んだ。
しかしそこには親しみの感情などありはしない。
兄さんの顔に浮かんだのは悪意。
「君は本当に俺の弟なのか? すなわち、バロウズ・ヒースであるか否かという意味だ」
俺の背中に冷たい汗が流れた。




