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32 ミッションコンプリート

 人攫いたちはうつろな目をして馬に乗っている。また奴隷たちは人攫いの馬車に座っていた。

 あまり数は多くない、人攫いによると妨害してくる魔導師がいて集まりが悪くなっていたそうだ。

 どうやら俺のことらしい。


「それじゃあ俺についてこい」


 こくりと全員が頷いた。イブ家の魔導師だけは心術破りの「何か」があるかもしれず危険だからロープを縛り、口に猿轡をはめ、動きを封じている。

 洗脳魔法は結構骨が折れる。基本的に魔法で何かを変え続けることはできないのだ。維持するためには定期的に魔法をかけなおさなくてはいけない。

 だから現実を変容し、永続的な結果を生み出す力術や変容術は優れているとされる。魔法によって生み出した炎は消えても、魔法の炎で燃えたものは戻らない。魔法によって腐敗を取り除かれた肉は、魔法の効果が消えても新鮮な肉に変容したままだ、また時間が経って腐らない限りは。


「バズさん!」


 呼び止められて俺は馬から降りた。


「やあステフ、シャーリー、マリオン、それに村の皆さん」


 ずらりと並んだ村人たち。


「ありがとうございました」


 村人たちは頭を下げた。

 彼らは捧げるように金貨袋を俺に渡そうとする。


「これは?」

「あいつらから受け取っていたお金です」

「資金提供先を潰しちまったんだ、これから金に困るぞ」

「いいのです、元々お金のために従っていたのではありません、あいつらが怖かったから。それだけです」


 利という逃げ道を用意されると人間の意思は弱くなる。死んでもいいから反抗しようという気力が萎えるのだ。


「そうか、だがそれはもうすぐくる領主に渡すべきだ」

「えっ!?」

「領主がこいつらに気がついた。このままじゃ、戦いに巻き込まれていただろうし、こいつたちを庇っていたとしてこの村にも処分が下されるところだっただろう」

「そんな……」

「だがもう人攫いはいないし戦いもない、旅の冒険者によって人攫いは全員捕らえられたそう報告してくれ。何事もなかったとしても領主は派兵のための資金をこの村に供出するように言ってくるだろうからその金は必要だ」

「それではあなたは?」

「俺は別口の依頼があるからいいんだよ、馬をもらえただけで十分だ」


 報酬の二重取りはしない。俺は自分の依頼を果たしただけだ。

 まぁ、魔法の道具は全部回収してあるのだが。

 ただ魔法の道具から領主にこの人攫いの正体が確定する情報が出てくるかもしれないという懸念もあるから私欲だけではない。


「バズさん、いっちゃうの?」


 シャーリーだ。


「ああもう行くよ」

「まだちゃんとお礼もしていないのに、せめてもう一晩くらい泊まって行ったって」

「はやくこいつらを引き渡さないと何してくるかわからないからな」

「また来てくれるよね?」

「分からないな」


 俺は旅にでる。そうしたらこの村に来ることはなくなる。

 だから約束はできない。


「今度来た時はちゃんとした料理作るからさ」

「あたしもお料理できるんだよ!」


 マリオンとシャーリーがそれぞれ言った。


「だから、また来たらきっと良い思いができると思います。後悔はさせません」


 ステフがシャーリーの肩に触れながら最後に言った。


「……近くを通りかかったらね」


 俺は馬に再び乗った。


「じゃ、元気で」


 馬の横腹を蹴って歩き出す。


「バズさん!」


 背中から声が追ってきたが、俺は振り返ること無く進んで行った。

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