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23 出会いの日

 パレア、リア、ナヴィの三人が俺の前に並んでいる。今日は仕事を休ませ、俺が考えていたことを試してみることにしたのだ。


「今日はどうしたの?」

「ちょっと話したいことがあってね」


 パレアは少し不安そうだ。ナヴィはいつもと変わらないように見える。リアは……震えてる?


「ば、ば、バロウズ様!」

「ど、どうしたの?」

「私なにか悪いことしてたら謝りますから! 何でも言うこと聞きますから! 甘いものも我慢するし、苦しくても我慢しますから!」

「え? 何のこと?」

「だから、捨てないでください!」


 それから声を上げてリアは泣き出してしまった。

 いやいや何で?


「落ち着けリア、ほらお菓子あげるから」


 困った、俺はパレアを見ると、パレアの表情も硬い。


「……あー、違うぞ、別にそういう話しじゃなくてだな。というか何でそんな話しになってんだ?」

「この一週間、ナヴィと私たちの仕事ぶりを比べたらね」

「がんばりますから……お願いします……」


 なるほど、一緒に働き出してからナヴィの物覚えの良さや従順さに危機感を憶えたというわけか。


「リア」

「はい……」

「リアはちゃんと頑張っている、俺はしっかり見てるよ。いつもありがとう」

「でも、パレアお姉ちゃんが……」

「って、お前が原因かよ」

「だ、だって三日前からアナタいなかったじゃない! てっきり奴隷商人に私たちを返してナヴィの所有権と交換するんじゃないかって」

「そんな素振りはしなかったつもりだけどなぁ」

「私は心の中まで分からないもの、不安だったのよ」


 パレアは申し訳無さそうな表情をしている。それに不安はまだ消えてないらしい。リアの頭をなでてなだめようとしているようだが、その手からリアに不安が伝わっているような気さえする。

 パレアにはこういうところもあるのか。

 ナヴィは最初の位置から動いていない。状況はしっかり見ているようだが……。


「俺が新しい指示だしていないから?」

「はい、そこにいろと言われましたので」


 ナヴィはナヴィで扱い結構困ってるんだけどなぁ。二人には俺の心は見えないらしい。

 ……それが普通だ。



「あー、よし、まずは座ろう」


 とにかく落ち着かせるために、三人を俺のベッドに座らせた。人数分の椅子がないのだ。


「俺が考えていたのは奴隷の首輪についてだ」

「奴隷の首輪?」

「そう、この国の法律では奴隷には首輪の装着が義務付けられている。首輪にはマーシフルの魔法効果が付与されていて、制御キーを持ってコマンドワードを唱えると、激しい痛みが起きるようになっている」

「そうね、この首輪をつけられた最初に体験させられたわ」

「すごく痛かったです」

「私、それで息ができなくなって死んじゃうかと思った」

「後に残らない痛みではあるけど、リアにとっては危険だな。まあちょうどいい」


 俺は制御キーを持った。三人の顔が強張った。


「まずこいつはもう無効化してある。実験は成功した」

「え?」

「次はお前たちの首輪だ、少し貸してもらうぞ」

「どういうこと?」

「俺にはそんなもの必要ない、別の国にいったらその首輪も捨ててしまおう」


 俺は手早く首輪を取り外し、地面に置く。そして右のホルスターから拳銃を引き抜いた。


「トゥルーディスペリング・ガン」


 これまでとは違った魔法回路を刻み、銃床で一回ずつ首輪を叩く。


「この銃は叩いたものの魔法回路を取り除く」


 俺はその首輪を手に取ると、魔力を流した。痛みはない。

 制御キーを持ってコマンドワードを唱えても何も起きない。


「これで終了」


 俺は三人に首輪を返す。


「…………」

「ほれ、受け取れ。首輪が外せるようになるのはまだ先だ」

「よ、良かったぁ」


 リアは捨てられなかったと分かって安心している。だがナヴィとパレアは真剣な表情をしていた。


「どうして?」


 パレアが言う。


「何が?」

「心を中を読んだとしても当てにならないのよね?」

「読んでないけどな」

「だったら尚更、なんでこんなことするの?」

「迷惑だったか」

「違う! 嬉しいわよ!」

「だったら良いじゃないか」

「私は良いわよ、でも……」

「バロウズ様のことが心配なのです」


 ナヴィが言った。じっと俺の目を見つめている。


「奴隷が従順なのは奴隷の首輪があるからです」

「じゃあ今から俺のところを逃げ出すか?」

「私は別に……行くところもないし」

「バズさんのところが一番いい!」


 パレアとリアは即答した。


「そういうことを言っているのではありませんバロウズ様」

「じゃあどういうことだ」

「人は裏切ります、口先、態度そんなもの、いくらでも偽ります。昨日までは本心から親友だったとしても今日もそうであるか誰にも分かりません。バロウズ様の背中にナイフが突き立てられてからでは遅いと言っているのです」

「確かにそうだ、人の心は変わる」

「だからこのようなことはしないことをお勧めします。それもまだ出会って間もない私たち……奴隷を信用してくださるのは危険です」

「ふふ、なるほど、ナヴィはそう考えるわけだ」


 はじめてナヴィの心が見えた気がした。


「ナヴィの言うとおり、三人のことを俺はよく知らない。もし誰か俺に敵意を抱いていたとしても不思議じゃない。なんてったってこれまでは奴隷の首輪で脅して従わせていたんだから」

「わ、私はそんなつもりは無かったけど」

「実質はそうだよパレア。奴隷の首輪がある限り、俺に反抗するという選択肢すら無かった状態だったからね」

「…………」


 俺は一呼吸置いた。


「でも、それじゃあ俺は三人のことを信用できない」

「え?」

「ナイフを突きつけているやつから、俺はお前の味方だと言ったとして、それが信用できるか?」

「……信用できないわね」

「本当に相手を信用するためには、まずこちらから歩み寄らなくちゃいけない。お互い何にも縛られていない状態でも、お互いを信頼できるようにしなくちゃいけない。お互いに裏切られるリスクを同じように負う。例え貴族と奴隷であっても、まずはそこからだ」


 これまでいつも冷静だったナヴィの顔に初めて困惑の表情が浮かんだ。


「だから……あらためて、今後共よろしく、パレア、リア、ナヴィ」


 そう、ここからだ。信頼するも裏切るもここから。

 今日が三人との本当の出会いの日なのだ。

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