15 vs亜竜
盗賊の隠れ家に近づく。
俺の幻術で俺もデイブさんも不可視になっているはずだが、油断は禁物だ。木陰に隠れて様子を伺う。
小屋は粗末なもので、壁の壊れた部分から中の様子が見えた。
中で暴れたら小屋そのものが倒壊しそうだ。
奴隷たちは小屋の中のようだ。盗賊たちは3人が外で見張りをしていた。
盗賊は9人。思ったより多くはない。だが、一つ奇妙な人影が見えた。
「ありゃデミ・ドラゴンだな。しかも人型か」
ずんぐりとしたトカゲの身体に発達した両足と、足に比べたら短い腕。顔は細くワニに似ている。すらりとのびた細いしっぽは走るときはバランサーとして機能するらしい。その腕には恐ろしげなトゲのついた棍棒が握られていた。
ドラゴン……というより恐竜に近いと、俺は思う。身長は2メートルを超えるが、大型モンスターほどはでかくない。馬の方がよっぽどでかい。
デミ・ドラゴン、亜竜と呼ばれる彼らは知性の低い竜種……とされている。知性が低いといっても、それは他の知的生命体に比べたらという意味で、食料や居住地、雑貨での取引によって味方にすることもできる。
乱暴で、まともな軍では使われないが、強い兵が必要な戦場では傭兵として雇われていることも多い。
異形の原始人という感じだろうか? 俺からしたら竜というより恐竜のようにしか見えないが。
少なくともデミ・ドラゴンは頭一つ、手足が四つという原則から外れてはいない。
手と翼が同時にあるデミ・ドラゴンは知る限り存在しない。火を噴くことも、金銀財宝を集めることもしない。
もっとも、先天的に魔法の才能があるらしく。デミ・ドラゴンはみな強力な魔導師だ。モンスターのように訓練せずに魔法を使うものは、正確には妖術師と分類されるけど。こうして戦う分にはあまり違いはない。
「デミ・ドラゴンがいるなんて聞いてないぞ」
デイブさんがつぶやく。野生の戦士にして天性の妖術師。そりゃ尻込みする相手だ。
「どうするバズ、何か手はあるか?」
それでもデイブさんは逃げない。まずは可能性を検討する。ベテラン冒険者は一度受けた依頼に最善を尽くすものだ。村でそう若い冒険者たちに言っていたデイブさんは、自分の言ったことをしっかりと体現していた。
「外の盗賊とドラゴンは俺がやるよ、デイブさんは小屋の中の奴隷を守って」
「大丈夫か?」
「たぶんね、最悪デイブさんは奴隷の制御杖だけ奪って逃げて」
「……根拠の無い自信というわけじゃなさそうだな。分かった、外は任せた」
さて、相手はドラゴン。少しは骨のある相手になるかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「フレア・バレット」
撃ちだされた弾丸が激しい閃光を発した。
「うわっ!?」
外の盗賊はそれで目がくらんだ。騒ぎを聞きつけて外に出てきた盗賊にも一発。
「デイブさん、よろしく!」
俺は外に飛び出す。銃声を響かせながら連射し、不可視の襲撃者がこっちにいることをアピールする。その隙にデイブさんが小屋へ進む。
『ヨロロロロ!』
が、ドラゴンが棍棒を振り上げ奇妙な雄叫びを上げた。
「インヴィジティ・パージ!?」
不可視の魔法対策は万全というわけか。盗賊の中にも魔導師が混ざっているようで、魔法の態勢に入っている。
「ぎゃっ!?」
もちろん、魔法なんて使わせない。不意打ちの優位を活かして、魔法の準備をしているやつから撃ち倒す。
不意に、目の前が暗くなった。いや、デミ・ドラゴンが俺の頭上に跳躍したのだ。巨大な影が太陽を遮っている。
俺はすばやく後方に飛び退いて、一撃をかわす。
『アララララ』
デミ・ドラゴンの口が震えた。俺のうなじの辺りの産毛が逆立った。ジルバードとの訓練で何度も経験している。攻撃魔法の予兆。俺は左手の銃を上に放り投げた。これで左手がフリーに。
「レジストブレイク・バレット!」
右手の銃に残っているのは3発。シングルアクションリボルバーは、トリガーを引きっぱなしにすることで、撃鉄が常にフリーの発射状態になる。そのことを活かして、撃鉄に素早く手を叩きつけることで高速連射が可能になる!
銃声は一発にしか聞こえないが3発の弾丸が放たれている。付与した効果は呪文に対する抵抗力の低下。ドラゴンは呪文に対する抵抗力が高いと聞いている。
そして4発目、空のシリンダーで銃の系統を発動。
「魔束射心誤」
魔力が見えるやつならば、極彩色の魔力がデミ・ドラゴンを覆ったのが見えただろう。
強烈な轟音が周囲に響き渡る。周囲に複数の稲妻が落ち、外にいた盗賊たちが黒焦げになって吹き飛んだ。
「コールライトニングか」
同格の戦士ならいざしらず、ここの盗賊程度じゃ避けることは難しかったようだ。一発で全滅してしまった。
誤認の魔法によってデミ・ドラゴンは、わずか数十秒程度ではあるが、敵と味方の認識が反転してしまっている。こちらが攻撃しようとすれば簡単に解けてしまう魔法なのだが、見ての通り効果は絶大。
右手の銃をホルスターにしまい、落ちてきた左手の銃をキャッチ。
「ピアッシング×9、とっておきだ」
貫通効果9つ重ねがけ。それを至近距離から眉間に一発。鋼鉄の壁だって貫通する究極の徹甲弾だ。
デミ・ドラゴンは膝から倒れると、動かなくなった。