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53 夜盗のミリア

 ダンジョンを進み、ミリアの地図とダンジョンの造りを見ていると気がつくことがある。

 アンダー・オブ・サルナスには至る所にボルト(宝物庫)と呼ばれるエリアがある。

 数キロメートルにも広がる巨大な大広間となっており、そこには希少な素材となるモンスターやその卵、それを狙った冒険者の遺品、遺品を狙うスカベンジャーと呼ばれる盗賊の拠点、たまに無造作においてある貴金属の原石、そういったものが豊富にある場所だ。

 冒険者達はこのボルトを目指してダンジョンを進む。


 しかしボルトは元々何のためのものか?

 この壁は明らかに、何かによってくり抜かれたものだ。

 このダンジョンを作った誰なのか?

 その用途は?


「まっ、そう難しくはないか」

「どうしたの急に」

「洞窟の用途なんて限られている。ところどころの居住性を無視した巨大なボルトから用途なんて明らかだ」

「このダンジョンのことね、ボクラグ神の宮殿だったって説もあるけど」

「そんな神秘的なものじゃない、もっと分かりやすいものだよ」

「勿体ぶらないでよ」

「ここは鉱山だ、ボルトは鉱脈を掘った痕だろう」

「この巨大なダンジョンが鉱山? いくらなんでもこれを掘るのは無理じゃない?」

「作ったのは人間じゃないな」

「また古代人?」

「人じゃないと思うけどね」

「……今聞くと熱が出そう」

「じゃ、後で説明するよ」


 それに進めば分かることもあるだろう。

 こんなところで企みごとをする理由なんて、古代人絡みしかないのだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ダンジョンの奥に、ミリアはいた。

 黒い外套を着た、黒髪癖っ毛の女。

 リアの持っているランタンの光が眩しそうに、ミリアはブラウンの瞳を細めている。


「明かり無しか」


 見たところミリアは何も持っていない。


「久しぶり」

「ああ久しぶり、こんなところで調べ物?」

「興味があったのよ」


 真面目にウソを付く気も無いのか。


「ナヴィとは友人なんだって?」

「ええ昔からのね」

「…………」


 ナヴィは俺の一歩後ろで黙ったままだ。

 パレアは油断なくミリアとナヴィを見ている。

 柄に手がかけられており、いつでも抜き打ちで斬りかかれるように構えていた。

 もう少しさりげなくできないものかと俺は苦笑した。

 リアも警戒しているようだ。


「それで、大量の食料を運び込まれているのはここなのか?」

「間違いないわね」


 ミリアは断言した。


「何のために?」

「ここに沢山の奴隷がいるみたい、何か作業させているようね」

「沢山の? そんだけ人を集めたのなら噂の一つでも立ちそうなもんだけど」

「外から集めた人じゃなさそうよ」


 それは中から奴隷を補充しているということになる。


「……詳しいね」

「あたしも魔法が使えないからね」


 つまりこの中にも、サンダーランド王都で見たあれがあるというのか。


「ミリアはどこの人なんだ」

「根無し草の無法者アウトローよ、雇われればどこにだって味方する」

「俺を呼んだ理由は?」

「さすがにこの中は監視の目が厳しくてね、お得意の幻術で潜入の手伝いをして欲しいのさ」

「なんで俺がそんな手伝いを」

「この中にブランドン・ヒースがいるんだよ」

「兄さんなら屋敷にいたと思うけど?」

「いや、この中にいる。屋敷にいるのは偽物さ」

「そんな風には見え……いや、なるほど」


 俺は思い当たる。それならすべての辻褄があう。


「やはりあれは偽物ではないな」

「疑っているの? あたしが見たのは間違いなくブランドンよ」

「いや、それも正しい。どちらもブランドンだ」

「……どういうこと?」


 そういうことだったのか、だからあの屋敷の人間は全員、心術の魔法を受け付けなかったのだ。

 あいつらの脳はあそこに無かったのだ。

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