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47 ムナールの関

 俺たちは荒涼山脈を降り、サルナス家とヒース家の関係を探るべくムナールへと進む。

 山脈を降りれば再び生い茂った森が見え、サンダーランドの原生林へと戻ってきた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 角を生やした巨大な蜥蜴「ホーン・ドレイク」が鼻息を吹き出しながらまっすぐこちらへとつっこんできた。その姿は恐竜のトリケラトプスに近い。


「アンカリング・バレット」


 銃弾が頑丈なホーン・ドレイクの額に命中する。拳銃弾のパワーではあの巨体を止めることは普通できない。


『ギャアッッ!?』


 だがアンカリングの効果により弾丸は命中した後空中で静止する。

 岩石をも穿つホーン・ドレイクのパワーが額の一点に集中し、頭蓋骨を砕いた。

 骨を砕かれる痛みに恐竜は動きを止めた。


「魔束射心眠」


 三回、眠りの魔法を連射する。

 歳を重ねた獣は存外に強靭な精神力を持つもので、心術だけで突撃を食い止めるのは難しいのだ。

 俺は動きを止めた、モンスターにとどめをさした。


 リアとナヴィが器用にホーン・ドレイクを解体している。


「肉は厚みがあって美味しいらしいよ」


 本で読んだときはそう書いてあった。

 実際に食べたことはない。


「角は頑丈で素材として重宝するらしい、明後日には集落にたどり着くはずだからそこで保存食と交換する。肉は持てる分は残して自分たちで食べよう」


 今日からしばらく、食卓にはお肉が並ぶことになるだろう。


 荒涼山脈を降り、街道に戻ると獣たちは凶暴性を取り戻す。

 冷静にこちらの戦力を分析し、狩れると感じたら襲ってくるのだ。

 獣は未知の敵に対しては臆病だが、既知の敵に対しては大胆だった。


 久しぶりの人の住む場所だ。

 村人たちは珍しい旅人の到来に驚いていた。


「魔導師様、冒険者ギルドはありますのでそこをお使いいただければ」


「ありがとう、それと交換品のことなんだけど」

「はい、今肉屋に計量させております。しかしあのような大物を仕留めるとは、どのような罠を使ったのです? それとも魔導師様にとってはあれくらいは簡単なのでしょうか?」


 村人にとって、あのホーン・リザードは『狩れない』存在だったようだ。

 思ったよりもずっと多くの品物と交換することができ、消耗品の補充も十分だ。


「魔法というのはすごいものですね」


 村人たちはしきりに俺にそういった。


「魔導師でも簡単にできるわけないじゃない」


 隅っこの方でパレアが頭を抱えている。


「バズを基準にしたら次にこの村にくる魔導師が可愛そうだわ……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ムナール。サンダーランド国の隣国である王国。サルナスはその国境線沿いを預かる大領主だ。

 サンダーランドとムナールは戦争状態にあるわけではないが、友好的なわけではない。

 時折戦争を起こし、一時的に王権が相手国の貴族のモノになったりする。

 そのせいで、ムナールの臣下にしてサンダーランドの王というねじれた状態になることもあり、色々な屁理屈で権威を主張する貴族の家は少なくない。


 国境には関所があるが、山越えなどで抜けられることは日常茶飯事だ。

 国境線すべてを見張れるほど、お互いの国は裕福ではなかった。


「サルナス家への親書を届けるためにね」


 ジョンが用意してくれた名目がこれだ。

 中身はただのお互いの健康を願う程度のもので大したものではない。

 だが、中身を知らない者にとっては、どう映るか。


「失礼ながら、護衛の兵をつけることもできますが」


 関所を預かる老兵が言う。

 親書を運ぶのに、俺のパーティーは頼りないように見えるのだろう。


「大丈夫、これでも魔導師二人だからね」

「そうですか、差し出がましいことを言ってしまって申し訳ありません。何か我々にできることがありましたら遠慮なくおっしゃってください」

「そうだな、最近特にきな臭い噂とかはない?」

「人攫いの横行が激しくなっているという噂はありますね。あとはサルナス家への親書を出されるサンダーランドの貴族は少なくないとも申し上げておきます」

「ありがとう、貴重な情報だよ」

「お役に立てれば何よりです」


 外がなにやら騒がしい。窓から外を覗いてみると、関所の守兵とナヴィが弓を持って鹿を追い回している。


「ナヴィのやつ、珍しいな」


 やはり俺の前では意図的におとなしくしているのだろうな。


「平和ですな」


 老兵は目を細めた。


「もし戦になれば、この関はまっさきに燃え上がります。この程度の守兵で本隊を止めることはできませぬ」

「だろうね。俺も戦にならないことを願っているよ」

「ありがとうございます」


 彼は一介の守兵であり、政治に口を挟む権利はない。

 なんらかの特使であると思われている俺に対し、具体的な提案はできない。

 それでも願いを言わざるを得なかったのだろう。

 外から落胆の声が聞こえた、どうやら鹿は取り逃がしたらしい。


「ははっ」


 老兵は穏やかに笑っていた。

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