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46 真竜とは

 この遺跡は何かの意味のある施設だった。それは間違いない。

 だが……この遺跡を作ったのは少なくとも人間ではないはずだ。

 高さ1.8メートルほどの部屋。

 面積は数十平方メートルほどもあり十分広い。横の広さに対してアンバランスだ。

 それは人間の目線から見た場合だろう。

 目の前に置かれた鋭角の多い奇妙な装置は俺たちの身体に比べてずっと小さく、操作パネルも人間の指が扱うには細かすぎた。


「やっぱり小人が作った遺跡なんじゃないの?」


 この部屋は、もともとの住人にとっては十分な広さと高さのある部屋だったのだ。


「かもしれない、俺も知らない未知の小人が作った遺跡か」


 しかし、俺には妙に角ばった椅子のデザインや、ベッドがなくただ棒が並んでいた奇妙な部屋など、どうも人型でない種族が使っていたように思えていた。

 その時、ぶううんっと音がした。


「なんだ!?」

「ご、ごめんなさい、椅子に触れたら何か勝手に」


 パレアが慌てて言った。


「まだ装置が生きていたのか」


 俺はチカチカと点滅している装置に近寄る。


「ディスプレイかこれは」


 表示された画面には三角形のボタンが表示されている。

 また何か文字が次々に表示されていた。


「4進数?」


 画面の文字は4回変わるごとに桁が上がっている様子だ。


「ますます人間離れしてるな」


 俺は警戒しながら、画面のボタンに触れてみた。


『ザザザザザ』


 耳障りなノイズが周囲に流れる。


「誰!?」


 ナヴィが弓を構えるが、もちろん誰もいない。


「音が流れただけだ」

「音が?」

「それより……これは」


 画面に映し出されたのは溶岩の中の様子だった。

 そこには、鱗のない巨大な魚がじっとしていた。


「なんだこれは」


 まさか、これが嵐竜ジズなのか?

 背中には翼ではなく6枚の羽、虫の持っているそれのような形状の器官が生えている。

 その目はやはり複眼だ。


「ば、バズさん!」

「大丈夫だ、こいつは眠っている」

「違います! あれ!」

「え?」


 リアが指差したのは画面の端。俺は直感的に、画面のその部分に触れてみた。

 ぐっと画面が拡大され、そこにあったものが映しだされる。


「た、タラスク!?」


 そこには真竜タラスクが何十も並んでいた。


「つまり、これは……」


 竜は管理されていた。

 そういうことになるのではないだろうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 知的生命体を無差別に襲う竜。

 そんなものを管理する理由とはなんだろうか?


 竜は山の火口の中にいた。別の部屋も調べてみると、直接窓から竜が見える場所があったのだ。

 タラスクの格納庫と思われる部分も調べることができた。

 近くまでいくことはできなかったが、格納庫には空きが結構あることにも気がついた。


「少なくともここは竜を生産する設備はないみたいだな」

「生産って!?」

「竜は誰かが意図を持って作った、多分それは間違いない」

「命を作る? それじゃあここは神様がいたの?」

「……元々変だとは思っていた。知的生命体を狙って殺す生物なんて不条理だ。どのような進化をすればそんなひねくれた性質を獲得できる?」


 そうだ、はじめからおかしかった。

 だけど命を作れる存在には、高度な知性が必要だ。

 そんな存在がなぜ知的生命体を殺戮するための兵器を作る。

 自殺願望でもあるのか?

 頭の悪い環境論者のように、この星にとって知的生命体は害悪だ、みんな死ね! とか言い出したのか?

 この遺跡を作った種族はそんな狂人を許容できるようなどうしようもない狂人種族だったのか?


「そもそもなんで竜のような生物兵器なんだ、もっと効率的な使い捨ての兵器の方がいいんじゃないのか?」


 余計に竜のことがわからなくなった。

 荒涼山脈を降りながら、一匹のウサギが道を横切るのを見た。

 ウサギは俺たちを見ると慌てて逃げ出していった。

 あのウサギに比べて、竜のなんと不条理なことか。

 だが何か意図があるのは間違いない。

 その意図さえ分かれば、竜の脅威をなくすことができるはずだ。

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