40 王都サンダーランド
王都サンダーランド。
このサンダーランド王国の中枢。
とはいえ政策として領主たちが領地では殆どの権力を持つ封建制を取っているため、王都の権力はそれほど高くはない。
それでも、王は貴族の叙任権と派兵を命ずる権利を持つ。
王都は貴族の権力争いで重要な土地であった。
「これは……」
俺は絶句していた。
アクロポリスのような石とレンガの町を予想していた俺の目に飛び込んできたのは、丘の上に作られた、土がむき出しになった道の無い地面と木で作られた小屋が並ぶ、言ってしまえばみすぼらしい町だった。
「驚いたかい?」
ジョンが笑った。
「なんで、これが王都?」
「うん、そうだよ、これが王都サンダーランド」
「だってこれは」
「これがサンダーランドの現状だよ、サンダーランドだけじゃない、どの国もそうさ」
「屋敷じゃ、もっと豪華なものかと」
「貴族の屋敷は魔導師たちへのアピールだ。王都でも王城の中は随分立派なもんさ」
「……それじゃあこれは」
「見栄えを気にするのはそれだけさ、王都自体はどうでもいい。みんなそう思っているのさ」
アクロポリスの城壁のような立派なものじゃない、石を積み上げただけのような壁を抜けて先へ進む。
「納得出来ないかい?」
「うん、普通に考えたらおかしいじゃない。王族が住む町だ。家自体は多いし人口は十分。そのまま発展していくのが自然じゃないの?」
「なるほど不自然に見えるか」
「見える」
「ふふふ、そうだね、不自然だ。この惨状には他に理由がある」
「理由?」
「国家機密だからバズだけに教えよう、明日王城を案内するよ」
「分かった、楽しみにしておくよ」
理由……一体何があるというんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺たちは王城の側の王都にやってきた貴族達が泊まるゲストハウスで過ごすことになった。
「すごい……」
パレアが感嘆してため息を付いた。
高名な魔導師達も利用するためか、ゲストハウスはとても豪勢だ。
まばゆく輝く宝飾品で飾られた家具の数々、無警戒におかれた銀食器、壁には黄金細工の芸術品が飾られている。
「リア、そんな隅っこの方にいないでこっちへこい」
「だ、だって」
触れるのも恐ろしいといった様子でリアは部屋の角で体育座りをしていた。
「このベッド、すごいフカフカだぞ。羽毛を贅沢に使ってるな」
「うー」
「俺たちはゲストなんだ、ちゃんと使ってやらないと、これを作った職人達にも悪いってもんさ」
「分かった……」
リアは恐る恐るベッドに近づき……。
「わわっ!?」
俺は後ろからリアを抱きかかえると、ベッドに投げ飛ばした。
ぼふんとベッドが波打ち、目を白黒させたリアが固まっていた。
その様子を見たパレアが吹き出した。
「っ! もうバズ!」
その後、我慢できなくなったのか声を上げて笑い出した。
「あはは……もう、リアが困ってるじゃない」
「あの柔らかさは体験しないと、どうだリア、全然痛くなかっただろう」
「う、うん……」
動くとベッドが壊れてしまうと思っているのか、リアは固まっている。
「全く、そんなに怯えなくても」
「貴族のあなたや没落したとはいえ魔導師の娘だった私とは違うのよ」
「俺だってあんな部屋に住んでるんだぞ?」
「考え方が違うのよ」
「考え方ねぇ」
俺もベッドに身体を投げ出した。
「うひっ!?」
リアは奇声を上げた。固くなりすぎて壊れたロボットのような態勢になっている。
「ほら、横になれ、気持ちいいぞ」
俺はリアの服を引っ張った。
「う、うん……はぅ」
ベッドに身を預けたリアはふぅと息を吐いた。固かった身体から力がすっと抜けたのが俺にも分かった。
「よし、寝よう」
「ちょっと、まだ夕方でしょう」
「どうせやることないし」
「せっかくだし王都を歩いてみましょうよ」
「うーん、なんつうか村の代わり映えがしないから、アクロポリスのようなワクワクがない」
「昔の遺跡を利用している街いがいはどこもこんなものよ」
「何でなんだろうな」
「そう言われても、私からしたらそれが普通だもの。大体立派な街を作ったって真竜が破壊しちゃったら何にもならないでしょ?」
「……そうか」
「どうしたの?」
「この王都、農地と離れていたな」
「そうね」
「竜は知的生命体を優先して狙う。どの町も竜に破壊される可能性が常につきまとう。だから人間の居住地は重視されない」
アクロポリスとヒース家の屋敷も離れていた。
「大切なのは食料を生産する農地、そちらにリソースを割いて王都そのものは盗賊から保存してある農作物を守れる程度の機能があればいいのか」
ふむふむ、そういうことか。明日はジョンと答え合わせをしてみよう。




