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17 冒険者のお仕事 後編

 村に戻り、奴隷商人に奴隷たちを引き渡す。

 商人は村長の家にいた。隣にはもじゃもじゃ眉毛の村長が座っている。


「一人足りませんね……」

「盗賊のアジトに乗り込んだ時にはもういなかったよ、盗賊に殺されたのかもね」

「そうですか」

「制御キーは、奪われて逃げられると奴隷たちを動かせなくなるから壊した。申し訳ない」

「いえ、妥当な判断でしょう。この村に首輪の解呪ができる魔導師はいないでしょうし」


 お腹の出た奴隷商人は仕方ないと首を振った。

 19人全員失うところを1人だけで済んだのだ。妥協すべき結果だろう。


「しかしたった2人で解決してしまうとは、最初本当に大丈夫だろうかと思っていましたが、私、感服いたしました」

「どうってことないぜ」


 デイブさんが横からそう言って胸を叩いた。そして、ちらりと隣にいる村長さんを見た。


「それで、どのように戦ったんですか? 相手は何人?」

「あ、いや、ええっと」

「相手は10人。一人はデミ・ドラゴンだった」


 俺が補足すると、デイブさんは激しくうなずいた。


「おぉ! まさか亜竜がいるとは。よく勝てましたな。二人とも凄腕なのですね」

「おうとも! 俺に任せとけば盗賊なんて敵じゃない」


 再びちらりと村長を見るデイブさん。


「何言ってんの、ほとんど俺が倒したじゃないか」


 俺がそう言うと、冷水をかけられたかのようにデイブさんが固まった。


「デイブさんに中の奴隷を逃がすよう頼んだのに、盗賊3人に手こずるしさ」

「そ、それはそうだけどよう……俺だってもうちょっと時間があればあいつらくらい倒せたよ」

「相手の方が勢いもあったし多分やられてたんじゃないかな」

「う、む……」

「自分より強い相手に粘る戦い方や、逃げない責任感は評価するけどね」


 デイブさんは顔を赤くして震えていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 この世界の夜空は綺麗だ。多分星の位置は地球のものとは全く違う。月も大きさがぜんぜん違った。

 でも、実はもう昔の夜空はもうあまり憶えていない。


 後ろから誰かが近づいてくる。


「何であんなことを言ったの」


 奴隷の一人、赤髪の少女だ。


「知ってるかもしれないけど俺はバズ」

「……パラボクレア」


 名前を名乗られたら名乗り返す。やっぱりそれが普通の会話だ。


「パレアでいいかな」

「ええ」


 パレアはじっと俺を見つめている。睨みつけているに近いかもしれない。


「確かにあなたは強いみたいだけど、何も仲間のメンツを潰さなくてもいいじゃない」

「メンツが潰れたの?」

「あのおじさん、顔真っ赤だったわよ、見てられなかった」

「それで、デイブさんは今何してる?」

「……さあ、村長の人と話しているみたいだけど」

「ならいい」

「何がいいのよ」

「これでいいんだよ、デイブさんはようやく冒険者を引退できる」

「どういう意味」

「こんな田舎で冒険者をやる人間は3種類。一つ目は腕試ししたい若い村人。二つ目は旅の途中の路銀稼ぎ」

「他にあるの?」

「それがデイブさん。三つ目は怪我をして自分を受け入れてくれる場所を探している冒険者だよ」

「受け入れてくれる場所?」

「デイブさんは怪我でまともに戦えない。でもずっと冒険者をやってきたから、帰る場所もないし働き口もない。職人にも商人にもなれない」

「……でも腕のたつ冒険者だったんでしょ? その技術を活かせば」

「そう、そこだよ」

「え?」

「デイブさんに求められていたのは腕っ節じゃない、豊富な経験、冷静な判断力、強い責任感、そして信頼できる人間性だ」


 デイブさんが思っている以上に、村長さんはデイブさんを見ていた。デイブさんが壊れて戦士としては使いものにならないことくらい百も承知だったんだ。でも、デイブさんの経験は本物だ。


「村長さんが知りたかったのはそこなんだ、自分より強い相手から生き残る戦い方、これが村人に教えて欲しい戦術。そして相手から逃げない責任感。デイブさんが信用できる人間かどうか、それが知りたかったんだ」


 あの場面、デイブさんは黙った。自分の方が正しいと口からでまかせを言うこと無く、黙って認めた。その誠実さを村長さんは高く評価していた。

 そうあの時の村長さんの顔は物語っていた。


「……あなたは」

「だけど、一つ分からないことがある」

「なに?」

「なんで君がデイブさんのことを気にしたかだ」

「変かしら?」

「他の奴隷たちはそんな素振りはなかった。主人の問題にいちいち口を突っ込むなって教育でもされてるんじゃないかな」

「……そうよ、私は素行が悪いから」

「そのようだね、でもそれは答えじゃない。なんでデイブさんのことを気にしたのか、俺が分からないことはその部分だよ」

「奴隷が他人を心配しちゃいけないの!?」


 パレアは小さな声で、しかし鋭く言った。


「いいや、それでいいさ。ありがとう、よく分かったよ」

「ごめんなさい……文句を言うつもりじゃなかったの。わかってる、私が間違ってる」


 パレアは肩を落として商人の元へと戻っていった。


「そうだね、これもキッカケかな」


 その背中を見送りながら、俺はある決意をしたのだった。

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