30 扉越しの矢弾
「起きたのかいシャーリー、ちょっと待ってな、もうすぐ夕飯できるから」
「あとでいい」
「あとでって……ちょっとどこに行くんだい」
シャーリーはまっすぐ外へ向かう。
「あ、あんた! その子をどうするつもりなんだい!」
外に出ようとするシャーリーを止めるわけでもなく、一緒に外に出ようとする俺に向かってマリオンは料理の手を止めて叫んだ。
「俺はどうもしない。シャーリーは自分の意志でママを助けに行く」
「それを止めるのが大人の役割だろう!」
「あいにく、俺もまだ子供だ」
シャーリーは力強く扉を開け放った。
外には誰もいない。
いや視線を感じる。数は二人。俺を見張っているのか。
シャーリーはまっすぐ進む。
「ママの場所は分かっているのか?」
「うん、あたしの家、あいつらがいるの」
「シャーリーの家、大きいのか?」
「あたしのパパはこの村の長だった」
「パパはどうした?」
「パパはあいつらのこと嫌いだった、そしたらパパはあいつらに酷いことされて……」
「そうか」
「みんなあいつらのこと嫌いなのに、誰も何も言わない。おかしいよ」
「そうだな」
「旅人さんもそう思うでしょ!」
「バズだ、俺の名前はバズ」
「じゃあバズ! バズもそう思うよね?」
「さて、俺はこの村の人たちみんなと話していないからね」
だけど。
「正しい行動するのは大変なんだ、大人は心からの嘘だってつけるようになるからね」
「心からの嘘?」
「楽しくなくたって笑えるようになるってことさ」
「分からない」
「そうだな」
影が動いた。キリリと弓を引く音が聞こえた。
「ギャッ!?」
銃声が二発。不意打ちするのは自分達の側だと油断していた二人は動かなかった。
動かない標的を撃つなんて造作も無い。
あらぬ方向に打ち出された矢は赤い線を描いた。
矢は炎に包まれている。魔法の弓、フレイム・ショートボウか。
魔法効果一つとはいえ、この武器一つの値段は軍馬十五頭と同じ。
この二人が盗賊の中でも精鋭で良い武器を持っていたか、それとも全員が魔法の武器を持っているのか。
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(おかしい、彼女の家と魔法銃が示す位置が一致しない)
シャーリーの後ろをついていきながら、俺は考えた。
このまま進むべきか。ステフはこの先にはいない。
「……いや」
動いた。二人とも少し距離が縮まった。
「なるほど、銃声で気がついたか」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
俺が気がついていることを相手は知らない。
さっきの二人と同じだ。
自分の思い通りに事が運んでいると思っているところを反撃する。
それが必殺の一撃になりえる。
シャーリーの家には灯が灯っていた。
村長の家だけあって大きい。中にどれだけいるのか外からは分からない。
中からはガヤガヤと声がする。一見中に人がいるように感じる。
「ママ……」
俺はあたりを見渡す。直ぐ側に納屋がある。
「あそこには何が?」
「農作業で使うクワとかスキが入ってる、武器とかは何もないよ」
「そうか」
俺は銃を抜いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ガンと扉が蹴破られた。
俺とシャーリーは人攫いどもによって奪われた家へと踏み込む。
玄関は広い作りになっている、目の前には階段があり、二階にも部屋があることがわかる。
風を切る音がした。
待ち構えていた男たちが次々に矢を放ったのだ。
炎の矢は吸い込まれるように俺とシャーリーに殺到する。俺たちは身じろぎもできない。
トントントンっと、乾いた音がした。
矢は俺たちの目の前で静止している。
「な、なんだ!?」
幻術で不可視にしていた納屋の扉が現れる。そこには燃え盛る矢が突き刺さっていた。
一瞬の隙。相手はこの扉に視線を集中し、動きを止めている。
俺は扉の裏から相手のいる位置に次々に連射した。銃弾の貫通力は納屋の扉くらい簡単に貫通する。
うめき声と人の倒れる音が人数分。
最後にバタンと納屋の扉が倒れて、あとには誰も言葉を発しなかった。




