3 パーカッションライフ
今日の訓練を終えた俺は、戻ると武器の整備をする。
肉体強化は変容術の系統であり、俺には使えない。だから武器には俺の前世の知識を使うことにした。
「夕飯食ってくじゃろ? 何か動物狩ってきてくれ」
「えー、たまには爺ちゃんが狩ってきてよ」
「だって狩りは飽きたし」
「はいはい……」
俺は武器を組み立てて腰に収めた。
幻術の系統、遮断の魔法で俺の姿は誰にも見えず、聞こえず、匂いもしない。感覚の鋭い動物ですら、俺の気配を察知することは不可能だ。
無防備に姿を晒している二羽の野鳥を見かけると、俺は腰のホルスターから武器を引き抜く。
木製のグリップ、黒鉄のフレーム、俺は親指で撃鉄を引き起こす。撃鉄が雷管を叩き、シリンダー内の黒色火薬を爆発させ、鉛の弾丸を発射する俺の世界の武器。
六連発パーカッションリボルバー。モデルは俺の好きだったライトノベルに登場した銃……のモデルガンを買おうとして間違って買ってしまったレミントンM1858アーミーという古いリボルバー拳銃だ。間違って買ってしまったものの、なかなかかっこいいデザインで、機構をじっくり調べたりしていた経験が役に立った。俺は爺ちゃんの手も借りて銃を製作し、俺の武器にしたのだった。
左右のホルスターに一丁ずつの二丁拳銃。金属薬莢を使わない拳銃なので戦いながらリロードは困難だ。
もっと近代的なリボルバー拳銃を作るという手もあったのだが、プレス機がないので弾丸を量産することができず断念した。
俺は銃を持った右手で狙いを定めて二発続けて撃った。シングルアクションのため撃鉄を親指で素早く引き起こすのがコツだ。
銃声も幻術で遮断されている。びりびりと草木が震えるが、なぜ震えているのか草木本人ですら分からないだろう。二羽の野鳥は何が起こったのかも分からずに撃ちぬかれて倒れた。
料理は俺も手伝うが爺ちゃんがメインでやる。狩りは嫌いだが料理をするのは楽しいらしい。
「よしできたぞ」
パンとシチュー、それに鳥のソテー。ソテーには柑橘系のソースがかかっている。裏庭で育てている果実から作ったものだろう。
「美味しい」
屋敷の料理と違って作りたてで温かいのもあるが、森の香草を知り尽くしている爺ちゃんの味付けの妙もある。長生きしているだけあって、爺ちゃんは色々なことを知っていた。俺には雑草にしか見えない炉端の草が、味付けのための材料になるそうだ。
パチパチとはぜる暖炉の側で、爺ちゃんが魔法について語る言葉を聞く。時折果実を絞ったジュースを飲みながら俺も意見をしてみる。爺ちゃんの豊富な魔法の知識はいつだって新しい発見があった。だけどもう外は暗い、時間だ。
「ごちそうさま、それじゃあ今日は戻るわ」
「そうか、じゃまた気が向いたら来い」
「明日も来るよ」
「そうか、じゃあ来い」
「うん、じゃあおやすみ」
俺は名残惜しさを感じながら、暖かい爺ちゃんの小屋を出て寒い屋敷へと戻っていった。